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平成16年横審第46号
件名

貨物船東洋丸漁船第八高松丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史、安藤周二、中谷啓二)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:東洋丸二等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第八高松丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
東洋丸・・・左舷側外板に擦過傷
第八高松丸・・・船首部を損壊

原因
第八高松丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
東洋丸・・・警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八高松丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る東洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月11日03時20分
 静岡県御前埼南西方沖合
 (北緯34度20.4分 東経138度00.64分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船東洋丸 漁船第八高松丸
総トン数 4,219トン 7.3トン
全長 124.70メートル  
登録長   11.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 6,230キロワット 358キロワット
(2)設備及び性能等
ア 東洋丸
 東洋丸は、平成15年2月に進水した、限定近海区域を航行区域とする全通二層甲板前部船橋型自動車運搬船で、主に、広島港を積地とし、千葉港及び京浜港との間を2週間に3航海して車両やシャーシなどの輸送に従事していた。
 船橋は、前方中央に操舵スタンドがあり、同スタンド左側にレーダー2台及びその後方の海図台上にGPS航法装置、同スタンド右側に機関遠隔操縦装置が設備され、また、前方左右にエアーホーン用スイッチ、天井に探照灯操作ハンドルが備えられていた。
 海上試運転成績書によると、最大速力が主機回転数毎分163において20.754ノット、平均喫水4,357メートルで約20ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で航走中、舵角35度をとり右回頭を行うと、30度、90度及び180度回頭するまでの所要時間と縦距及び横距は、それぞれ26秒、266メートル及び6メートル、53秒、414メートル及び161メートル、1分46秒、280メートル及び390メートルであり、左回頭でもほぼ同じ数値を示し、また、最短停止時間が3分30秒、最短停止距離が1,223メートルであった。
イ 第八高松丸
 第八高松丸(以下「高松丸」という。)は、昭和61年6月に進水したFRP製漁船で、船体後部寄りに操舵室が設けられていた。
 操舵室は、前面の左右にわたって棚が備えられ、その中央手前に自動操舵装置付きの操舵スタンドがあり、同スタンド左側に機関遠隔操縦装置、同スタンド右側の前方の棚にレーダー及びGPS航法装置、同スタンド後方に背もたれと肘掛けが付いたいすが設備され、また、両舷側に出入口が設けられていた。
 全速力前進時の回転数毎分1,500で、14ないし15ノットの速力であった。

3 事実の経過
 東洋丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、車両130台、シャーシ40台及びコンテナ1個を載せ、船首4.00メートル船尾6.35メートルの喫水をもって、平成16年4月10日07時54分広島港を発し、千葉港に向かった。
 ところで、東洋丸の船橋当直は、A受審人、一等航海士及び甲板長に甲板員1人をそれぞれ副直に付けて、2人体制で4時間交替の3直制としていた。
 A受審人は、23時40分三重県三木埼東方沖合の熊野灘で副直の甲板員とともに昇橋し、航行中の動力船が表示する所定の灯火が点灯していることを確認のうえ、前直の一等航海士等と交替して船橋当直に就き、その後遠州灘に沿って東行を続け、翌11日03時00分御前埼灯台から224.5度(真方位、以下同じ。)24.0海里の地点で、針路を075度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、18.6ノットの速力で進行した。
 03時03分A受審人は、御前埼灯台から224度23.2海里の地点に達したとき、12海里レンジとしたレーダーにより、左舷前方9海里ばかりに7隻の映像を探知し、それまでの御前埼沖合の豊富な通航経験と映像模様から、同埼方面から南方沖合に向けて出漁中の小型漁船群であることが分かり、それらが前路を右方に横切る態勢であることから動静を監視していたところ、先頭集団を形成する5隻とは顕著な方位変化があったものの、その集団の後方に続いている最後尾の高松丸と同船の前方近距離のところを先航する船(以下「先航船」という。)の2隻とは明確な方位変化が認められなかったので、両船に留意しながら続航した。
 しばらくして、A受審人は、前示2隻が3海里前後に接近したころ、レーダーレンジを3海里に切り替え、03時15分御前埼灯台から218度20.2海里の地点に至って船首方を先頭集団が航過したとき、高松丸の映像を左舷船首15度2.6海里に見るようになるとともに、肉眼でも同船と先航船の白、緑2灯を視認し、その後、先航船の方位が少しずつ右方に変わっていたものの、高松丸の方位が変わらず、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを知った。
 03時18分A受審人は、御前埼灯台から216度19.4海里の地点に達したとき、高松丸が自船の進路を避けずに1海里に接近したが、エアーホーンによる警告信号を行わないまま、避航を促すつもりで自ら探照灯を2回点滅させたところ、間もなく自船の船首方を航過しようとしていた先航船が大きく右転して行ったものの、高松丸に避航の動作が認められず、更に間近に接近したが、小型の漁船なのでいずれ自船を避けるものと思い、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく、甲板員に手動操舵に就くように指示しただけで続航した。
 03時20分少し前A受審人は、高松丸が至近に迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、再び探照灯を点滅するとともに、甲板員に右舵一杯を命じたが及ばず、03時20分御前埼灯台から215度18.9海里の地点において、東洋丸は、右転中の船首が105度を向いたとき、原速力のまま、その左舷前部に高松丸の船首が前方から66度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上平穏で、視界は良好であった。
 A受審人は、甲板員に命じて衝突の事実を船長に報告させ、昇橋してきた船長とともに事後の措置にあたった。
 また、高松丸は、B受審人が1人で乗り組み、きんめだい樽縄漁の目的で、船首0.50メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日01時45分静岡県御前崎港を発し、同港南西方35海里付近の漁場に向かった。
 B受審人は、航行中の動力船が表示する所定の灯火を点灯して発航し、間もなく御前埼を右方に見てこれを付け回し、02時00分御前埼灯台から112度1.3海里の地点で、針路を219度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進かけ、14.5ノットの速力で進行した。
 定針後、B受審人は、いすに腰を掛けて操船にあたり、自船より5ないし15分前に発航した僚船6隻の最後尾に付け、ときおり東西を往来する他船を小舵角の操作により早めに替わしながら原針路を保って南下を続け、03時05分御前埼沖合15海里付近に至ったとき、自船の700メートル前方の先航船及び1.2海里ばかり前方の先頭集団5隻のほか気に掛かる他船を見掛けなかったので、食事をとることとし、いすから降りて操舵室左舷前部の棚の前に移動して立ち、弁当を食べ始めた。
 ところで、B受審人は、いつも夜中過ぎに発航していたものの、長年の経験からこのような操業形態には慣れていて、特に疲れなどを感じることはなかったが、それまでも海上平穏なときには、たまに眠気を感じることがあり、その際にはほとんど同じ時間帯に往復の航海をともにする僚船と無線で交信するほか、外気にあたるなど、眠気を払拭するようにしていた。
 間もなく、B受審人は、海上平穏で視界も良く、周囲に支障となる他船を見掛けなかったので気が緩み、眠気を催すようになったが、漁場まで1時間足らずの航程なので眠気を我慢できるものと思い、前方の僚船と無線で交信するなり、外気にあたるなりして居眠り運航の防止措置をとらないまま、前方の棚に寄りかかるようにして食事の途中で居眠りに陥った。
 03時15分B受審人は、御前埼灯台から215度17.7海里の地点に達したとき、右舷船首21度2.6海里のところに、東洋丸の白、白、紅3灯を視認することができ、その後、その方位が変わらず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りしていたので、そのことに気付かず、右転するなどして東洋丸の進路を避けることなく続航し、高松丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝撃を受けて目が覚め、衝突したことを知り事後の措置にあたった。
 衝突の結果、東洋丸は、左舷側外板に擦過傷を生じ、高松丸は、船首部を損壊したが、のち修理された。

(航法の適用)
 本件は、夜間、静岡県御前埼南西方沖合において、東行中の東洋丸と南下中の高松丸とが衝突したものであり、同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することとなる。
 本件発生時の状況は、両船の運航模様から互いに視野の内にある2隻の動力船が、互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがある状況で、予防法第15条の航法規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 東洋丸
(1)A受審人が、高松丸の前方に他船を認めていたこと
(2)A受審人が、警告信号を行わなかったこと
(3)A受審人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 高松丸
(1)B受審人が、航行中に食事をとったこと
(2)B受審人が、眠気を感じた際、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(3)B受審人が、東洋丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 予防法第15条により、高松丸は避航船の立場にあったから、東洋丸の進路を避けなければならなかった。高松丸が、居眠り運航の防止措置をとっていれば、居眠りに陥ることなく、右舷船首に前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する東洋丸を早期に認めることができ、余裕を持ってこれを避けることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 一方、東洋丸は保持船の立場であるから、方位変化のないまま接近する高松丸に対して警告信号を行い、更に間近に接近して避航船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたときは、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。東洋丸は、左舷船首に前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する高松丸を認めたとき、警告信号を行うことができ、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、B受審人が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと及び東洋丸の進路を避けなかったこと、並びにA受審人が、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が、高松丸の前方に他船を認めていたこと及びB受審人が、航行中に食事をとったことは、いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが、本件衝突と相当な因果関係があるとは認められず、原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、静岡県御前埼南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の高松丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る東洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中の東洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、静岡県御前埼南西方沖合を漁場に向かって南下中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、前方の僚船と無線で交信するなり、外気にあたるなりして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場まで1時間足らずの航程なので眠気を我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する東洋丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して東洋丸との衝突を招き、同船の左舷側外板に擦過傷を生じさせ、高松丸の船首部を損壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、静岡県御前埼南西方沖合を東行中、高松丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で間近に接近した場合、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型の漁船なのでいずれ自船を避けるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して高松丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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