(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月21日18時21分
長崎県対馬市比田勝港北東方沖合
(北緯34度43.8分 東経129度41.5分)
2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 |
漁船第一漁盛丸 |
油送船ウースン |
総トン数 |
16トン |
996トン |
全長 |
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81.00メートル |
登録長 |
16.66メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
1,471キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第一漁盛丸
第一漁盛丸(以下「漁盛丸」という。)は、昭和63年11月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央やや後方に操舵室を、その下部に機関室を、船首と操舵室上部に航海灯用のマストを、最後部にスパンカ用のマストを有する構造で、操舵室中央に舵輪が、舵輪の右後方にレーダーが、その上にGPSがそれぞれ備えられていた。
イ ウースン
ウースン(以下「ウ号」という。)は、1984年11月に建造された船尾船橋型の鋼製油送船で、船橋の下に居住区を、その下部に機関室を、その前方に左右に分かれた1番から5番までの貨物油槽を有する構造で、航海計器として、アルパ付きレーダー2基、GPS、音響測深機、ドップラーログが備えられていた。
3 事実の経過
漁盛丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、いか釣り漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成16年3月21日15時50分長崎県対馬市豊玉町曽を発し、比田勝港北東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、15時57分対馬長崎鼻灯台から000度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点で針路を038度に定め、機関回転数を毎分1,400として10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、舵輪の後方に立ち、自動操舵により進行した。
18時14分A受審人は、目的の漁場まで2海里ばかりの、舌埼灯台から078度9.3海里の地点に達したとき、右舷船首46度1.8海里のところにウ号をレーダー及び肉眼で初めて認めたが、一瞥(いちべつ)しただけで、間もなく漁場に着くのでもう少し様子を見てから対応しようと思い、その後、船首少し左舷側から左舷正横にかけて存在する数隻のいか釣り漁船の展開模様に気をとられ、いつしかウ号の存在を失念したまま続航した。
A受審人は、その後、ウ号との方位に変化がなく、互いに衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然としていか釣り漁船の展開模様に気をとられ、同船に対する動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま、同じ針路及び速力で進行中、18時21分舌埼灯台から073度10.2海里の地点において、漁盛丸は、原針路、原速力のまま、その船首がウ号の左舷中央部に後方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、視界は良好で、潮候は上潮の中央期であった。
また、ウ号は、一等航海士Bほか10人が乗り組み、潤滑油1,927トンを積載し、船首3.8メートル船尾5.2メートルの喫水をもって、同月19日20時30分四日市港を発し、釜山港に向かった。
B一等航海士は、翌々21日15時40分沖ノ島北方約12海里のところで、二等航海士から船橋当直を引き継ぎ、前直に引き続き針路を306度に定めて11.1ノットの速力で、操舵手を見張りにつけて自動操舵のまま進行し、18時10分舌埼灯台から081度11.5海里の地点で、左舷船首42度2.8海里のところに漁盛丸を初認した。
18時14分B一等航海士は、舌埼灯台から079度11.0海里の地点に達したとき、漁盛丸を左舷船首42度1.8海里のところに見るようになり、その後、同船の方位がほとんど変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、操舵手に命じて手動操舵に切り替えた。
18時19分B一等航海士は、漁盛丸の動静を見守っていたところ、同船が自船の進路を避けずに接近することを知り、警告信号を吹鳴したものの、同船に避航の気配が認められないまま間近に接近したが、小型漁船が至近で避航することがよくあったことから、そのうち避けてくれるものと思い、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとらずに同じ針路及び速力で続航した。
18時20分半少し過ぎB一等航海士は、漁盛丸が至近に迫って危険を感じ、機関を停止して右舵一杯としたが、効なく、ウ号は右転中、330度を向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、漁盛丸は、球状船首が脱落し、ウ号は、左舷中央部外板に擦過傷等を生じたが、のち、いずれも修理された。
(航法の適用)
本件衝突は、長崎県対馬市比田勝港北東方沖合において、北上中の漁盛丸と西行中のウ号とが衝突したものであり、同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから、一般法である海上衝突予防法によって律することになる。
本件は、互いに他の船舶の視野の内にある2隻の動力船が、互いに進路を横切り衝突するおそれがある態勢で接近する場合であったから、海上衝突予防法第15条で律することとなる。
(本件発生に至る事由)
1 漁盛丸
(1)漁盛丸の船首少し左舷側から左舷正横にかけて数隻のいか釣り漁船が存在し、A受審人がこれらの展開模様に気をとられていたこと
(2)ウ号に対する動静監視を行わなかったこと
(3)ウ号を避けなかったこと
2 ウ号
衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
1 漁盛丸
漁盛丸は、海上衝突予防法第15条により、避航船の立場にあったから、ウ号の進路を避けなければならなかった。漁盛丸が、右舷船首方に前路を左方に横切る態勢のウ号を視認したのであるから、その後動静監視を行っていれば、衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることが分かり、余裕を持ってこれを避けることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。従って、漁盛丸の船長が、ウ号の動静監視を行わなかったこと及び同船を避けなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
漁盛丸の船首少し左舷側から左舷正横にかけて数隻のいか釣り漁船が存在し、A受審人がこれらの展開模様に気をとられていたことは、ウ号に対する動静監視が不十分となった理由となるものの、本件発生と相当性のある因果関係はなく、原因とするまでもない。しかし、今後、この経験を生かし動静監視の重要性について十分に認識し、周囲の漁船の展開模様に気をとられて動静監視不十分とならないよう留意することが肝要である。
2 ウ号
ウ号は、保持船の立場にあったから、漁盛丸に対し、警告信号を行い、さらに間近に接近して同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたときには、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。従って、ウ号が、漁盛丸が避航する気配を見せないまま、衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることを認め、同船に対して警告信号を行ったものの、依然、避航する気配を見せず、さらに間近に接近するのを知ったのであるから、このとき、衝突を避けるための協力動作をとることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。従って、ウ号の一等航海士が衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は、比田勝港北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近した際、北上中の漁盛丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るウ号の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中のウ号が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、比田勝港北東方沖合を北上中、前路を左方に横切るウ号を認めた場合、衝突の有無を判断できるよう、同船との方位変化を見守るなどしてその動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首少し左舷側から左舷正横にかけて存在するいか釣り漁船の展開に気をとられ、ウ号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ウ号と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、自船の球状船首を脱落させ、ウ号の左舷中央部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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