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平成16年神審第72号
件名

貨物船第三勝丸漁船若宮丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學、平野浩三、中井 勤)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第三勝丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:若宮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三勝丸・・・船首部にペイントの剥離
若宮丸・・・左舷船首部に破口、船長が頸椎捻挫など負傷

原因
第三勝丸・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
若宮丸・・・警告信号不履行、各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三勝丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事していた若宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、若宮丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月1日19時25分
 神戸港
 (北緯34度37.5分 東経135度09.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第三勝丸 漁船若宮丸
総トン数 102トン 7.70トン
全長 32.65メートル  
登録長   11.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 213キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三勝丸
 第三勝丸(以下「勝丸」という。)は、平成5年5月に進水した航行区域を限定沿海区域とする、航海速力約9ノットの船尾船橋型鋼製貨物船で、船橋前面中央部に操舵装置及び操舵輪、同左舷側に自動衝突予防援助装置付きレーダー1基を備え、専ら広島県呉港と大阪港間における鋼材輸送に従事していた。
イ 若宮丸
 若宮丸は、昭和54年12月に進水した音響信号装置を有するFRP製小型漁船で、操縦室前の前部甲板に巻き揚げ用電動ローラーと、機関操作及び操舵兼用のダイヤル式遠隔操縦装置を備え、主として神戸港沖合において漁ろうに従事していた。

3 事実の経過
 勝丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、次航の呉港における積荷予定日まで時間的余裕があったことから、一旦、自宅で休養する目的で、船首0.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成16年4月1日17時30分大阪港を発し、淡路島の丸山漁港へ向かった。
 A受審人は、出港操船に引き続いて1人で船橋当直に当たり、18時46分神戸灯台から100度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点に達したとき、針路を266度に定め、機関を全速力前進の回転数毎分700にかけ、9.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵輪の後方に立って見張りを行い、法定灯火を表示して、自動操舵によって進行した。
 ところで、A受審人は、船橋内で立って見張りに当たる場合は、船首方に死角が生じないものの、操舵輪後方の腰掛けに座って見張りに当たる場合は、水平線が船首に隠れ、船首部両舷に渡って約8度の範囲に死角が生じることから、平素はレーダーを監視するなり、船首を左右に振るなりして、船首死角を補う見張りを行っていたのであった。
 定針後、しばらくして、A受審人は、比較的広い海域を航行中であったことから、前示腰掛けに座り、左前のレーダーを監視しながら見張りに当たっていたところ、19時22分神戸灯台から168度1.4海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方930メートルのところに、若宮丸が表示する白、緑、紅の3灯に加え、黄色閃光灯1灯及び作業灯2灯を視認することができ、やがて、その極めて遅い速力や灯火模様などから、同船が漁ろうに従事していることを示す法定灯火を表示していなかったものの、漁ろうに従事している船舶であると判断できる状況となったが、前路に航行の支障となるような他船を見掛けなくなったことに起因して、少しばかり気が緩み、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、衝突のおそれがある態勢で接近する同船の存在に気付くことなく続航した。
 こうして、19時24分半A受審人は、若宮丸が、その方位に変化がないまま、ほぼ正船首方150メートルのところまで接近したが、依然として、船首死角を補う見張りを十分に行わず、同船の進路を避けることなく進行中、19時25分神戸灯台から186度1.4海里の地点において、勝丸は、原針路、原速力のまま、その船首と若宮丸の船首が前方から4度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、若宮丸は、平成14年9月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、予め仕掛けておいた漁獲かごを揚収する目的で、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成16年4月1日19時12分神戸市須磨区妙法寺川の係留場所を発し、神戸港和田岬沖合1ないし2海里付近の漁場へ向かった。
 ところで、当時、B受審人が従事していた漁業とは、かご口の直径約10センチメートル(以下「センチ」という。)長さ約40センチの漁獲かごを、約20メートル間隔で250個ばかり縄で繋ぎ、その縄の両端に目印としてオレンジ色の浮標を結び、水深15ないし20メートルの海底に投入したのち、一旦、帰港してから、魚が掛かったと思われるころを見計らって、再度、出漁して揚収するという操業形態であった。
 B受審人は、前示漁場に到着したのち、直ちに漁獲かごの揚収作業に取り掛かり、19時18分神戸灯台から190度1.4海里の地点で、針路を090度に定め、機関を極微速力前進にかけ、1.0ノットの速力で、白、緑、紅の3灯の表示に加え、黄色閃光灯1灯及び明るい作業灯2灯を点灯して、前部甲板に備えられた前示ローラーを使い、漁獲かごを繋いだ縄(以下「かご縄」という。)を巻き揚げながら、傍らの遠隔操縦装置を使用して、手動操舵によって進行した。
 そして、19時22分B受審人は、神戸灯台から188度1.4海里の地点に至ったとき、ほぼ正船首方930メートルのところに、勝丸が表示する白、緑、紅の3灯を視認し、やがて、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、漁ろうに従事していることを示す法定灯火を表示していなかったものの、黄色閃光灯1灯及び明るい作業灯2灯を点灯していたことや、極めて遅い速力でかご縄の巻き揚げ作業を行っていたことなどから、勝丸が、自船を漁ろうに従事している船舶であると判断して避航してくれるものと思い、警告信号を行うことなく続航した。
 こうして、19時24分半B受審人は、勝丸が、ほぼ正船首方150メートルのところまで接近したが、依然として、警告信号を行わず、更に同船が間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勝丸は船首部にペイントの剥離を、若宮丸は左舷船首部に破口をそれぞれ生じたが、のち、いずれも修理された。また、B受審人が頸椎捻挫など10日間の入院加療を要する傷を負った。

(航法の適用)
 本件は、夜間、神戸港において、航路筋や防波堤入口付近から離れた海域を航行していた勝丸と、漁ろうに従事していることを示す法定灯火を表示しないまま、同海域で漁ろうに従事していた若宮丸が衝突したものであり、以下、適用される航法について検討する。
 勝丸は、一般的な貨物船であることから、動力船であることを疑う余地はない。他方、若宮丸は、巻き揚げローラーを使用して海底の漁獲かごを揚収していたことから、漁ろうに従事していた事実は否めないものの、漁ろうに従事していることを示す法定灯火を表示していなかったのであるから、勝丸から見て、若宮丸が漁ろうに従事している船舶であると判断できる状況であったか否かが論点となる。しかしながら、同船が、漁ろうに従事している船舶であると判断することは容易な状況であり、その進路を避けることは十分に可能であったものと認められる。
 よって、海上衝突予防法第18条第1項各種船間の航法のうち、動力船と漁ろうに従事している船舶間の関係を定めた同項第3号をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 勝丸
(1)A受審人が、操舵輪後方の腰掛けに座って船橋当直に当たり船首方に死角を生じさせたにも拘わらず、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が、船首死角に隠れた若宮丸の存在に気付かず、同船の進路を避けなかったこと
2 若宮丸
 B受審人が、警告信号を行わず、更に間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 勝丸は、夜間、神戸港において、航路筋や防波堤入口付近から離れた海域を明石海峡方面へ向けて航行中、1人で船橋当直に当たっていた船長が、操舵輪後方の腰掛けに座った姿勢で見張りに当たると、水平線が船首に隠れ、船首方に死角が生じる状況であったものの、レーダーを監視するなり、船首を左右に振るなりして、船首死角を補う見張りを行うことは容易であり、十分に可能であったものと認められる。
 したがって、A受審人が、腰掛けに座った姿勢で船橋当直中、船首死角を補う見張りを十分に行わず、若宮丸の存在に気付かないまま、その進路を避けることなく進行したことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が、腰掛けに座った姿勢で船橋当直を行い、船首方に死角を生じさせたことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方、若宮丸は、夜間、神戸港の前示海域において、1人で漁ろうに従事していた船長が、自船の進路を避けないまま接近する勝丸を認めた場合、装備されていた音響信号装置を使用して警告信号を行うことは容易であったうえ、巻き揚げローラーを使ってかご縄を巻き揚げる作業を行っていたものの、非常時には比較的短時間のうちにローラーからかご縄を外すことができる状況であったことから、勝丸が、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることも十分に可能であったものと認められる。
 したがって、B受審人が、勝丸に対して警告信号を行わず、同船が更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、神戸港において、航行中の勝丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事していた若宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、若宮丸が、警告信号を行わず、勝丸が更に間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、神戸港において、1人で船橋当直中、操舵輪後方の腰掛けに座った姿勢で見張りに当たる場合、水平線が船首に隠れ、船首方に死角が生じていたのであるから、死角内の他船を見落とすことがないよう、レーダーを監視するなり、船首を振るなりして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に航行の支障となるような他船を見掛けなくなったことに起因して、少しばかり気が緩み、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほぼ正船首方で漁ろうに従事していた若宮丸の存在に気付かず、その進路を避けることなく進行して、同船との衝突を招き、自船の船首部ペイントを剥離させるとともに、若宮丸の左舷船首部に破口を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、神戸港において、1人で漁ろうに従事中、ほぼ正船首方に自船の進路を避けないまま接近する勝丸を認めた場合、そのままでは衝突するおそれがあったのであるから、同船が間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁ろうに従事していることを示す法定灯火を表示していなかったものの、白、緑、紅の3灯の表示に加え、黄色閃光灯1灯及び明るい作業灯2灯を点灯していたことや、かご縄を巻き揚げる作業を行っていたため極めて遅い速力であったことなどから、勝丸が、自船を漁ろうに従事している船舶であると判断して避航してくれるものと思い、警告信号を行うことも、更に間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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