(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月27日11時30分
千葉県勝浦東部漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船弘良丸 |
モーターボートシーライナー |
総トン数 |
4.93トン |
0.6トン |
全長 |
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5.00メートル |
登録長 |
10.68メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
235キロワット |
29キロワット |
3 事実の経過
弘良丸は、後部に操舵室を備え、遠隔操舵装置を有するFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人(平成16年6月一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、おにかさご釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成16年6月27日04時00分千葉県勝浦東部漁港新官地区を発し、同漁港の南方約5海里の釣り場に至って遊漁を行い、同日11時ごろ帰途に就いた。
11時15分A受審人は、勝浦灯台から163.5度(真方位、以下同じ。)5,100メートルの地点で、針路を勝浦東部漁港沖に向けて000度に定め、機関を微速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、操舵室右舷側で椅子に腰掛け手動操舵により進行した。
ところで、弘良丸は、速力の増加につれて船首が浮上し、9ノットの速力で航走中、操舵室前面の幅約1.2メートルの窓から前方を見通すと、船首端に近い幅約1メートルの部分から先が水平線より上がって船首両舷に各4度ばかりの死角が生じた状態で、通常、A受審人が船首を左右に振って死角を補う見張りを行っていた。
11時26分少し前A受審人は、勝浦灯台から143度1.3海里の地点に達したとき、右舷船首3度約0.6海里に、死角に隠れてシーライナー(以下「シ号」という。)が存在する状況で、死角からわずかに外れた左舷船首方約0.5海里に漂泊しているプレジャーボート1隻、右舷船首約10度同距離に同様の遊漁船2隻をそれぞれ認め、プレジャーボートとの航過距離を広げようと針路を003度に転じ、シ号を視認しないまま続航した。
11時27分半A受審人は、勝浦灯台から134度2,070メートルの地点に達したとき、正船首700メートルのところに、シ号を視認でき、東方に向首したまま停留している様子から、所定の形象物を掲げていなかったものの錨泊中であることが分かる状況で、その後同船に衝突のおそれのある態勢で接近したが、プレジャーボートや遊漁船に近づいていて船首を振りにくく、前路を一瞥(いちべつ)して他船はいないものと思い、減速して船首部を下げるなどして前路の死角を補う見張りを十分に行うことなく、シ号に気付かず、同船を避けないまま進行した。
11時29分少し過ぎA受審人は、プレジャーボートと遊漁船間を通過し、依然、シ号に気付かず続航中、11時30分わずか前左舷船首方至近にシ号から海中に飛び込む人影を認め、急ぎ機関を停止したが効なく、11時30分勝浦灯台から116度1,700メートルの地点において、弘良丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、シ号の右舷中央部に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、シ号は、船外機を取り付け、中央部に操縦台を備えたFRP製モーターボートで、B受審人(平成16年7月二級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、余暇の魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日06時30分千葉県勝浦港浜勝浦地区を発し、釣り場を移動しながら11時00分ごろ遊漁船やプレジャーボートの点在している前示の衝突地点付近に至って機関を停止し、水深約11メートルのところに船首から投錨のうえ直径約9ミリメートルの合繊製錨索を35メートルばかり繰り出し、船舶が通常航行する水域であったものの、所定の形象物を表示せず、操縦台上方に赤旗を掲げて釣りを始めた。
B受審人は、同乗者とともに救命胴衣を着用して釣りを続け、11時27分半093度に向首し、次回の釣りに備えて船位を山立てしたり釣り道具を片付けるなど帰り支度を始めたころ、右舷正横700メートルのところに、自船に向首した弘良丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で避航動作をとらないまま接近していたが、帰り支度にかまけて周囲の見張りを十分に行わなかったので、弘良丸に気付かず、呼笛を用いて注意喚起信号を行うことも機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置もとらずに錨泊中、11時30分少し前船首部物入れの蓋に座って釣り竿をしまっていたとき、接近する弘良丸を初認して危険を感じ、立ち上がって同船に向け同乗者とともに大声で叫び、次いで海中に飛び込んだ直後、シ号は、093度に向首した状態で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弘良丸は船首部に擦過傷及びプロペラに曲損を生じたが、のち修理され、シ号は右舷船側外板を大破し、全乗船者が弘良丸及び付近の遊漁船に救助されたものの、B受審人が頚部捻挫、同乗者1人が右鎖骨骨折等をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、千葉県勝浦東部漁港沖合において、同港に向け帰航中の弘良丸が、見張り不十分で、錨泊中のシ号を避けなかったことによって発生したが、シ号が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉県勝浦東部漁港沖で遊漁を終え帰航中、進路近くにプレジャーボートや遊漁船を認めて進行する場合、船首浮上により操舵室からは船首方向に死角が生じ、プレジャーボートや遊漁船がいて船首が振りにくかったのだから、前路で錨泊中のシ号を見落とすことのないよう、減速して船首部を下げるなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥して他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、シ号に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、弘良丸の船首部に擦過傷、プロペラに曲損を生じさせ、シ号の右舷船側外板を大破し、B受審人及びシ号同乗者1人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船舶が航行する勝浦東部漁港沖で錨泊して釣りを行う場合、自船に向首して接近する弘良丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、帰り支度にかまけて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、弘良丸に気付かず、注意喚起信号を行うことも衝突を避けるための措置もとらずに衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身及び同乗者が前示のとおり負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。