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平成16年仙審第47号
件名

遊漁船明神丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月14日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄、勝又三郎、内山欽郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:明神丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部が圧壊、釣り客3人が頸椎捻挫等の負傷

原因
見張り不十分

主文

 本件衝突は、航泊禁止区域を航行したばかりか、見張り不十分で、防波堤に向けて転舵進行したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月29日05時46分
 福島県松川浦漁港
 (北緯37度50.2分東経140度58.6分)

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船明神丸
総トン数 10トン
全長 19.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 496キロワット

3 事実の経過
 明神丸は、航行区域を限定近海区域とするFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客7人を乗せ、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、釣り客がまだ釣りの準備を終えていなかったので、操舵室の両舷に40ワットの照明灯を2灯ずつ点灯したまま、平成16年1月29日05時40分福島県松川浦漁港を発し、同県鵜ノ尾埼南東方沖合の釣り場に向かった。
 ところで、松川浦漁港では、相馬港松川浦南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から027度(真方位、以下同じ。)方向へ200メートルにわたり、南防波堤新設工事が実施されており、同灯台から082.5度390メートルの地点(以下「イ点」という。)、イ点から210.5度250メートルの地点(以下「ロ点」という。)、ロ点から301度550メートルの地点(以下「ハ点」という。)及びハ点から030度250メートルの地点(以下「ニ点」という。)をそれぞれ結んだ区域内を航泊禁止区域とし、この区域の四隅には光達距離3.5海里の灯浮標が、また、イ点とニ点の間にはイ点から190メートルの地点とニ点から190メートルの地点に光達距離3.0海里の補助灯浮標がそれぞれ設置されていた。
 また、前示航泊禁止区域と北方の沖防波堤間は、約500メートルの可航幅があり、松川浦漁港から沖合の釣り場に向かうにあたっては、同区域を迂回して航行する必要があった。
 05時43分半A受審人は、南防波堤灯台から237度460メートルの地点に達したとき、前路に航泊禁止区域が設定されていることは知っていたが、今まで昼間に数回航行したことがあり、また、他の漁船なども航行しているのを見ていたので、航行しても大丈夫と思い、同区域を迂回して釣り場に向かうことなく、針路を南防波堤灯台と航泊禁止区域西端の灯浮標とのほぼ中間に向く040度に定め、機関回転数を毎分750にかけて8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、レーダーを0.75海里レンジとして作動させ、手動操舵により進行した。
 05時45分A受審人は、南防波堤灯台から296度140メートルの地点に達したとき、左舷船首方400メートルばかりのところに、ニ点に設置された灯浮標の東側を航過する態勢で入港する漁船を認めたので、同船と著しく接近するのを避けようと思い、針路を055度に転じて続航した。
 針路を転じたとき、A受審人は、イ点とニ点の間に設置された2個の灯浮標のうち、西側の灯浮標をほぼ正船首方に視認する状況となり、新設中の南防波堤先端に著しく接近する針路となったが、左舷方から入港する漁船の動向に気を取られ、照明灯を消し、速力を減じて漁船と無難に航過するのを待つとか、作動中のレーダーで右舷方の防波堤の状況を確認することなく、このことに気付かないまま進行した。
 05時46分少し前A受審人は、正船首方に入港中の漁船を認める状況となり、前路の灯浮標の見え具合から、築造中の防波堤の先端部を替わったものと思い、右舵10度をとって回頭中、05時46分南防波堤灯台から027度190メートルの地点において、新設南防波堤の先端部から約10メートルのところに、右舷船首部が衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、日出は06時44分であった。
 衝突の結果、船首部を圧壊し、釣り客3人が頸椎捻挫等の負傷をした。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、過去に航泊禁止区域を航行した経験があったこと
2 A受審人が、航泊禁止区域を航行したこと
3 A受審人が、入出港船の少ない時間帯であり、照明灯を点灯したまま航行しても大丈夫と思っていたこと
4 点灯した照明灯が、周囲の見張りの妨げとなっていたこと
5 A受審人が、レーダーによる周囲の見張りを行っていなかったこと
6 A受審人が、左舷前方から入港する漁船に気を取られていたこと
7 A受審人が、左舷前方から漁船が入港中であったので、左舵は取れないと思い込んでいたこと
8 A受審人が、停船することを全く考えていなかったこと

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、福島県松川浦漁港において、釣り場に向かって航行する際、航泊禁止区域を航行したばかりか、見張り不十分で、築造中の防波堤に向けて転舵進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、福島県松川浦漁港において、釣り場に向かって航行する場合、築造中の防波堤の周囲には航泊禁止区域が設定されていたのであるから、同区域に入ることのないよう、同区域を迂回して航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、今まで昼間に数回航行したことがあり、また、他の漁船なども航行しているのを見ていたので、航行しても大丈夫と思い、航泊禁止区域を迂回して航行しなかった職務上の過失により、同区域の中を航行し、左舷前方から入港する漁船の動向に気を取られ、右舷方で築造中の防波堤に向けて転舵進行し、同堤との衝突を招き、船首部を圧壊させ、釣り客に頸椎捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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