(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月23日17時45分
長崎県壱岐島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船大和丸 |
漁船武幸丸 |
総トン数 |
14.0トン |
4.9トン |
登録長 |
14.88メートル |
11.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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235キロワット |
漁船法馬力数 |
160 |
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3 事実の経過
大和丸は、沖合たい2そうごち網漁業に従事する、船体後部に操舵室を有するアルミ合金製漁船で、平成16年2月に一級、特殊及び特定資格の小型船舶操縦免許証の交付を受けたA受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同6月23日04時20分福岡県西浦漁港を発し、壱岐島北東方沖合の漁場で、たい等約1,300キログラムを漁獲したのち、17時00分魚釣埼灯台北東方の漁場を発進し、帰途に就いた。
A受審人は、漁場発進時から操舵室の左舷側の床に立った姿勢で、単独の操船に当たり、甲板員を船首甲板で漁獲物の選別作業に当たらせ、針路を153度(真方位、以下同じ。)に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、大和丸が12ノットの速力で航行すると船首が浮上し、操舵室の左舷側の床に立った姿勢では、船首尾線から左舷方約10度、右舷方約20度のそれぞれの範囲に水平線が見えなくなる死角を生じるので、同室の天井開口部から顔を出すなどして同死角を補う見張りが必要であった。
17時40分A受審人は、魚釣埼灯台から054度12.1海里の地点に達したとき、正船首方1.0海里のところに武幸丸が存在し、同船が錨泊中を示す形象物を表示していなかったものの、その後、その動静から同船が錨泊をしていることが分かり、同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることを判断できる状況であったが、漁場発進時から他船を認めなかったことから、付近に他船はいないだろうと思い、天井開口部から顔を出すなどして死角を補う見張りを行わず、また、レーダーを十分に監視していなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
こうして、大和丸は、原針路、原速力で進行中、17時45分魚釣埼灯台から059度11.9海里の地点において、その右舷船首部が武幸丸の左舷船首部に前方から27度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の西風が吹いていた。
A受審人は、衝撃により武幸丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、武幸丸は、いか一本つり漁業に従事する、前部甲板下に魚倉及び保冷庫を設備したFRP製漁船で、平成15年9月に一級、特殊及び特定資格の小型船舶操縦免許証の交付を受けたB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同16年6月23日15時40分長崎県芦辺漁港を発し、同漁港北東方の漁場に向かい、17時00分水深約80メートルの前示衝突地点で、左舷船首から重量62キログラムの鉄製錨を投入し、長さ4.5メートルのステンレス製チェーンと長さ約130メートル、直径2.5センチメートルの合成繊維索を錨索として使用して、黒色球形形象物を表示することなく、錨泊を開始した。
錨泊後、B受審人は、操業開始の準備として保冷庫に下半身を入れ、上半身を甲板上に出して船尾方を向いた姿勢で、魚箱に氷を移し替える作業を行っていたところ、17時40分自船が000度を向首しているとき、左舷船首27度1.0海里のところに、大和丸が存在し、その後同船が自船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かる状況であったが、自船が錨泊しているので他船が避航するものと思い、同作業に専念していて、周囲の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、大和丸に対し注意喚起信号を行わず、機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとらなかった。
B受審人は、17時44分頃大和丸の機関音を聞いたが、同船は遠いと思い、同作業を続行中、同時45分少し前同機関音が大きくなったので、背伸びをして振り返ったとき、左舷船首方至近に同船を初認して衝突の危険を感じ、保冷庫を飛び出したと同時に、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大和丸は、右舷船首部に軽度の凹損を生じ、武幸丸は、左舷船首部の損壊などを生じたが、後修理された。
(原因)
本件衝突は、壱岐島北東方沖合において、漁場から帰航中の大和丸が、見張り不十分で、前路で球形形象物を掲げずに錨泊中の武幸丸を避けなかったことによって発生したが、武幸丸が、見張り不十分で、大和丸に対し注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、壱岐島北東方沖合において、漁場から西浦漁港に向け帰航する場合、船首浮上による死角を生じていたから、前路で錨泊中の武幸丸を見落とさないよう、天井開口部から顔を出すなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁場発進時から他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、武幸丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷船首部に凹損を生じ、武幸丸の左舷船首部に損壊などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、壱岐島北東方沖合において、操業のため錨泊する場合、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する大和丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船が錨泊しているので他船が避航するものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大和丸に気付かず、同船に対し注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま、錨泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。