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平成16年長審第40号
件名

漁船周唯モーターボート松二丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:周唯船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:周唯操縦者
受審人
C 職名:松二丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
周 唯・・・左舷船首部に擦過傷
松二丸・・・右舷中央部外板に亀裂、船長が7日間の入院加療を要する両下肢打撲の負傷

原因
周 唯・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守
松二丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、周唯が、見張り不十分で、松二丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、松二丸が、見張り不十分で、周唯との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月2日06時20分
 平戸瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 漁船周唯 モーターボート松二丸
総トン数 16トン  
全長 18.52メートル  
登録長   4.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   7キロワット
漁船法馬力数 110  

3 事実の経過
 周唯は、中型旋網漁船団の漁獲物運搬に従事する船体中央よりやや後方に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人(平成9年3月一級小型船舶操縦士免許取得)及びB指定海難関係人が2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、船団とともに平成15年9月1日17時00分長崎県矢岳漁港を発し、20時00分平戸島北西沖合漁場に至って操業に取りかかったが、B指定海難関係人に急用ができたことから船団を離れて帰航することとし、翌2日03時00分大碆鼻灯台から北西方23海里ばかりの漁場を発進して帰途に就いた。
 ところで、周唯は、約10ノット以上の速力で航行すると船首が浮上し、舵輪後方のいすに腰掛けた姿勢で操船に当たると、正船首方向左右各舷約5度の範囲に死角を生じて見張りの妨げとなることから、船首を左右に振るなどして船首死角を補う必要があった。
 A受審人は、漁場を発進したのち、そのまま単独で操舵操船に当たって南東進するうち、操業開始後連続した就労で疲れを覚えたことから、05時25分ごろB指定海難関係人に昇橋するよう連絡した。
 05時30分A受審人は、大碆鼻灯台から北方1.5海里の地点に達したとき、30分ばかりで平戸瀬戸にかかり、それから1時間もすれば入港することは知っていたものの、B指定海難関係人が同瀬戸の通航及び操船経験も十分にあったことから、大丈夫と思い、平戸瀬戸通航時は自ら操船の指揮を執ることができるよう、そのまま在橋して2人で当直に当たるなどの措置をとることなく、昇橋してきた無資格のB指定海難関係人に船橋当直を任せて降橋し、自室で休息した。
 B指定海難関係人は、白岳瀬戸を通過し、やがて平戸瀬戸に入航したが、A受審人に操船指揮を要請しないまま単独で操舵操船に当たり、広瀬導流堤灯台の西方70メートル付近に向けて南下し、06時17分南風埼灯台から355度(真方位、以下同じ。)1,060メートルの地点において、針路を180度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの弱い潮流に乗じて11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)でいすに腰掛け、手動操舵により進行した。
 定針したとき、B指定海難関係人は、右舷船首3度890メートルのところに船首を340度に向けて機関を後進にかけ、釣りを開始したばかりの松二丸を視認できる状況であったが、船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行わなかったので、松二丸の存在に気付かなかった。
 その後、B指定海難関係人は、松二丸の方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、さらに接近しても右転するなど、松二丸との衝突を避けるための措置をとらずに進行し、06時20分南風埼灯台から270度100メートルの地点において、周唯は、原針路、原速力のまま、その船首が松二丸の右舷中央部に後方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力3の南風が吹き、視界は良好で、衝突地点付近には0.5ノットの南方に流れる潮流があった。
 A受審人は、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置に当たった。
 また、松二丸は、有効な音響による信号を行うことができる設備を有さない、船体中央部に操縦席がある無蓋のFRP製モーターボートで、C受審人(昭和58年7月四級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、一本釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日05時55分長崎県田平港の係留地を発し、06時00分南風埼北西方150メートル付近の釣り場に到着し、鯛の一本釣りを開始した。
 C受審人は、平素のように船首を潮流にたてて機関を後進にかけ、陸岸に沿ってゆっくり南下し、06時15分南風埼灯台から154度760メートルの地点に達して釣りを開始した地点に戻ることとし、機関を全速力前進にかけて北上し、予定地点に至って機関を一旦停止したのち、06時17分南風埼灯台から320度230メートルの地点において、船尾右舷側で船首方を向いて座り、右手で釣り糸をしゃくり、左手で船外機の舵柄を操作して船首を340度に向け、機関を微速力後進にかけ、2.0ノットの速力で折からの南方に流れる潮流に乗じて5度右方に圧流されながら165度の方向に後進した。
 後進を始めたとき、C受審人は、右舷船首23度890メートルのところに南下中の周唯を視認できる状況であったが、自船は低速力で後進しながら釣りをしているので航行中の他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、周唯の存在に気付かなかった。
 その後、C受審人は、周唯が、その方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近したが、機関を前進に切り替え、左転するなどして衝突を避けるための措置をとらずに釣りを続け、06時20分わずか前自船に向首する態勢で接近する周唯を初めて視認し、右舵一杯に転じ、機関を全速力後進にかけたが及ばず、松二丸は、船首が225度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、周唯は、左舷船首部に擦過傷を、松二丸は、右舷中央部外板に亀裂をそれぞれ生じ、C受審人が、7日間の入院加療を要する両下肢打撲を負った。

(原因)
 本件衝突は、平戸瀬戸において、南下中の周唯が、見張り不十分で、釣りをしながら低速力で後進中の松二丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、松二丸が、見張り不十分で、周唯との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 周唯の運航が適切でなかったのは、船長が、平戸瀬戸を通航する際、操船の指揮を執らなかったことと、無資格の操縦者が前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操業を中断して長崎県矢岳漁港に帰航するため、平戸瀬戸を通航する場合、間もなく同瀬戸に入航するのだから、そのまま在橋して2人で当直に当たるなどの措置をとり、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、B指定海難関係人が同瀬戸の通航及び操船経験も十分にあったことから、大丈夫と思い、無資格の操縦者に船橋当直を任せて降橋し、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、同操縦者が、前路の松二丸を見落とし、同船に気付かないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首部に擦過傷を、松二丸の右舷中央部外板に亀裂をそれぞれ生じさせ、C受審人に7日間の入院加療を要する両下肢打撲を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、平戸瀬戸において、船首方を向いて座り、釣りをしながら低速力で後進する場合、右舷船首方から衝突のおそれがある態勢で接近する周唯を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は低速力で後進しながら釣りをしているので航行中の他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する周唯に気付かず、周唯との衝突を避けるための措置をとらずに釣りを続けて同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、船橋当直に当たる際、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、船橋当直に当たる際には、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行い、安全運航に努めなければならない。


参考図
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