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平成16年長審第41号
件名

漁船新光丸漁船第2日の出丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月17日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三、山本哲也、稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:新光丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B、C

損害
新光丸・・・船底部全体に擦過傷、プロペラ及びプロペラ軸が曲損、主機減速機が損傷
日の出丸・・・機関室囲壁が圧壊、船体右舷側後部に破口、のち廃船船長及び甲板員が溺死、甲板員が前胸部打撲傷及び気道損傷等の負傷

原因
日の出丸・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
新光丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2日の出丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る新光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月15日16時25分
 長崎県平戸島南東方沖合
 (北緯33度09.5分 東経129度32.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船新光丸 漁船第2日の出丸
総トン数 4.9トン 2.0トン
全長 13.70メートル 10.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 25
(2)設備及び性能等
ア 新光丸
(ア)船体構造等
 新光丸は、平成11年7月に進水した主として一本釣り漁業に従事する、レーダー及び有効な音響による信号を行うことができる設備を装備しないFRP製漁船で、船首端から船尾方2.20メートルが船首楼甲板で、その後方に長さ4.50メートルの前部甲板があり、同甲板の後端から船尾方の甲板上に長さ4.00メートルの船橋構造物を設けてその後方が後部甲板となっていた。
 船橋構造物は、前部が船室、後部が操舵室となっており、船室内には石油ストーブが置かれ、操舵室には、窓枠によって左右に2分割されたガラス窓を前方に設けて各窓に旋回窓が取り付けられ、両舷に開閉可能なガラス窓があり、操舵室前面左舷側に船室の出入口を設け、同室中央に舵輪、右舷側に機関配電盤、同計器盤、漁業用無線送受信機、魚群探知機及びGPSプロッターが備えられ、右舷側囲壁に機関操縦装置があってその下方の囲壁には背もたれの付いた折り畳み式のいすが取り付けられていた。
(イ)操縦性能等
 全速力は、機関最大回転数毎分3,000(以下、回転数については毎分のものを示す。)の約18ノットであり、機関回転数2,500としたときの速力は約14ノットで、自動操舵装置を備えていた。
イ 第2日の出丸
 第2日の出丸(以下「日の出丸」という。)は、昭和58年2月に進水した主として養殖業に従事する船内外機を備えたFRP製漁船で、船首端から順に長さ1.40メートルが船首楼、6.10メートルが主甲板及び2.85メートルが船尾楼甲板となっており、船尾楼甲板の前部に同甲板上高さ約0.5メートルの機関室囲壁があって、その上部にある開口部が機関室の出入口となっており、囲壁上の右舷側後部に機関操縦装置が取り付けられていた。
 また、機関室囲壁の周囲とその前部の主甲板に金属製パイプの支柱をそれぞれ4本取り付け、同囲壁周辺には船尾楼甲板上高さ1.68メートル幅1.10メートル長さ1.30メートルの、主甲板には同甲板上高さ1.06メートル長さ1.12メートルで船幅いっぱいの、ビニールシート製天幕をそれぞれ設けたうえ、主甲板の天幕下の四方をビニールシートで囲い、航行中、乗組員が天幕の中で風雨をしのげるようになっていた。そして、機関室囲壁の天幕の下方は、天幕直下の0.20メートルを除いてビニールシートで前方と両舷側を囲い、操船者は、機関室囲壁後部の天幕下に立って天幕とビニールシート上端との間から周囲の見張りを行いながら、機関の操作と、長さ約2.5メートルの舵柄で操舵に当たっていた。

3 事実の経過
 新光丸は、A受審人が1人で乗り組み、延縄漁の目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成16年1月14日23時00分長崎県小値賀漁港を発して沖合の漁場に向かい、翌15日00時、小値賀島西北西方約5海里の漁場に到着した。
 A受審人は、漁場到着後延縄漁のえさにするいかを釣り、02時シーアンカーを海中に投入して仮眠をとったのち05時操業を開始し、長さ約1,500メートルの幹縄に約100本の枝縄を取り付けたものを1鉢と称し、当日の海上模様から午後まで操業できると判断して手持ちの延縄5鉢全部を海中に投入したのち順次揚収したところ、久しぶりの豊漁であったので、昼食もとらずに操業を続けた。
 14時ごろ、A受審人は、ぶり、ひらす及びたい等約180キログラムを獲て操業を終え、昼食をとりながら帰航準備をしていたとき、長崎県相浦港にある魚市場の担当者から漁模様の問い合わせがあり、漁獲物の種類、量などを告げたところ、急ぎ入港して水揚げするよう依頼を受けてこれに応じることにし、17時ごろ到着できる旨を告げ、14時05分斑島灯台から292度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点に当たる漁場を発進し、相浦港に向かった。
 発航後、A受審人は、いすに腰を掛けて操舵操船に当たり、小値賀港南方沖合から津和崎瀬戸に向けて航行し、14時50分津和埼灯台から102度1.0海里の地点に達して同瀬戸を通過したのち、長崎県平戸島南西方沖合を東行した。
 15時48分A受審人は、尾上島灯台から125度2.4海里の地点に達して、平戸島南端の志々伎埼を左舷側に0.8海里離して並航したとき、針路を幸ノ小島と黒島間の海域を通航するよう089度に定め、機関を回転数2,500にかけ、14.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 ところで、A受審人は、出航前日の13日は漁を休んで日帰りで佐世保の病院に行き、出航当日の14日は08時に起床したのち近所の電気店に依頼していた縄揚げ機の修理に時折立ち会ったものの、終日自宅で休息した。そして、16時ごろ夕食をとって就寝し、22時前に起床したので、疲労が蓄積した状態ではなかったが、出航後約3時間仮眠をとったものの、早朝から約9時間の連続した操業と、それに引き続く航海当直により、疲れた状態であった。
 定針したのち、A受審人は、いすに腰を掛け、右腕の肘を操舵室右舷側の窓枠に乗せて自動操舵で進行するうち、時折居眠りしては覚醒する状態を繰り返すようになったが、早く入港して漁獲物を水揚げしようと思い、平戸島南岸沖の適当な場所に投錨仮泊して休息するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、やがて、16時20分少し前、黒島港沖防波堤東灯台(以下「防波堤東灯台」という。)から320度0.9海里の地点に達したとき、寒気を覚えて船室の石油ストーブに点火したのち、船室出入口に立って暖をとりながら前方を見ているうち、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、16時22分防波堤東灯台から357度0.7海里の地点に達したとき、左舷船首18度1.1海里のところに、前路を右方に横切る態勢の日の出丸を視認でき、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、居眠りしていてこのことに気付かず、その後同船が避航動作をとらずになおも接近したが、依然として居眠りを続けて衝突を避けるための協力動作をとらないで進行中、突然衝撃を感じ、16時25分防波堤東灯台から045度1.0海里の地点において、新光丸は、原針路、原速力のまま、その船首が日の出丸の右舷側後部に前方から44度の角度で衝突し、乗り切った。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、日の出丸は、D船長ほか甲板員2人が乗り組み、養殖網の修理作業を終え、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日15時50分長崎県臼浦港南東部に当たる浅子町沖合の養殖場を発し、長崎県黒島漁港に向け帰途に就いた。
 発航後、D船長は、甲板員2人を主甲板の天幕の中で休息させ、自らは機関室囲壁の後方に立って単独で操舵操船に当たり、臼浦港南部を西行して臼浦港コウゴ瀬北灯浮標を右舷側に約300メートル離して通過して間もなく、16時12分少し過ぎ、防波堤東灯台から045度3.5海里の地点に達したとき、針路を黒島漁港に向首するよう225度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 16時22分D船長は、防波堤東灯台から045度1.5海里の地点に達したとき、右舷船首26度1.1海里のところに、前路を左方に横切る新光丸を視認しうる状況で、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどしてその進路を避けないで続航中、日の出丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新光丸は、船底部全体に擦過傷、プロペラ及びプロペラ軸に曲損並びに主機減速機に損傷を生じ、日の出丸は、機関室囲壁が圧壊し、船体右舷側後部に破口を生じて転覆し、のち廃船され、D船長及び甲板員Eが溺死し、F甲板員が入院加療を要する前胸部打撲傷及び気道損傷等を負った。

(航法の適用)
 本件は、東行する新光丸と南下する日の出丸とが平戸島南東方沖合の海域において衝突した事件であり、以下適用される航法について検討する。
 衝突地点付近の海域には、港則法など特別法の適用がないので、一般法である海上衝突予防法によって律することになる。
 海上衝突予防法は、2隻の動力船が互いに進路を横切り衝突のおそれがあるときは、他の動力船を右舷側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならず、その際、当該他の動力船は、針路・速力を保持し、当該進路を避けなければならない船舶の動作のみで衝突を避けられないときは、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならないと規定している。
 本件の場合、新光丸と日の出丸の両船は、ともに動力船であるから、特段の理由がない限り、新光丸を右舷側に見る日の出丸が避航義務を負うこととなり、新光丸は針路・速力の保持及び最善の協力動作の履行義務を負うこととなる。
 ところで、本件が発生した地点は、最も近い障害物である幸ノ小島南東方沖合の洗岩まで約800メートル離れており、他に航行の支障となる何の障害物も存在しない。
 また、当時、天候は晴で視界は良く、風は北よりの軽風で海面は穏やかであり、付近の海域には両船の運航に関係する船舶はなかった。
 そのため、日の出丸が避航義務を、また、新光丸が針路・速力の保持及び最善の協力動作履行の各義務を果たすのに何の制約もなかったものと解される。
 一方、両船は、衝突のおそれがある態勢で接近し始めてから衝突に至るまでの間に、それぞれの義務を履行するのに十分な時間的、距離的な余裕があったものと認められる。
 したがって、本件は、海上衝突予防法第15条横切り船の航法及び同法第17条保持船の義務を排斥する特段の理由がなく、前示各条によって律するのが相当と認める。

(本件発生に至る事由)
1 新光丸
(1)A受審人が連続した操業と、それに引き続く航海当直によって疲れていたこと
(2)A受審人が居眠りと覚醒を繰り返しながら航海を続けていたこと
(3)A受審人が居眠りと覚醒を繰り返していることを自覚しながら居眠り運航の防止措置をとらず、居眠りに陥ったこと
2 日の出丸
 D船長が周囲の見張りを十分に行っていなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は、日の出丸の船長が、見張り不十分で、新光丸の進路を避けないまま進行し、一方、新光丸の船長が、居眠りに陥って、日の出丸との衝突を避けるための最善の協力動作をとらないまま進行したことによって発生したものである。
 したがって、日の出丸の船長が、周囲の見張りを十分に行っていなかったこと、A受審人が、航海当直中、居眠りと覚醒を繰り返していることを自覚しながら、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと、A受審人が居眠りに陥ったことは、いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が、当日早朝から連続して操業したのち、引き続いて航海当直に当たり、疲れていたことについては、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、このことは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、平戸島南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する日の出丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る新光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する新光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で操舵操船に当たり、相浦港に向けて平戸島南東方沖合を東行中、当日早朝からの連続した操業とこれに続く航海当直による疲労から、居眠りと覚醒を繰り返すようになった場合、速やかに平戸島南岸沖の適当な場所に投錨仮泊して休息するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、早く入港して漁獲物を水揚げしようと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する日の出丸に気付かず、同船との衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、新光丸の船底部全体に擦過傷、プロペラ及びプロペラ軸に曲損並びに主機減速機に損傷を生じ、日の出丸の機関室囲壁を圧壊し、船体右舷側後部に破口を生じさせて同船を廃船させ、船長及び甲板員1人が溺死し、他の甲板員が入院加療を要する傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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