(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月12日06時05分
神戸港第7防波堤
(北緯34度40.2分 東経135度15.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船錦世丸 |
総トン数 |
198トン |
全長 |
47.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
(2)設備及び性能等
錦世丸は平成7年12月に進水した限定沿海区域を航行区域とする、旋回径約110メートル及び航海速力約10.5ノットの、非危険物ばら積船尾船橋型鋼製貨物船で船橋前面コンソールの左舷側にレーダー1基とGPS中央に操舵輪と磁気コンパス右舷側に機関遠隔操縦用のハンドルを装備していた。
3 事実の経過
錦世丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、牛脂430トンを積載し、船首3.10メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成16年4月12日05時30分神戸港新港東ふ頭を発し、霧模様の天候下、同港第7防波堤と六甲アイランド間の水路を経由する予定で、東側に隣接する尼崎西宮芦屋港へ向かった。
ところで、A受審人は、長期間に渡る内航船員としての乗船経歴を有していることから、神戸港の水路事情については、十分に承知していたのであった。
A受審人は、出港操船に引き続いて1人で操舵操船に当たっていたところ、しばらくして、霧が濃くなって目視での見張りが困難な状況となったことから、操舵輪左横のレーダーを使用して見張りを行ったうえ、適宜、機関を停止するなどして速力を調整しながら新港航路へ向かい、05時45分神戸港第3防波堤東灯台から070度(真方位、以下同じ。)150メートルの地点に達したとき、針路を110度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵によって進行した。
そして、06時00分A受審人は、神戸港第7防波堤西灯台から328度880メートルの地点に至り、前示水路へ向けて左転する時機となったが、0.75海里レンジとして使用していたレーダーに、左舷側の六甲アイランド南西端角などが明確に映っていたものの、ゲイン調整などの各種調整を適切に行っていなかったことなどに起因して、船首方の第7防波堤は映りが悪く、その湾曲部の一部分のみが、あたかも2隻の小さな漁船のような映像として映っていたことから、これを本物の漁船と間違え、当該映像を左舷側に替わそうとして、針路を128度に転じ、同じ速力で続航した。
針路を転じたときA受審人は、第7防波堤の西端部付近が正船首方に位置することとなり、そのまま進むと同防波堤に衝突するおそれがある状況となったが、前示2隻の漁船と間違えた映像が本物の漁船であり、実際の第7防波堤はもっと先に存在するものと思い、レーダーの各種調整を適切に行うことも、明確に映っていた六甲アイランド南西端角からの方位及び距離を測るなりして船位の確認を十分に行うこともなく進行した。
こうしてA受審人は、その後も、依然としてレーダーの各種調整を適切に行うことも、船位の確認を十分に行うこともなく続航中、06時05分わずか前正船首至近に迫った第7防波堤の黒い影を認めて、衝突の危険を感じ、急きょ機関を後進にかけ右舵一杯としたが、効なく、06時05分神戸港第7防波堤西灯台から029度300メートルの地点において、錦世丸は、原針路、原速力のまま、その船首が同防波堤と80度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は霧のため極めて不良であった。
衝突の結果、錦世丸は、船首部に亀裂を伴う凹損を生じた。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、レーダーの各種調整を適切に行っていなかったことに起因して、第7防波堤が明確に映らなかったこと。
2 A受審人が、レーダーに明確に映っていた六甲アイランド南西端角からの方位及び距離を測るなりして船位の確認を十分に行わなかったこと。
3 A受審人が、レーダーに第7防波堤湾曲部の一部が、あたかも2隻の小さな漁船のように映っていたことから、これを本物の漁船と間違え、当該映像を避けようとして、同防波堤の西端部付近に向かって進行したこと。
(原因の考察)
錦世丸は、神戸港新港東ふ頭を発し、霧のため視界が極めて悪く、目視での見張りが困難な状況下、第7防波堤と六甲アイランド間の水路を経由する予定で、東側に隣接する尼崎西宮芦屋港へ向かう際、レーダーの各種調整を適切に行ったうえ、これを活用して船位の確認を十分に行っていれば、自船と第7防波堤との位置関係を正確に把握できた状況であったことから、同防波堤との衝突を避けることは可能であり、その措置をとることを妨げる要因は、何ら存在しなかったものと認められる。
したがって、A受審人が、レーダーに第7防波堤湾曲部の一部が、あたかも2隻の小さな漁船のように映っていたことから、これを本物の漁船と間違え、当該映像を避けようとして、明確に映っていた六甲アイランド南西端角からの方位及び距離を測定するなりして船位の確認を十分に行うことなく、同防波堤の西端部付近に向かって進行したことは、本件発生の原因となる。
A受審人が、レーダーの各種調整を適切に行わなかったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(原因)
本件防波堤衝突は、神戸港において、新港東ふ頭を発し、霧のため視界が極めて悪い状況の下、第7防波堤と六甲アイランド間の水路を経由する予定で、東側に隣接する尼崎西宮芦屋港へ向かう際、レーダーに第7防波堤湾曲部の一部が、あたかも2隻の小さな漁船のように映っていたことから、これを本物の漁船と間違え、当該映像を避けようとして、明確に映っていた六甲アイランド南西端角からの方位及び距離を測定するなりして船位の確認を十分に行うことなく、同防波堤西端部付近に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、神戸港において、新港東ふ頭を発し、第7防波堤と六甲アイランド間の水路を経由する予定で、東側に隣接する尼崎西宮芦屋港へ向かう場合、霧のため視界が極めて悪い状況下であったことから、防波堤などに衝突しないよう、レーダーを活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダーの各種調整を適切に行っていなかったことなどに起因して、船首方の第7防波堤は映りが悪く、その湾曲部の一部が、あたかも2隻の小さな漁船のように映っていたことから、これを本物の漁船と間違え、当該映像を避けようとして、明確に映っていた六甲アイランド南西端角からの方位及び距離を測定するなりして船位の確認を十分に行うことなく、同防波堤西端部付近に向かって進行して衝突を招き、船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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