(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月10日09時00分
宮城県渡波港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七喜宝丸 |
モーターボート秀丸 |
総トン数 |
9.7トン |
|
登録長 |
14.79メートル |
6.39メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
|
51キロワット |
漁船法馬力数 |
120 |
|
3 事実の経過
第七喜宝丸(以下「喜宝丸」という。)は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和59年5月に取得した一級小型船舶操縦士免許が失効中のA受審人と同人の妻が乗り組み、貝桁網漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成16年6月10日06時30分宮城県渡波港を出港し、同港南西方3.5海里沖合の漁場に至って操業したのち、08時33分渡波尾埼灯台から270度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点を発し、帰途に就いた。
ところで、渡波港の港口付近は、港界付近及び石巻港東部との間に養殖施設が設けられていたことから、可航水域が限定されていたうえ、良好な釣場になっていたので錨泊して遊漁中の船舶も多かった。
また、喜宝丸の貝桁網漁法は、前部甲板上からやり出しと呼ばれる4本の棒を振り出し、それらの棒の先に曳綱ワイヤーを取り付け、各ワイヤーの先端に桁網を繋いだ装置で、海底に達した同網を曳いて操業を行い、操業終了後、同網を船内に収納したのち、やり出しを船内に納めていた。
発進後、A受審人は、妻が前部甲板上で漁具の片付け作業を始めたので機関回転数を調整し、尾埼西方沖合にある石巻漁港沖第2号灯浮標を船首目標にして航行し、08時52分少し過ぎ渡波港長浜防波堤灯台(以下「長浜防波堤灯台」という。)から212度2.4海里の地点において、針路を渡波港港口に向く033度に定め、機関回転数毎分800の半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として手動操舵で進行した。
08時58分A受審人は、長浜防波堤灯台から209度800メートルの地点に達したとき、船首わずか右方500メートルのところに、錨泊中を示す黒球を掲げた秀丸が存在し、その船首を東北東方向に立てて止まっている様子から錨泊中であると認めることができ、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、出航時に港口付近に遊漁中の船を認めなかったので、前路に錨泊して遊漁中の他船はいないものと思い、港内を航行しているのであるから、平素より注意して前路の見張りを十分に行うべきであったのに、妻が船首部で漁具の収納作業を行っていたのでこれを注視し、秀丸に気付かず、針路を右に転じないまま同船を避けずに続航した。
08時59分少し過ぎA受審人は、同方位200メートルのところの秀丸に接近したが、依然前路に錨泊して遊漁中の他船はいないものと思って進行していたところ、09時00分わずか前前方を見たところ、秀丸を間近に初認し、慌てて機関を後進にかけて左舵を取ったものの、喜宝丸は、09時00分長浜防波堤灯台から202度300メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が秀丸の右舷船尾部に後方から34度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、秀丸は、時折遊漁船業に従事するFRP製モーターボートで、昭和57年7月に一級小型船舶操縦士免許を取得し、救命胴衣を着用したB受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日08時00分渡波港の万石浦西岸の係留地を発し、同時15分前示衝突地点付近の釣場に着いた。
B受審人は、付近に微弱な潮流があったので、長さ20メートル径10ミリメートルのナイロン製ロープの先端に7キログラムのストックアンカーを取り付け、他端を右舷船尾のクリートに結わえたのち、これを投入して錨泊を示す黒球を船尾部に掲げ、機関を停止して前部甲板から各舷2本の釣り竿を出し、操縦機室前の台に腰掛けて船首方を向き、同竿を注意しながらカレイ等の釣りを始めた。
B受審人は、しばらくして釣場付近の釣船が自船を含めて3隻になったのを認め、08時55分少し前船首が067度を向いていたとき、右舷船尾34度1,300メートルのところに、渡波港に向かって北東進する喜宝丸を初認し、その後同船の航行模様を見続けた。
08時58分B受審人は、喜宝丸が右舷船尾同方位500メートルに近づき、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況になったが、喜宝丸は近づいてから自船を替わしていくものと思い、速やかに機関を前進にかけ錨索を伸ばすなどして喜宝丸との衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けた。
08時59分少し過ぎB受審人は、喜宝丸が同方位200メートルのところまで接近したのに気付いたが、依然衝突を避けるための措置をとらず、更にバケツを叩くなどして避航を促すための有効な音響による信号を行わなかった。
09時00分わずか前B受審人は、喜宝丸が至近に迫ったので衝突の危険を感じ、大声で叫んで船首部に移動したのち、秀丸は、船首が067度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、喜宝丸は、右舷船首部に擦過傷を生じ、秀丸は、右舷船尾部外板を圧壊して転覆したが、喜宝丸により渡波港に引きつけられて上架し、のち修理された。B受審人は海中に投げ出され、その後転覆した自船の船底に這い上がっていたところ、付近で釣りをしていた他船に救助された。
(原因)
本件衝突は、渡波港において、喜宝丸が、見張り不十分で、港口付近で釣りのため錨泊中の秀丸を避けなかったことによって発生したが、秀丸が、衝突を避けるための措置をとらず、避航を促すための有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、渡波港において、漁場から帰航するにあたり、港口に接近する場合、前路で錨泊中の秀丸を見落とすことのないよう、平素以上に注意して前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、出航時に港口付近に遊漁中の船を認めなかったこともあって、前路に錨泊して遊漁中の他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊して魚釣り中の秀丸に気付かず、右転するなどして同船を避ける措置をとらずに進行して衝突を招き、喜宝丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、秀丸の右舷船尾部外板を圧壊して転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、渡波港において、港口付近で魚釣り中、喜宝丸の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた場合、機関を前進にかけ錨索を伸ばすなどして喜宝丸との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、喜宝丸は近づいてから自船を替わしていくものと思い、喜宝丸との衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。