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平成16年函審第58号
件名

巡視艇かわぎり漁船第六十三日進丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢、岸 良彬、古川隆一)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:かわぎり船長 海技免許:二級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:かわぎり主任航海士 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:第六十三日進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
かわぎり・・・右舷側中央部外板に破口、同中央部ハンドレールに損傷
第六十三日進丸・・・船首部に擦過傷

原因
第六十三日進丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
かわぎり・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第六十三日進丸が、見張り不十分で、漂泊中のかわぎりを避けなかったことによって発生したが、かわぎりが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月2日07時03分
 北海道根室海峡
 (北緯43度55.3分 東経145度16.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 巡視艇かわぎり 漁船第六十三日進丸
総トン数 157.56トン 19トン
登録長 30.50メートル 17.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,530キロワット 551キロワット
(2)設備及び性能等
ア かわぎり
 かわぎりは、昭和54年6月に進水した2機2軸の一層甲板型軽合金製巡視艇で、甲板下には船首側から順に、船首倉庫、船員室、船長室、機関長室、機関室が、上甲板中央部には、船首側から順に操舵室、調理室、機関室囲壁、甲板部倉庫等が配置され、操舵室上部は、操舵スタンド、機関遠隔操舵装置が備わった予備操舵室となっていた。操舵室は、幅4.3メートル船首尾方向の長さ2.7メートルで、前部中央に操舵スタンドが、その左舷側に機関制御盤が、右舷側にレーダー、書棚等が、後部中央から右舷側にかけて無線機、警備救難情報装置、海図台等がそれぞれ備わり、甲板上への出入口が後部左舷側にあり、出入口と無線機の間に甲板下に降りる階段が設置されていた。また、同室左舷側後部隅、機関制御盤後部、操舵スタンド両脇及び後部並びに無線機前側には椅子がそれぞれ置かれていた。
イ 第六十三日進丸
 第六十三日進丸(以下「日進丸」という。)は、平成2年10月に進水した刺網漁業等に従事する鋼製漁船で、船体中央部に操舵室を備え、旋回径約50メートル、最短停止距離40ないし50メートルで、航海計器としてレーダー、GPSプロッター等を備えていた。

3 事実の経過
 かわぎりは、A及びB両受審人ほか6人が乗り組み、船首1.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成15年9月1日13時00分北海道羅臼港を発し、根室港北方沖合で哨戒業務に従事したのち、翌2日04時15分同沖合を発進し、根室海峡に向かって北上した。
 ところで、根室海峡は、ロシア連邦(以下「ロシア」という。)が主張する領海と接しており、日本船舶がこの領海に入ると、ロシア側に臨検・拿捕されるおそれがあった。このため、北海道海面漁業調整規則に基づく操業制限区域を示す線(以下「参考ライン」という。)が、同海峡のほぼ中央に設定されたロシア主張の領海線に沿って設けられ、参考ラインを越えないよう、日本船舶に対する海上保安庁の監視・指導が行われており、かわぎりは、この業務のため根室海峡に向かったものであった。
 かわぎりの船橋当直は、A及びB両受審人が当直士官となってほぼ4時間交代輪番制で行い、食事時には両人のうち非番の者が昇橋して当直に就くことになっていた。また、同船では、各直に操舵員、機関担当者、見張り員が入直して4人体制で当直が行われ、操舵員は操舵スタンド後部の椅子に腰を掛けて操舵と前方の見張りを、機関担当者は機関制御盤後部の椅子に腰を掛けて機関操作と船首方から左舷方にかけての見張りを、見張り員が当直士官とともに周囲全体の見張りをそれぞれ担当することにしていたが、当時、乗組員2人が休暇中であったため、各直に操舵員、機関担当者のみが入る3人体制での当直が行われていた。
 05時00分B受審人は、A受審人と交代して操舵員、機関担当者とともに当直に就き、北上を続けたところ、06時50分羅臼港の南東方7海里付近に達したとき、参考ラインの西側海域で操業する20隻ばかりの日本漁船を認めたことから、これらの漁船に対する監視業務を行うこととし、船首を点在する操業漁船に向く南西方としたところで機関を中立とし、06時52分羅臼港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から151度(真方位、以下同じ。)6.6海里の地点で漂泊を開始した。
 このころB受審人は、周囲をいちべつし、自船に接近する他船を認めなかったことから、海上保安本部等に送信する報告書を07時ごろからの食事交代の前に作成することとし、他の2人の当直者がいずれも持場の椅子に腰を掛け、船首方にのみ注意を払う状況であったが、無線機手前に置かれた椅子に後壁を向いた姿勢で腰を掛け、パーソナルコンピューター(以下「パソコン」という。)を使って報告書の作成を始めた。
 07時00分B受審人は、船首が270度を向いているとき、右舷船尾45度730メートルのところに自船に向首する日進丸を認めることができ、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、自船に接近する他船はいないものと思い、操舵員に周囲の確認を依頼するなどして周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 一方、A受審人は、このころ食事交代のため操舵室後部の階段から昇橋し、B受審人が後壁を向いた姿勢で報告書作成中であること、また、他の2人の当直者も船首方の操業漁船のみに注意を払っていることを認め、船尾方の見張りが行われていない状況であったが、経験豊富な主任航海士だから報告書を作成しながらでも周囲の見張りを十分に行っているものと思い、自ら周囲の見張りを行わなかったので、日進丸の接近に気付かず、船首方を向いた姿勢で機関担当者の後方に立ち、B受審人の引継準備が終わるのを待った。
 こうして、かわぎりは、日進丸に対し警告信号を行うことも、同船が更に接近したとき機関を前進にかけて移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく船首を270度に向けて漂泊中、07時03分西防波堤灯台から151度6.6海里の地点において、その右舷中央部に日進丸の船首が後方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界良好であった。
 また、日進丸は、C受審人ほか3人が乗り組み、刺網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、9月2日00時50分羅臼港を発し、同港の南東方4ないし6海里の漁場において06時30分ごろまで操業を繰り返したのち、さらにその南西方5海里ばかりの漁場に向かうこととした。
 06時33分C受審人は、羅臼港西防波堤灯台から115度6.6海里の地点を発進し、針路を225度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、まもなく操舵室右舷側に置いた椅子に右舷方を向いた姿勢で腰を掛け、右舷船首方で操業中の僚船と無線電話により漁模様や同船の周辺で操業する漁船の船名を聞くなどの通話を始めた。
 07時00分C受審人は、正船首730メートルに漂泊中のかわぎりを認めることができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、僚船との無線電話に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、かわぎりを避けないまま続航した。
 まもなくC受審人は、無線電話を終えたが、引き続き右舷方の僚船周辺で操業する他船の漁模様に注目し、かわぎりに気付かないまま進行中、07時03分少し前ふと前方に目をやったとき、船首至近にかわぎりの船体を認め、直ちに機関を全速力後進にかけたが及ばず、日進丸は、原針路のまま約4ノットとなった速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、かわぎりは、右舷側中央部外板に破口を、同中央部ハンドレールに損傷をそれぞれ生じたが、のち、修理され、日進丸は、船首部に擦過傷を生じた。

(航法の適用)
 本件は、北海道根室海峡において、航行中の日進丸と漂泊中のかわぎりとが衝突したもので、海上衝突予防法にはこれら両船に適用する個別の航法規定が存在しないことから、同法第38条及び第39条の規定により律することになる。

(本件発生に至る事由)
1 かわぎり
(1)B受審人が、接近する他船はいないものと思い、報告書を作成していたこと
(2)B受審人が、見張りを十分に行っていなかったこと
(3)A受審人が、B受審人が報告書を作成しながらも周囲の見張りを行っていると認識したこと
(4)A受審人が、見張りを十分に行っていなかったこと
(5)B及びA両受審人とも、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったこと
2 日進丸
(1)C受審人が、僚船との無線電話に気をとられていたこと
(2)C受審人が、見張りを十分に行っていなかったこと
(3)C受審人が、漂泊中のかわぎりを避けなかったこと

(原因の考察)
 かわぎりが適切な見張りを行っていたなら、余裕のある時期に接近する日進丸を視認でき、同船に避航の気配がなかったのであるから、警告信号を行い、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、A及びB両受審人が、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B受審人は、報告書の作成に入る前周囲をいちべつし、日進丸を含む20隻ばかりの漁船を視認しており、接近する他船はいないと認識して報告書の作成に入ったもので、これが周囲の見張りを行わなかった理由であるが、報告書作成中は、船尾方に対する見張り要員がいなくなるのであるから、操舵員を一旦操舵の任務から離し、周囲の見張りを行わせるなどして、十分な見張りを行うべきであった。
 A受審人は、食事交代で昇橋したとき、B受審人が操舵室後部で後壁を向いて報告書作成中で、他の当直員2人も船首方の操業漁船を見ており、船尾方の見張りが行われていない状況であったが、B受審人は経験豊富な主任航海士であるから報告書を作成しながらでも周囲の見張りを行っているものと認識した。このことがA受審人自ら周囲の見張りを行わなかった理由であるが、漁船の多い海域でもあり、十分に周囲を確認すべきであった。
 一方、日進丸が適切な見張りを行っていたなら、余裕のある時期に漂泊中のかわぎりを視認でき、同船を容易に避けることができたものと認められる。
 したがって、C受審人が、見張りを十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
 C受審人は、漁場発進後、まもなく僚船との無線電話を開始し、これに気をとられていたことが、見張りを十分に行わなかった理由であり、海難防止の観点から是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、北海道根室海峡において、漁場移動中の日進丸が、見張り不十分で、漂泊中のかわぎりを避けなかったことによって発生したが、かわぎりが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、北海道根室海峡において、漁場移動する場合、漂泊中のかわぎりを見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、僚船との無線電話に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、かわぎりへの接近に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、かわぎりの右舷側中央部外板に破口及び同中央部ハンドレールに損傷を、自船の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、北海道根室海峡において、漂泊中、食事交代のため昇橋した際、当直士官が後壁を向いて報告書を作成し、他の当直者2人も船首方にのみ注意を払っている状況を認めた場合、自ら周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同受審人は、当直士官が経験豊富な主任航海士であるから報告書を作成中であっても十分に見張りを行っているものと思い、自ら周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、日進丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関をかけてその場から離れるなど、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、北海道根室海峡において、漂泊して当直中、報告書を作成する場合、接近する日進丸を見落とさないよう、操舵員等に見張りを行わせるなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同受審人は、報告書作成前に周囲をいちべつして接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、日進丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関をかけてその場から離れるなど、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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