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平成16年函審第67号
件名

漁船第一遥丸漁船明宝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、黒岩 貢、古川隆一)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:第一遥丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:明宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第一遥丸・・・船首部に擦過傷
明宝丸・・・右舷後部ブルワークに破口など

原因
第一遥丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
明宝丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第一遥丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の明宝丸を避けなかったことによって発生したが、明宝丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月2日15時00分
 北海道利尻島北方沖合
 (北緯45度16.4分 東経141度13.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第一遥丸 漁船明宝丸
総トン数 9.98トン 9.1トン
全長 17.30メートル 18.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80 120
(2)設備及び性能等
ア 第一遥丸
 第一遥丸(以下「遥丸」という。)は、昭和53年6月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央に操舵室が設けられ、レーダーのほかGPSプロッター等が装備されていた。
イ 明宝丸
 明宝丸は、昭和63年6月に進水した、いか一本つり漁業などに従事するFRP製漁船で、船体中央に操舵室が設けられ、レーダーのほかGPSプロッター等が装備されていた。

3 事実の経過
 遥丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成15年11月2日13時00分北海道船泊港を発し、利尻島北方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵室後方の甲板で漁具の整理を行いながら礼文島東岸を南下し、14時40分鴛泊灯台から328度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点に達したとき、針路を135度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力とし、自動操舵で進行した。
 定針後しばらくしてA受審人は、レーダー画面を覗くとともに前路を一瞥したところ他船を認めなかったことから、再度操舵室後方の甲板に赴き、漁具の整理を行いながら続航した。
 14時57分半A受審人は、鴛泊灯台から346度2.0海里の地点に至ったとき、正船首700メートルに明宝丸を認めることができ、同船が錨泊中の船舶であることを示す形象物を表示していなかったものの、風上に向首したまま停止状態であったことから、錨泊中と分かる状況であり、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、明宝丸を避けることなく進行した。
 こうして遥丸は、明宝丸に向首したまま続航中、15時00分鴛泊灯台から352.5度1.7海里の地点において、原針路原速力のまま、その船首部が明宝丸の右舷後部に直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、明宝丸は、B受審人ほか1人が乗り組み、いか一本つり漁業の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日13時30分北海道鴛泊港を発し、同港北方沖合の漁場に向かった。
 14時00分B受審人は、衝突地点付近の漁場に至り、水深75メートルのところに左舷船首から錨を投じて錨索を200メートル延出し、錨泊中の船舶であることを示す形象物を表示せずに錨泊を始め、折からの南西風に船首を立てた状態でいか釣り機を作動させ、操業を開始した。
 14時40分B受審人は、右舷正横3海里に来航する遥丸を初認したものの、未だ遠方だったことから気にも留めず、乗組員を前部甲板に配置して漁獲物の整理に当たらせ、自らは操舵室後部のいすに腰掛けていか釣り機を監視しながら錨泊を続けた。
 14時57分半B受審人は、船首が225度を向いているとき、遥丸が右舷正横700メートルに接近し、自船に向首して衝突のおそれがある態勢となったが、遥丸が接近しても錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、遥丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、注意喚起信号を行うことも、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく、15時00分少し前、ふと右舷方を見て、間近に迫る遥丸の船首部を認め、機関を前進としたが、効なく、明宝丸は、225度を向首したまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、遥丸は、船首部に擦過傷を、明宝丸は、右舷後部ブルワークに破口などをそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、北海道利尻島北方沖合において、漁場に向け航行中の遥丸と錨泊中の明宝丸とが衝突したもので、衝突した地点が特別法である港則法及び海上交通安全法の適用海域でないことから一般法である海上衝突予防法が適用されるが、航行中の船舶と錨泊中の船舶間に適用する個別航法規定がないことから、同法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 遥丸
(1)A受審人が、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が、操舵室後方の甲板で漁具の整理を行ったこと
(3)A受審人が、明宝丸を避けなかったこと
2 明宝丸
(1)B受審人が、錨泊中の船舶であることを示す形象物を表示しなかったこと
(2)B受審人が、遥丸が錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、遥丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(3)B受審人が、操舵室後部のいすに腰掛けていか釣り機の監視に当たったこと
(4)B受審人が、注意喚起信号を行わなかったこと
(5)B受審人が、衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 遥丸は、見張りを十分に行っていれば、前路で錨泊している明宝丸が存在し、衝突のおそれがある態勢で同船に接近していることが分かり、明宝丸を避けることができたものと認められる。
 したがって、A受審人が、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかったこと及び明宝丸を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が、操舵室後方の甲板で漁具の整理を行ったのは、見張り不十分となった理由の一つと考えられるものの、見張り不十分となった理由は前路に他船はいないものと認識したことにあるから、適切な見張りを行い得る状況にある限り、原因とするまでもない。
 明宝丸は、B受審人が遥丸を視認していたのであるから、同船に対する動静監視を十分に行っていれば、注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもできたものと認められる。またA受審人が、明宝丸の発する注意喚起信号を聞いたなら、衝突のおそれがある態勢で同船に接近していることに気付くことができ、明宝丸を避けることができたものと認められる。
 したがって、B受審人が、遥丸が錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、遥丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと、注意喚起信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B受審人が、錨泊中の船舶であることを示す形象物を表示しなかったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当因果関係があると認められない。しかしながら、海難防止の観点から是正されるべきである。
 B受審人が、操舵室後部のいすに腰掛けていか釣り機の監視に当たったのは、遥丸に対する動静監視が不十分となった理由の一つと考えられるものの、動静監視が不十分となった理由は遥丸が錨泊中の自船を避けてくれるものと認識したことにあるから、動静監視のため適切な見張りを行い得る状況にある限り、原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は、北海道利尻島北方沖合において、遥丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の明宝丸を避けなかったことによって発生したが、明宝丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、北海道利尻島北方沖合において、漁場に向け航行する場合、前路に錨泊中の明宝丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、明宝丸に向首接近していることに気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、遥丸の船首部に擦過傷を、明宝丸の右舷後部ブルワークに破口などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、北海道利尻島北方沖合において、錨泊中、来航する遥丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、遥丸が接近しても錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることなく、遥丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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