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平成16年広審第93号
件名

モーターボート廿小138モーターボート福寿丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月14日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、米原健一、佐野映一)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:廿小138船長 海技免許: 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:福寿丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
廿小138・・・船首部右舷外板に破口
福寿丸・・・船首部右舷外板に亀裂など、船長が右腰背部打撲傷の負傷

原因
廿小138・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
福寿丸・・・見張り不十分、音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、廿小138が、動静監視不十分で、形象物を掲げないまま錨泊中の福寿丸を避けなかったことによって発生したが、福寿丸が、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月5日07時40分
 広島湾奈佐美瀬戸
 (北緯34度15.9分 東経132度22.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート廿小138 モーターボート福寿丸
全長 10.08メートル 7.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 86キロワット 26キロワット
(2)設備及び性能等
ア 廿小138
(ア)船体構造等
 廿小138(以下「廿小」という。)は、FRP製モーターボートで、船体後部に操舵室を配置し、同室前側中央部と同室右舷後部外側に舵輪を備え、自動操舵装置は設備していなかった。
(イ)操舵位置からの見通し状況
 A受審人は、専ら操舵室右舷後部外側の舵輪後方に立って操舵に当たっており、同室天井は同人の胸くらいの高さで、同操舵位置上方には山型のオーニングが展張されており、前方は同室天井とオーニングの間から見張りができたが、左右舷側のオーニングは眼高より低くなっていたので、体を低くして見張りを行う必要があった。
イ 福寿丸
(ア)船体構造等
 福寿丸は、平成3年12月に進水したFRP製モーターボートで、船体中央部に操舵室を配置し、同室前側に舵輪、クラッチ及び増減速用各レバーを備え、機関はキーを右側に回せば数秒で始動するようになっており、錨索は化学繊維製で、長さは約100メートル、直径は約1.5センチメートルであった。
(イ)見通し状況
 B受審人は、航走中には舵輪後方のいすに腰掛けて操舵に当たっており、周囲の見張りに妨げとなるものはなく、魚釣りを行っているときには右舷船尾部に座っているので、右舷側及び船尾側の見張りには支障はなかったが、船首側及び左舷側は操舵室によって死角が生じるので、立ち上がって見張りを行う必要があった。

3 事実の経過
 廿小は、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、友人6人を乗せ、船首0.20メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、平成16年6月5日06時17分広島港を発し、広島湾西能美島西方沖合の釣り場に向かった。
 06時54分A受審人は、ドウゲン石灯標から183度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点で、針路を奈佐美瀬戸に向首する242度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけて5.3ノットの対地速力で、操舵室右舷後部外側の舵輪後方に立って操舵に当たりながら進行した。
 07時29分A受審人は、前方1海里ばかりの奈佐美瀬戸に停留して魚釣りをしているプレジャーボート数隻を視認するようになり、同時38分中ノ瀬灯標から146度700メートルの地点に達したとき、船首方330メートルのところに形象物を掲げないまま錨泊して停留状態に見える福寿丸を初めて視認したが、 一瞥(いちべつ)して正船首やや右寄りに同船が見えたことから、このままの針路でも福寿丸が自船の右舷側を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかったので、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることに気付かず、自分の左側にいた友人が釣りの仕掛けを作っているのを見ながら、福寿丸を避けないまま続航した。
 07時40分少し前A受審人は、ふと前方を見たところ正船首至近のところに福寿丸を認め、おどろいて左舵をとったが効なく、07時40分中ノ瀬灯標から173度750メートルの地点において、廿小は、原針路、原速力のまま、その船首が福寿丸の船首部右舷側に前方から21度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、福寿丸は、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首尾とも0.15メートルの喫水をもって、同日06時00分広島港を発し、奈佐美瀬戸の釣り場に向かった。
 06時30分B受審人は、衝突地点付近に至り、機関を停止し、錨泊していることを示す形象物を船内に置いていたものの失念してこれを掲げず、船首から錨索70メートルを延出して錨泊し、右舷船尾部に右舷方を向いて座り、釣竿1本をだして魚釣りを始めた。
 07時38分B受審人は、船首を041度に向けているとき、右舷船首21度330メートルばかりのところに廿小を視認することができ、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、魚釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かなかった。
 07時39分B受審人は、廿小が避航の気配がないまま同方向150メートルばかりに接近したが、依然としてこれに気付かず、救命胴衣に装着されたホイッスルを吹くなど有効な音響による信号を行わないで、更に錨を投入したまま機関を使って前進するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま魚釣りを続け、福寿丸は、同じ船首方向で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、廿小は船首部右舷外板に破口を生じ、福寿丸は船首部右舷外板に亀裂などを生じたが、のちいずれも修理され、また、B受審人が右腰背部打撲傷などを負った。

(本件発生に至る事由)
1 廿小
(1)A受審人が、動静監視を十分に行わなかったこと
(2)A受審人が、福寿丸を避けなかったこと
2 福寿丸
(1)B受審人が、錨泊中の形象物を掲げなかったこと
(2)B受審人が、見張りを十分に行わなかったこと
(3)B受審人が、有効な音響による信号を行わなかったこと
(4)B受審人が、衝突を避けるための措置とらなかったこと

(原因の考察)
 廿小は、前路で停留している福寿丸を初認したのち、引き続きその動静監視を十分に行っていれば、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに容易に気付き、福寿丸を避けることができる状況であった。
 したがって、A受審人が、福寿丸の動静監視を十分に行わず、同船を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 一方、福寿丸は、錨泊していたのであるから形象物を掲げ、周囲の見張りを十分に行い、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する廿小に対し、救命胴衣に装着されたホイッスルを吹くなど有効な音響による信号を行い、更に錨を投入したままの状態でも機関を使って前進するなどして衝突を避けるための措置をとらなければならない状況であった。
 したがって、B受審人が、周囲の見張りを十分に行わず、廿小に対して有効な音響による信号を行わず、更に機関を使用して前進するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 なお、B受審人が、錨泊していることを示す形象物を掲げなかったことについては、A受審人が、福寿丸は停留している状態であると認識している点により、本件発生の原因とはならないが、今後是正しなければならない。

(海難の原因)
 本件衝突は、広島湾奈佐美瀬戸において、西行中の廿小が、動静監視不十分で、前路で形象物を掲げないまま錨泊中の福寿丸を避けなかったことによって発生したが、福寿丸が、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、広島湾奈佐美瀬戸において、単独で手動操舵に当たって西行中、前路で形象物を掲げないまま錨泊して停留状態に見える福寿丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して同船が正船首やや右寄りに見えたことから、このままの針路でも福寿丸が自船の右舷側を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自分の左側にいた友人が釣りの仕掛けを作っているのに見入り、形象物を掲げないまま錨泊して停留状態に見える同船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることに気付かず、これを避けないまま進行して福寿丸との衝突を招き、廿小の船首部右舷外板に破口を生じさせ、福寿丸の船首部右舷外板に亀裂などを生じさせ、また、B受審人が右腰背部打撲傷などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、広島湾奈佐美瀬戸において、錨泊して魚釣りを行う場合、形象物を掲げていなかったのであるから、自船を避けないまま接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近している廿小に気付かず、救命胴衣に装着されたホイッスルを吹くなど有効な音響による信号を行わないで、更に錨を投入したまま機関を使って前進するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま魚釣りを続けて同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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