(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月13日13時40分
和歌山県日ノ御埼南東方沖合
(北緯33度52.3分 東経135度04.8分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船勝漁丸 |
遊漁船河義丸 |
総トン数 |
7.9トン |
3.0トン |
全長 |
16.30メートル |
11.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
463キロワット |
121キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 勝漁丸
勝漁丸は、平成8年に竣工したFRP製漁船で、船尾よりに操舵室があり、操舵位置からの見通し状況は、船首方の視界の妨げになる構造物はなく良好であった。
なお、本件当時、レーダーは休止中であったが、GPSを作動していた。
イ 河義丸
河義丸は、平成2年に竣工したFRP製遊漁船で、船尾よりに操舵室があり、操舵位置からの見通し状況は、船首方の視界の妨げになる構造物はなく良好であった。
なお、本件当時、信号装置としてモーターサイレンを装備し、レーダーは装備していなかったが、GPSを作動していた。
3 事実の経過
勝漁丸は、A受審人が1人で乗り組み、ふぐはえ縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成15年12月13日13時30分和歌山県三尾漁港を発し、漁場に向かった。
13時35分半わずか前A受審人は、紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)から070度(真方位、以下同じ。)1,780メートルの地点で、針路を180度に定め、12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵で進行した。
13時38分A受審人は、右舷船首39度800メートルに東行する河義丸を視認できる状況であったが、はえ縄の入れ方などを考えていて、前路の見張りを十分に行っていなかったので、河義丸の存在に気付かなかった。
その後、A受審人は、河義丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航し、13時40分わずか前至近に迫った河義丸を初めて認め、機関のクラッチを中立にしたものの効なく、13時40分日ノ御埼灯台から125度1.1海里の地点において、勝漁丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が河義丸の左舷船首部に後方から76度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好であった。
また、河義丸は、C受審人が、1人で乗り組み、釣客4人を乗せて遊漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日05時30分和歌山県御坊港を発し、釣場に向かった。
C受審人は、日ノ御埼南方沖合で錨泊して遊漁を行い、13時30分日ノ御埼灯台の南西方1,300メートルばかりの地点で錨を揚げて帰途についた。
C受審人は、13時34分半日ノ御埼灯台から162度870メートルの地点で、針路を104度に定め、8.5ノットの速力で手動操舵で進行した。
13時38分C受審人は、左舷船首65度800メートルに南下する勝漁丸を視認できる状況であったが、船首目標とする関西電力御坊発電所付近を見ることに気をとられ、左舷側の見張りを十分に行っていなかったので、勝漁丸の存在に気付かなかった。
その後、C受審人は、勝漁丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かず、接近する勝漁丸に対して警告信号を行えず、更に間近になっても衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま続航し、13時40分わずか前左舷至近に同船を初めて認め、機関のクラッチを中立にしたものの効なく、河義丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、勝漁丸は、船首部に破損を、河義丸は、左舷船首部に破損を生じたが、のちいずれも修理され、河義丸の釣客1人が頭部裂傷を負った。
(本件発生に至る事由)
1 勝漁丸
(1)A受審人が、レーダーを休止していたこと
(2)A受審人が、河義丸を視認できる状況であったが、衝突の直前まで河義丸の存在に気付かず、河義丸の進路を避けなかったこと
2 河義丸
C受審人が、勝漁丸を視認できる状況であったが、衝突の直前まで勝漁丸の存在に気付かず、警告信号を吹鳴することなく、衝突を避けるための協力動作もとらなかったこと
(原因の考察)
A受審人が、適切な見張りを行っていたなら河義丸を視認でき、余裕のある時期に同船の進路を避けることができたと認められる。
したがって、A受審人が、見張りを十分に行わず、河義丸の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
C受審人が、適切な見張りを行っていたなら勝漁丸を視認でき、余裕のある時期に措置をとることができたと認められる。
したがって、C受審人が、見張りを十分に行うことなく、警告信号を吹鳴せず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
A受審人が、レーダーを休止していたことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、装備された機器の有効利用については、海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は、和歌山県日ノ御埼南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の勝漁丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る河義丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中の河義丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、勝漁丸との衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山県日ノ御埼南東方沖合を南下する場合、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、はえ縄の入れ方などを考えていて、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、河義丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、勝漁丸の船首部に破損を、河義丸の左舷船首部に破損を生じさせ、同船の釣客1人に頭部裂傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、和歌山県日ノ御埼南東方沖合を東行する場合、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首目標とする関西電力御坊発電所付近を見ることに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して勝漁丸との衝突を招き、前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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