(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月19日12時10分
広島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ニューちとせ |
漁船新栄丸 |
総トン数 |
151トン |
4.8トン |
全長 |
47.40メートル14.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
ニューちとせ(以下「ちとせ」という。)は、瀬戸内海の諸港間を航行する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.70メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成16年1月19日10時35分広島県東能美島の大柿港を発し、関門港若松区に向かった。
A受審人は、乗組員を休息させて単独の船橋当直に就き、東能美島とその東方の倉橋島との間を通過して広島湾を西航し、11時29分柱島港来見沖防波堤灯台から332度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点において、針路を240度に定め、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、大畠航路第5号灯浮標を目標に、レーダーを休止したまま、操舵輪後方のいすに腰掛け、船首死角のない状況で、自動操舵により進行した。
12時05分半A受審人は、由宇港由宇1号防波堤灯台(以下「由宇灯台」という。)から097度2.9海里の地点に達したとき、左舷船首12度1,000メートルのところに、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げた新栄丸を視認することができる状況となったが、前路を一瞥(いちべつ)しただけで、付近に他船はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかったので、新栄丸の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後、新栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近したものの、大きく右転するなど、漁ろうに従事している新栄丸の進路を避けずに続航し、12時10分由宇灯台から108度2.4海里の地点において、ちとせは、原針路原速力のまま、その左舷中央部に、新栄丸の船首部が、後方から28度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝突に気付かなかったので、そのまま航行を続け、その後の電話連絡で衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。
また、新栄丸は、船体中央部に操舵室を有し、汽笛を装備した木製底びき網漁船で、B受審人(昭和50年6月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、操業の目的で、同日07時00分山口県由宇漁港を発し、同港東方沖合の漁場に向かった。
07時20分B受審人は、目的地に到着して直ちに操業を開始し、操舵室前方にある高さ約3メートルのマストに、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げ、投網してから30ないし40分間曳網したのち、揚網して漁獲物を後部甲板に広げ、再び投網して漁獲物を選別しながら次の曳網を行う作業を繰り返した。
ところで、B受審人の行う底びき網漁は、船尾から直径10ミリメートル長さ130メートルのワイヤロープを引き、その先端に、漁獲物が入る網を取り付けた長さ約7メートル幅約4メートルの鋼製漁具を取り付け、これを3ないし4ノットの速力で曳網するもので、操縦性能に制限があったものの、転舵するなり、行きあしを止めるなどして他船をかわすことは可能であった。
12時00分B受審人は、由宇灯台から104度2.9海里の地点において、7回目の投網を行い、針路を268度に定め、3.2ノットの曳網速力とし、後部甲板で前方を向いた姿勢で漁獲物を選別しながら、自動操舵により進行した。
12時05分半B受審人は、由宇灯台から106度2.6海里の地点に達したとき、右舷船尾40度1,000メートルのところに、西航中のちとせを視認することができる状況となったが、漁獲物の選別に気を取られ、船尾方の見張りを十分に行わなかったので、ちとせの存在に気付かなかった。
B受審人は、その後、ちとせと衝突のおそれがある態勢で接近したものの、警告信号を行わず、更に同船が間近に接近しても、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに続航し、新栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ちとせは、左舷中央部外板に擦過傷を生じただけであったが、新栄丸は、船首部を損傷し、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、広島湾において、西航中のちとせが、見張り不十分で、漁ろうに従事している新栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で操舵と見張りに当たり、広島湾を西航する場合、左舷前方の新栄丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥しただけで、付近に他船はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新栄丸の存在に気付かず、漁ろうに従事している同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、ちとせの左舷中央部外板に擦過傷を生じさせ、新栄丸の船首部を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、広島湾において、単独で操舵と見張りに当たり、漁ろうに従事する場合、右舷後方のちとせを見落とさないよう、船尾方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後部甲板で漁獲物の選別に気を取られ、船尾方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ちとせの存在に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。