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平成16年神審第38号
件名

水上オートバイドボク水上オートバイなんだろー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月10日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、田邉行夫、甲斐賢一郎)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:ドボク船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:なんだろー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ドボク・・・右舷船首部にFRP塗色の剥離
なんだろー・・・船首船底キール部に擦過痕、船長が骨盤不全骨折を負傷

原因
ドボク・・・船員の常務不遵守(危険な操縦)

主文

 本件衝突は、ドボクが、なんだろーに飛沫を浴びせようとする危険な操縦を行ったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月3日12時02分
 京都府由良海岸西端北方沖合
 (北緯35度31.6分 東経135度16.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイドボク 水上オートバイなんだろー
登録長 2.30メートル 2.06メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 69キロワット 46キロワット
(2)設備及び性能等
ア ドボク
 ドボク(以下「ド号」という。)は、平成14年7月に新規登録され、以後遊走に使用されている最大搭載人員2人のジェット推進式FRP製水上オートバイで、船首から約1.5メートルのほぼ中央に操縦ハンドルと跨乗式操縦席が、その後方に同乗者用の座席が設置されていた。操縦席正面には、燃料計と速力計があったが、速力計は故障していた。
 最大速力は、毎時90キロメートル(以下「キロ」という。)であった。
イ なんだろー
 なんだろー(以下「な号」という。)は、平成15年7月に新規登録され、以後遊走に使用されている最大搭載人員2人のジェット推進式FRP製水上オートバイで、船首から約1.3メートルのほぼ中央に操縦ハンドルと跨乗式操縦席が、その後方に同乗者用の座席が設置されていたが、操縦席に速力計は付いていなかった。
 最大速力は、毎時45キロであった。

3 事実の経過
 ド号は、A受審人が、救命胴衣を着用して1人で乗り組み、遊走の目的で、平成15年8月3日11時45分由良海岸西端の砂浜を発し、同沖合において遊走を開始した。
 ところで、A受審人は、当日は弟であるB受審人を含め友人及び家族ら20人ほどで由良川上流のマリーナに到着したのち、水上オートバイなどに分乗して同マリーナを発し、10時30分ころ前示海岸西端に移動し、同付近をベースとしてバーベキューの準備をするほか、数台の水上オートバイを使用して遊走を楽しんでいた。
 11時55分A受審人は、B受審人が、な号に女性を同乗させて操縦するのを認め、ふざけるつもりで、後方から接近してほぼ真横4メートルばかりに並んだときに、急ハンドルを取って船尾を振る勢いで、な号に飛沫を浴びせたり、その後一旦離れたりするなどの操縦を何度か繰り返して遊走を続けた。
 12時01分54秒ころA受審人は、右舷船首方に、な号が、陸岸に向け南下し右に転針しつつあるのを認めて再び同号に飛沫を浴びせようと接近を開始し、12時01分57秒、宮津市由良の42.3メートル頂所在の家門三角点(以下「基点」という。)から004度(真方位、以下同じ。)930メートルの地点で、右舷船首8度20メートルに、な号が北上するのを認め、な号の左舷側に向けて針路を023度に定め、機関を半速力前進にかけ、毎時65キロの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 定針したとき、A受審人は、このまま続航すると、な号の航走波の影響を受けて操縦が思うようにならず、衝突のおそれがある態勢で同号に著しく接近する状況であったが、同人は、これまでにも何度か同様の操縦をしていたので、な号を至近距離で替わして安全に航過できるものと思い、後方から間近に接近して船尾を振り、その反動で飛沫を浴びせようとする危険な操縦を中止しなかった。
 12時01分59秒A受審人は、依然として危険な操縦を続けたまま進行中、な号が右舷至近に迫ったとき、同号の航走波の影響を受けたものか、船体が傾斜して急激に右に回頭し、ド号は、12時02分基点から005.5度980メートルの地点において、船首が063度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部とな号の左舷船首部とが前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、海上は穏やかで、視界は良好であった。
 また、な号は、B受審人が、救命胴衣を着用して1人で乗り組み、平成15年8月3日11時00分由良海岸西端の砂浜を発し、同沖合で遊走を開始した。
 その後、B受審人は、由良海岸中央部北方沖合の防波堤上にいた女性1人を前部座席に座らせ、救命胴衣を着用させて再び前示沖合で、遊走をしていたところ、A受審人が、ド号をな号に急接近させ、さらに急ハンドルを取って危険な操縦を行うので、飛沫を何度か浴びせられながら遊走を続けた。
 12時01分52秒ころB受審人は、左舷船首方からド号が北上するのを認め、A受審人から再び飛沫を浴びせられるのを避けるため、右に転針して反転することとし、針路を右に転じて回頭しながら北上した。
 12時01分57秒B受審人は、基点から005.5度950メートルの地点で、針路を023度に定め、機関を全速力前進にかけ、毎時35キロの速力で進行した。
 定針したとき、B受審人は、左舷船尾8度20メートルに、ド号が、左舷後方から左舷側至近距離に向けて衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができ、その後、な号の航走波によるものか、ド号の船体が傾斜して急激に右に回頭し、な号に向かう態勢となったが、どうすることもできず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ド号は右舷船首部にFRP塗色の剥離を、な号は船首船底キール部に擦過痕をそれぞれ生じ、B受審人が骨盤不全骨折を負った。

(航法の適用)
 本件は、京都府由良海岸西端北方沖合において、北上するド号と、右転したのち北上するな号とが衝突したもので、海上衝突予防法上、航行中の動力船同士の衝突であるが、定針後の見合い関係は、ごく短時間であり、適用すべき航法規定がないので、海上衝突予防法第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 ド号
 A受審人が、ふざけるつもりで、な号に後方から間近に接近して船尾を振り、その反動で飛沫を浴びせようとする危険な操縦を中止しなかったこと
2 な号
 B受審人が、ド号が北上するのを認め、再度飛沫を浴びせられるのを避けるため、右に転針して反転したこと

(原因の考察)
 ド号は、京都府由良海岸西端北方沖合において、遊走するにあたり、ふざけるつもりで、な号に後方から間近に接近して船尾を振り、その反動で飛沫を浴びせようとする危険な操縦を中止しなかったことは、それまでにも何度か同様の操縦を続けていたものの、接触や衝突を惹起させる危険な操縦であったものと認められる。
 したがって、A受審人が、な号に後方から間近に接近して船尾を振り、その反動で飛沫を浴びせようとする危険な操縦を中止しなかったことは、本件発生の原因となる。
 な号は、京都府由良海岸西端北方沖合において、遊走するにあたり、ド号が北上するのを認め、再度飛沫を浴びせられるのを避けようと、右に転針して反転し、ド号から遠ざかろうとしたものであるが、ふざけ目的の明確な意図を持って、至近距離に高速力で接近してくる同号を避けることを求めるのは無理な要求である。
 したがって、B受審人が、右に転針して反転し、ド号から遠ざかろうとしたことは、本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は、京都府由良海岸西端北方沖合において、仲間の水上オートバイとともに遊走中、北上するド号が、北上するな号に後方から間近に接近して船尾を振り、その反動で飛沫を浴びせようとする危険な操縦を行ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、京都府由良海岸西端北方沖合において、仲間の水上オートバイとともに遊走する場合、な号に後方から間近に接近して船尾を振り、その反動で飛沫を浴びせようとする危険な操縦を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでにも何度か同様の操縦をしていたので、な号を至近距離で替わして安全に航過できるものと思い、飛沫を浴びせようとする危険な操縦を中止しなかった職務上の過失により、同号の左舷側に向けて進行し、な号との衝突を招き、ド号の右舷船首部にFRP塗色の剥離を、な号の船首船底キール部に擦過痕をそれぞれ生じさせ、B受審人に骨盤不全骨折を負わせるに至った。
  以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
  B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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