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平成16年門審第97号
件名

漁船第2幸洋丸モーターボートサブ号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫、千手末年、長谷川峯清)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第2幸洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:サブ号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第2幸洋丸・・・左舷船首外板に擦過傷
サブ号・・・左舷船尾を破損、左舷外板に亀裂、船長が頸部捻挫等、同乗者1人が右肋骨多発骨折等を負傷

原因
第2幸洋丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
サブ号・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2幸洋丸が、見張り不十分で、錨泊中のサブ号を避けなかったことによって発生したが、サブ号が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月26日14時02分
 唐津湾東部海域
 (北緯33度32.7分 東経130度06.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第2幸洋丸 モーターボートサブ号
総トン数 14.56トン  
登録長 14.95メートル 4.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 90  
出力   36キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第2幸洋丸
 第2幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)は、昭和54年4月に進水し、ひき網漁業に従事するFRP製漁船で、船体後部に操舵室を有し、同室には前面中央部に舵輪があり、その前方の棚には中央にレーダー、左舷側に機関操作レバー、また、同室後部にはGPSプロッタ及び魚群探知機などが設置されていた。
 幸洋丸は、速力が10ノットを超えると、船首が浮上し、操船者が操舵室右舷側の高さ45センチメートルの椅子に腰を掛けた姿勢で見張りをすると右舷船首10度ないし左舷船首20度の間に死角が生じることから、操舵室天井に開口部が設けられていたが、風防がなく、時化のときには使用が困難な状況であった。
イ サブ号
 サブ号は、昭和63年5月に第1回定期検査を受けた限定沿海区域を航行区域とする最大搭載人員6人のFRP製モーターボートで、船体前部右舷側に操縦席が、同席後方の船体中央部にいけすが、船尾部左右両舷に燃料タンク等の物入れがそれぞれ設けられた構造となっていた。
 操縦席前面の船体中央部には、マスト灯が取り付けられた海面上の高さ約2.5メートルのマストが設置され、錨泊時には所定の形象物を掲げることができるようになっていた。同船は、汽笛装置が設備されていなかったうえ、有効な音響による信号を行うことができる手段も講じられていなかった。

3 事実の経過
 幸洋丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、いかかご漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成16年3月26日06時00分福岡県船越漁港を発し、同県姫島から烏帽子島にかけての漁場に向かい、07時00分に到着して操業を始めた。
 A受審人は、コウイカ約100キログラムを漁獲して操業を切り上げ、13時39分筑前姫島港東防波堤灯台から019度(真方位、以下同じ。)1,900メートルの地点を発進し、針路を福岡県鷺ノ首の南西方沖合に向く130度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分2,000のところ1,500にかけ、8.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、折からの強い北北東風によって左舷方から横波を受けて波しぶきが上がる状況のもと、手動操舵によって進行した。
 ところで、A受審人は、平素、船首浮上による死角を補う見張りを行うために舵輪前方の棚の上に立ち上がって操舵室天井の開口部から上半身を出したり、船首を左右に振るなどしていた。
 13時51分A受審人は、筑前ノー瀬灯標から220度410メートルの地点に至ったとき、陸地の風陰に入って波が小さくなったことから、機関を回転数毎分1,800ないし1,900に上げて10.0ノットに増速したところ、船首が浮上して死角が生じる状況となったが、増速によって再び波しぶきを受け始めたために海水が操舵室内に入らないよう風防のない同室天井の開口部を閉鎖し、船体の左右の揺れが大きく腰痛気味であったことから、腰に負担がかからないよう同室右舷側の椅子に腰を掛け、同じ針路で進行した。
 13時59分A受審人は、筑前船越港西防波堤灯台(以下「船越灯台」という。)から254度1,940メートルの地点に差し掛かったとき、正船首方930メートルのところにサブ号を視認することができ、その後、錨泊中を示す形象物を表示していなかったものの、船首から錨索を伸ばし、船首を風上に向けて移動していない状況から錨泊していることが分かる状況となったが、当日の朝、時化模様のため船越漁港の5トン級の漁船が出漁を取り止めていたことでもあり、小型の釣り船なども出港していないだろうから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま、同じ針路、速力で進行した。
 14時01分A受審人は、船越灯台から236度1,670メートルの地点に達したとき、サブ号が正船首方310メートルのところにおり、その後、衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、依然、死角を補う見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、同船を避けずに続航中、14時02分船越灯台から226度1,610メートルの地点において、幸洋丸は、原針路、原速力のまま、その船首がサブ号の左舷船尾部に前方から78度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 また、サブ号は、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じないまま、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日09時00分福岡県加布里漁港を発し、鷺ノ首沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、09時45分鷺ノ首北方沖合の釣り場に至り、錨泊して竿釣りを始めたが、釣果が良くなかったことから釣り場を変えることとし、11時00分鷺ノ首南西方沖合に向けて発進し、同時10分水深10メートルの前示衝突地点付近に移動し、船首から重さ5キログラムの錨を投じて直径8ミリメートルの合成繊維製の錨索を約20メートル繰り出して船首部のクリートに係止し、同地点が福岡県加布里港の港内から出入港する漁船などが通常航行する水域であったものの、錨泊中であることを示す形象物を表示せず、機関を停止して船外機をチルトダウンとしたままイグニッションキーを差し込んだ状態で錨泊し、釣りを再開した。
 14時01分B受審人は、折からの北北東風によって船首が028度を向いていたとき、いけすの蓋の上に腰を掛け、左舷方を向いた姿勢で釣りをしていたところ、右舷方を向いて釣りをしていた同乗者の1人から姫島の方から接近する漁船がいるとの知らせを聞き、左舷船首78度310メートルのところに、自船に向首して接近する幸洋丸を初めて視認し、その後同船が自船に向首したまま、衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、同船のレーダーが回っていたことから、近づけば自船に気付いて避けてくれるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、有効な音響による信号のできる設備を講じていなかったので、注意喚起信号を行わず、さらに接近したときに錨索を解き放ち、機関を始動して移動するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく、その後下を向いて餌の付け替えを行いながら錨泊を続けた。
 14時02分少しB受審人は、ふと顔を上げたとき、至近に迫った幸洋丸に気付き、衝突の危険を感じ、キャビンの上に立って大声を発し、右手を振って避航を促す合図を送ったものの効なく、船首が028度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸洋丸は、左舷船首外板に擦過傷を、サブ号は、左舷船尾を破損したほか左舷外板に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人が頸部捻挫等を、サブ号の同乗者1人が右肋骨多発骨折等を負うに至った。

(本件発生に至る事由)
1 幸洋丸
(1)航走中に船首浮上による死角が生じる状況にあったこと
(2)操舵室天井の開口部に風防が設けられていなかったこと
(3)横波を受けて波しぶきが上がる状況であったこと
(4)A受審人が、腰痛気味のため椅子に腰を掛けていたこと
(5)A受審人が、時化模様のため小型船は出港しないから前路に他船はいないと思ったこと
(6)A受審人が、死角を補う見張りを行っていなかったこと
(7)A受審人が、サブ号を避けなかったこと
2 サブ号
(1)有効な音響による信号を行うことのできる手段が講じられていなかったこと
(2)B受審人が、錨泊中を示す形象物を表示しなかったこと。
(3)B受審人が、同乗者の見張りに依存していたこと
(4)B受審人が、動静監視を十分に行わなかったこと
(5)B受審人が、注意喚起信号を行わなかったこと
(6)B受審人が、衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は、帰航中の幸洋丸が、前路で錨泊中のサブ号に向首接近して衝突したものである。
 幸洋丸が、死角を補う見張りを十分に行っていれば、錨泊中のサブ号を視認でき、同船を容易に避けることができたものと認められる。
 したがって、A受審人が死角を補う見張りを行っていなかったこと及びサブ号を避けなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人は、10ノットの速力で航行し、船首方に死角が生じていたから、死角を補う見張りを十分に行うべき状況にあった。同受審人が、死角を補う見張りを十分に行わなかった理由として、当時、時化模様のため小型船は出港しないから前路に他船はいないと思ったこと、風防が設けられていない操舵室天井の開口部から見張りを行うことは、横波を受けて波しぶきが上がる状況のため困難であったこと及び腰痛気味のため椅子に腰を掛けていたことを挙げている。しかし、当時、沖合が時化模様であっても鷺ノ首付近の海域は、陸地の風陰になることから釣り船の存在が予想でき、また、天井開口部から上半身を出すまでもなく、船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを十分に行うことになんら支障はないのであるから、時化模様のときでも小型船の存在には十分に注意を払い、その時の状況に適した他のすべての手段により常時適切な見張りを行わなければならない。
 一方、サブ号は、自船に向首して接近する幸洋丸を認めていたのであるから、継続して同船の動静監視を十分に行うことにより、避航の様子がないまま接近する同船に対し、早期に注意喚起信号を行うとともに、さらに接近したときに機関を始動して衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 したがって、B受審人が、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかったこと、動静監視を十分に行わなかったこと、注意喚起信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が、船舶が通常航行する水域と認められる鷺ノ首沖合において、錨泊中の船舶が表示しなければならない形象物を掲げなかったこと及び同乗者の見張りに依存して自ら十分な見張りを行わなかったことは、いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは、海難防止の観点から是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、唐津湾東部海域において、漁場から帰航中の幸洋丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のサブ号を避けなかったことによって発生したが、サブ号が、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じず、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、唐津湾東部海域において、漁場から船越漁港に帰航する場合、操舵室右舷側の椅子に腰を掛けると、船首右舷から左舷にかけて広い範囲に死角が生じる状況であったから、船首を左右に振るなどして、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、時化模様のため船越漁港の小型漁船が出漁を取り止めていたことでもあり、釣り船なども出港していないだろうから、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のサブ号に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、幸洋丸の左舷船首外板に擦過傷を、サブ号の左舷船尾に破損及び同舷外板に亀裂を生じさせ、B受審人に頸部捻挫等を、同乗者1人に右肋骨多発骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、唐津湾東部海域において、釣りのため錨泊中、帰航する幸洋丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、幸洋丸のレーダーが回っていたことから、まもなく自船に気付いて避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、有効な音響による信号を行うことのできる手段を講じていなかったことから、注意喚起信号を行わず、さらに接近しても機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて幸洋丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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