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平成16年長審第32号
件名

漁船好栄丸漁船秀宝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦、山本哲也、藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:好栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:秀宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
好栄丸・・・船首部船底に擦過傷
秀宝丸・・・船首部が大破、マスト折損

原因
好栄丸・・・見張り不十分、船員の常務不履行(切迫した衝突の危険を生じさせたこと)(主因)
秀宝丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、好栄丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の秀宝丸に対して切迫した衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、秀宝丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月3日06時00分
 長崎県三重式見港沖合
 (北緯32度46.6分 東経129度46.2分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 漁船好栄丸 漁船秀宝丸
総トン数 4.97トン 3.3トン
登録長 10.74メートル 10.17メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 70
(2)設備及び性能等
ア 好栄丸
(ア)船体構造等
 好栄丸は、昭和53年4月に進水した主として太刀魚ひき縄釣漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央より少し後方に操舵室を備えてその天井には天窓が設けられ、船首部ブルワークの高さが喫水線上約1.70メートルであった。
 操舵室には、右舷側に舵輪と機関計器盤があってその後方に背もたれの付いたいすが備え付けられ、同室前面の棚に右舷側から機関遠隔操縦装置、GPS、レーダー及び魚群探知機が配置され、舵輪の下方にマグネットコンパスが備えられていた。
(イ)操縦性能等
 最大速力は、機関回転数毎分2,100の約20ノットで、通常、漁場での移動時における航行速力は同回転数毎分1,500の約15ノットとし、最大舵角時の旋回径が約25メートルであった。
(ウ)操舵室からの前方見通し状況
 操舵室前面は、窓枠によって左右に2分割されたガラス窓となっており、右舷窓に旋回窓が備えられ、同室前側中央に立った状態での喫水線上の眼高が約2.50メートルで、航行中には速力を増すにつれて船首が浮上するようになり、約10ノットを超えると船首構造物により前方に死角を生じ、その範囲が約15ノットで最大となり、正船首から両舷側にそれぞれ約10度の範囲に死角が生じる状況であった。
イ 秀宝丸
 秀宝丸は、昭和57年10月に進水した主として太刀魚ひき縄釣漁業に従事する、有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で、船体中央より少し後方に操舵室を備えて、その後部が船尾甲板となっていた。

3 事実の経過
 好栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、太刀魚ひき縄釣漁業の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年8月3日04時45分長崎県三重式見港を発し、同港沖合500メートルばかりの漁場に至り、太刀魚ひき縄釣漁業に従事した。
 太刀魚ひき縄釣漁業は、釣り針をつけた枝縄を長さ200メートルから250メートルの幹縄に60本ばかり取り付けた仕掛けを船尾から海中に投入し、えい航して太刀魚を捕獲するもので、ひき縄中は独航時に比べ操縦性能が低下するものの、針路及び速力の変更は可能であった。
 A受審人は1回目の操業を終了し、揚縄を終えたのち、漁模様が良くなかったので2回目の投縄地点を1回目より少し南側にする予定で移動することとし、05時56分半肥前平瀬灯標(以下「平瀬灯標」という。)から127度(真方位、以下同じ。)3,200メートルの地点を発し、投縄予定地点に向かった。
 05時58分A受審人は、平瀬灯標から127度2,480メートルの地点において、船首を左右交互に少し振りながら西行していたとき、右舷前方1,000メートル付近に太刀魚ひき縄釣漁業のため50メートルばかりの等間隔に並んでひき縄中の南下する漁船3隻を認め、再度1回目の投縄地点からひき縄を開始することにし、これらの漁船を左舷側に替わしてから同地点に向けるつもりで、針路を325度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室前側中央に立った状態で手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、左舷船首6度1,050メートルにひき縄中の秀宝丸を視認でき、好栄丸がそのままの針路で進行すれば、秀宝丸を左舷側に60メートル離して無難に航過する態勢であったが、前方に3隻の漁船を認めたことから、付近海域には他に漁船がいないものと思い、操舵室の天窓から顔を出して船首死角を補い、見張りを十分に行わなかったので、同漁船のうち、もっとも北側に位置する漁船(以下「第三船」という。)の右舷0.5度20メートルばかり後方で第三船と同方向にひき縄中の秀宝丸の存在に気付かなかった。
 A受審人は、05時59分半平瀬灯標から120度1,830メートルの地点に達したとき、針路を309度に転じたところ、秀宝丸に向首する態勢となり、同船と切迫した衝突の危険を生じさせたが、依然として同船に気付かず、同船を避けないで進行し、06時00分平瀬灯標から119度1,600メートルの地点において、好栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が秀宝丸の船首に正船首方から衝突し、同船の甲板上に乗り上げた。
 当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
 また、秀宝丸は、B受審人が1人で乗り組み、太刀魚ひき縄釣漁業の目的で、船首0.4メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日05時10分三重式見港を発し、前示の漁場に向かった。
 05時35分B受審人は、平瀬灯標から018度300メートルの地点において、船尾に長さ250メートルばかりの仕掛けをひき、針路を端埼沖合200メートル付近に向く129度に定め、機関を微速力前進にかけ、2.2ノットの速力で、自動操舵として折から右舷前方20メートルばかりの第三船とともに進行した。
 05時58分B受審人は、平瀬灯標から118度1,470メートルの地点に達したとき、右舷船首10度1,050メートルに北上する好栄丸を視認したが、自船はひき縄中だから、航行中の他船が避けるだろうと思い、その後動静監視を行わないで船尾甲板で次の投縄準備に取り掛かった。
 05時59分半B受審人は、平瀬灯標から119度1,570メートルの地点に達したとき、好栄丸が針路を左に転じ、自船と切迫した衝突の危険を生じさせる状況となって接近してきたが、依然としてこれに気付かず、右転するなどして衝突を避けるための措置をとらずにひき縄を続け、秀宝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、好栄丸は、船首部船底に擦過傷を生じ、秀宝丸は、船首部が大破したほかマストが折損した。

(航法の適用)
 本件は、長崎県三重式見港沖合において、北上中の好栄丸と南下中の秀宝丸とが衝突したものであり、同海域は港則法の適用がないから、一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 両船は、互いに針路を横切る態勢で接近中、北上中の好栄丸が、その方位が左方に変化して自船の左舷側を無難に航過する態勢であった秀宝丸の船首方約200メートルのところで針路を転じ、その後両船がほとんど真向かいに行き会う態勢で接近したものである。
 一方、秀宝丸は衝突2分前に右舷前方に好栄丸を認め、同船が自船の左舷側を無難に航過するものと認識しており、その後、衝突の30秒前に自船の船首方200メートルのところに自船に向首する態勢で接近する好栄丸を認め、衝突のおそれがあると分かったときには、両船の速力の差から判断して時間的にも、距離的にも切迫した衝突の危険が生じていたものと認められる。
 これにより、本件は、海上衝突予防法に規定された航法によるのは妥当でなく、船員の常務によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 好栄丸
(1)秀宝丸が第三船の後方至近を航行していたこと
(2)航行中の船首方に死角が生じる状態であったこと
(3)A受審人が、死角を補う見張りを行わなかったこと
(4)A受審人が、ひき縄中の漁船3隻を認めたとき、秀宝丸に気付かず、他船がいないものとの認識を持ったこと
(5)A受審人が、見張りを十分に行わず、転針して秀宝丸に向首する態勢となったこと
2 秀宝丸
(1)B受審人が、航行中の他船がひき縄中の自船を避けるものとの認識を持っていたこと
(2)B受審人が、動静監視を十分に行わなかったこと
(3)B受審人が、衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 好栄丸は、15ノットの全速力で航行しており、船首が浮上して船首方に死角が生じていたから、A受審人が、操舵室の天窓から顔を出して船首死角を補い、前方の見張りを十分に行っていれば、南下中の秀宝丸を早期に視認することができ、その動静監視を行って、同船と左舷対左舷で無難に航過することが可能であったものと認められる。
 従って、A受審人が、船首死角を補い、前方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、A受審人が、ひき縄中の漁船3隻を認めたとき、秀宝丸に気付かず、他船がいないものとの認識を持ったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、このことは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 秀宝丸が第三船の後方至近を航行していたことは、A受審人に対して秀宝丸を視認しにくい状況にさせたこととなり、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、同人が、船首死角を補い、前方の見張りを十分に行っていれば、視認することが可能であったと認められることから、本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方、秀宝丸は、B受審人が前路を無難に航過する態勢の好栄丸の動静監視を引き続き行っていれば、衝突30秒前に同船が転針し、切迫した衝突の危険を生じさせた際には、右転して衝突を避けるための措置をとり得たものと認められる。
 従って、B受審人が、動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、B受審人が、航行中の他船がひき縄中の自船を避けるものとの認識を持っていたことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、このことは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、長崎県三重式見港沖合において、漁場を投縄地点に向けて北上中の好栄丸が、見張り不十分で、低速力で無難に航過する態勢の秀宝丸に対し、転針して切迫した衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、南下中の秀宝丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県三重式見港沖合において、漁場を移動する場合、船首方に死角があったから、前路の秀宝丸を見落とさないよう、操舵室の天窓から顔を出して船首死角を補い、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方にひき縄中の3隻の漁船を認めたことから、付近海域には他に漁船がいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、第三船の右舷0.5度20メートルばかり後方の秀宝丸の存在に気付かず、転針して衝突を招き、好栄丸の船首部船底に擦過傷を、秀宝丸の船首部を大破及びマストに折損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、長崎県三重式見港沖合において、ひき縄釣りをして航行中、船首方に自船に接近する好栄丸を初めて認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続いて同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船はひき縄中だから、航行中の他船が避けるだろうと思い、好栄丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船と切迫した衝突の危険を生じさせる状況となって接近していることに気付かず、右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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