(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月16日03時00分
秋田船川港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船天栄丸 |
総トン数 |
14トン |
登録長 |
16.49メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
3 事実の経過
天栄丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年2月に取得した一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成16年5月15日09時20分北海道江差港を発し、操業場所を特定しないまま、秋田県沖合の漁場に向かった。
17時ごろA受審人は、秋田船川港沖合で操業中の江差在住の同僚漁船に操業模様を確認したところ、釣果がある旨の情報を得たので、男鹿半島の南西方11海里ばかりの漁場に向かうことにして航行を続け、翌16日00時ごろ漁場に至って操業中の僚船を認め、同船を1海里ばかり離して操業を始めた。
01時ごろA受審人は、まいか25キログラムを漁獲したとき、僚船が予定量のまいかを漁獲したので、水揚げのため秋田船川港に入港するのを知り、同人は同港への入港経験がなかったが、僚船に追随して入港すれば大丈夫と思い、港内の状況を把握できるよう、自船が所持する水路誌で前もって同港の水路調査を十分に行うことなく、直ちに操業を打ち切り、僚船に追随して漁場を発進した。
A受審人は、僚船と900メートルばかりの船間距離を保って航行を続け、02時55分少し前船川防波堤灯台から028度(真方位、以下同じ。)430メートルの地点に達したとき、針路を279度に定め、機関の回転数を毎分1,000の半速力前進に下げ、6.0ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
A受審人は、速力を減じないで先行する僚船との船間距離が拡大し、まもなく同船を見失い、陸上の灯火などに視認を妨げられた前路の船川芦沢防波堤に気付かないまま続航し、02時58分少し過ぎ船川防波堤灯台から317.5度660メートルの地点に達したとき、前路の錨泊船を替わしたので、針路を261度に転じて進行した。
天栄丸は、A受審人が依然として前路の船川芦沢防波堤に気付くことなく続航中、03時00分船川防波堤灯台から299.5度870メートルの船川芦沢防波堤先端部に原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突の結果、天栄丸は、右舷船首部外板及びブルワークなどに破損を、防波堤先端部及び船川芦沢防波堤南灯台基部に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、秋田船川港に入港する際、水路調査が不十分で、船川芦沢防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、初めて秋田船川港に入港する場合、自船が水路誌を所持していたのであるから、港内の状況を把握できるよう、前もって水路調査を十分に行っておくべき注意義務があった。しかるに、同人は、同港に入港する僚船に追随して行けば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、自らの減速により、先行する僚船との船間距離が離れて同船を見失い、前路に船川芦沢防波堤が存在することに気付かないまま進行して同堤との衝突を招き、右舷船首部外板及びブルワークなどに破損を、同堤先端部及び船川芦沢防波堤南灯台基部に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。