日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第73号
件名

第八多賀丸貨物船ピン ヤン No.9衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦、寺戸和夫、上田英夫)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八多賀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B

損害
第八多賀丸・・・船首部圧壊及びマスト倒壊
ピンヤン・・・左舷後部外板に擦過傷

原因
第八多賀丸・・・動静監視不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ピンヤン・・・動静監視不十分、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八多賀丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るピン ヤン No.9の進路を避けなかったことによって発生したが、ピン ヤン No.9が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月1日07時54分
 福岡県小呂島東方沖合
 (北緯33度49.1分 東経130度09.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八多賀丸 貨物船ピン ヤンNo.9
総トン数 19トン  
国際総トン数   1,410トン
全長 23.50メートル 76.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 1,323キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八多賀丸
 第八多賀丸(以下「多賀丸」という。)は、平成元年2月に進水したFRP製漁船で、いか一本釣り漁業に使用され、船体中央部に操舵室を有し、同室には、中央部に操舵スタンドが有り、同スタンドの右舷側に機関操作レバーとGPSプロッタが、左舷側にGPSが、また前面の棚に右舷側から機関監視盤、レーダー2台が、さらに左舷側の棚に魚群探知機、ロランCなどの計器類が装備されていた。
イ ピン ヤン No.9
 ピン ヤン No.9(以下「ピンヤン」という。)は、1990年に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で、操舵室には、操舵スタンド、エンジンテレグラフ、レーダー2台及びGPSなどが装備されており、同室での眼高は、海面上6.6メートルであり、船首端から船橋前面まで約57メートルであった。

3 事実の経過
 多賀丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成16年3月31日12時30分福岡県博多漁港を発し、壱岐島北方の漁場に向かった。
 A受審人は、同日17時06分前示漁場に至り、シーアンカーを投入して日没を待ったのち操業を行い、翌4月1日05時32分いか150キログラムを漁獲したところで同漁場での操業を切り上げ、山口県沖で操業するつもりで、05時50分壱岐島北方約15海里の漁場を発進した。
 そして、A受審人は、東進しながら山口県沖での漁の様子を知人に電話で問い合わせたところ、漁獲はあまり期待できないとの情報を得たことから、以後の操業を取り止め、水揚げのため博多漁港への帰途に就くこととした。
 05時58分A受審人は、小呂島港西2号防波堤灯台(以下「小呂島灯台」という。)から336度(真方位、以下同じ。)17.9海里の地点で、針路を福岡湾口東部のシタエ曽根付近に向く145度に定め、機関を半速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 07時42分半A受審人は、小呂島灯台から099度5.0海里の地点に達したとき、レーダーで右舷前方に映像を認め、目視したところ、右舷船首45度3.0海里のところに、前路を左方に横切る態勢のピンヤンを初めて視認した。
 07時47分A受審人は、小呂島灯台から105度5.7海里の地点で、ピンヤンが、右舷船首45度1.8海里となっており、その後も同船の方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、このころ、右舷横方向2海里と左舷横方向1海里に、それぞれ1隻の同業船が水揚げのため博多漁港に向け帰航中であり、入港順によって水揚げの順番が決まっていたことから、並走する両船の動静に気をとられ、ピンヤンに対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 07時51分A受審人は、小呂島灯台から110度6.3海里の地点に達したとき、ピンヤンが、方位変化のないまま0.8海里となったが、依然として、動静監視を十分に行っていなかったので、ピンヤンが衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、右転するなどして同船の進路を避けることなく、同じ針路及び速力で進行した。
 07時54分わずか前A受審人は、ふと右舷前方を見たとき、至近に迫ったピンヤンの船体を認め、直ちにクラッチを中立としたが及ばず、07時54分小呂島灯台から113度6.8海里の地点において、多賀丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がピンヤンの左舷後部に後方から55度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、ピンヤンは、いずれも中華人民共和国国籍の船長C及び一等航海士Dほか9人が乗り組み、空倉のまま、船首1.5メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同年3月31日16時30分鹿児島県米ノ津港を発し、関門海峡を経由する予定で姫路港飾磨区に向かった。
 ところで、C船長は、船橋当直を自らが08時から12時までと20時から24時までを受け持ち、00時から04時までと12時から16時までを二等航海士に、04時から08時までと16時から20時までをD一等航海士にそれぞれ受け持たせる単独の4時間3直制とし、日本沿岸を航行中であっても中国標準時による時間帯で船橋当直を実施していた。
 D一等航海士は、翌4月1日05時から当直に就き、07時00分小呂島灯台から197度7.9海里の地点で、針路を福岡県大島北方約2海里に向く060度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 07時47分D一等航海士は、小呂島灯台から122度6.1海里の地点に達したとき、左舷船首50度1.8海里のところに多賀丸を視認できる状況であったが、同船を見落としたまま続航した。
 D一等航海士は、07時51分小呂島灯台から117度6.5海里の地点に達したとき、左舷船首50度0.8海里のところに、多賀丸を初認し、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、近づけば自船を避けるものと考え、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、その後、間近に接近したとき、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく、同じ針路及び速力で進行した。
 07時53分半少し前D一等航海士は、多賀丸が、同方位のまま350メートルに迫ったとき、衝突の危険を感じ、右舵25度としたが及ばず、ピンヤンは、船首が090度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、多賀丸は、船首部を圧壊及びマストを倒壊し、ピンヤンは左舷後部外板に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 多賀丸
(1)並走する漁船が存在したこと
(2)入港順によって水揚げの順番が決められていたこと
(3)A受審人が、並走する漁船の動静に気をとられていたこと
(4)A受審人が、動静監視を十分に行わなかったこと
(5)A受審人が、ピンヤンの進路を避けなかったこと
2 ピンヤン
(1)一等航海士が、動静監視を十分に行わなかったこと
(2)一等航海士が、警告信号を行わなかったこと
(3)一等航海士が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は、南下中の多賀丸と東行中のピンヤンとが、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近して発生したものであり、多賀丸は、海上衝突予防法第15条により、避航船の立場となり、前路を左方に横切るピンヤンの進路を避けなければならなかった。多賀丸は、ピンヤンを3海里で認めたのであるから、その後動静監視を十分に行っていれば衝突のおそれのあることが分かり、余裕を持って同船の進路を避けることが可能であったと認められる。一方、保持船の立場となるピンヤンは、方位変化のないまま接近する多賀丸に対して警告信号を行い、さらに間近に接近して同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたとき、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。ピンヤンは、0.8海里に接近して多賀丸を初認しており、動静監視を十分に行っていれば、多賀丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり、警告信号を行うことができ、衝突を避けるための協力動作をとることが可能であったと認められる。
 したがって、A受審人が、動静監視を十分に行わなかったこと及びピンヤンの進路を避けなかったこと並びにD一等航海士が、動静監視を十分に行わなかったこと、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が、水揚げのため漁港に向けて帰航中、たまたま自船と並走する漁船が存在したことにより、漁港への入港順による水揚げの順番を懸念し、同漁船に注意力が向けられ、ピンヤンに対する動静監視が不十分になったものと言える。並走する漁船が存在したこと、入港順によって水揚げの順番が決められていたこと、A受審人が、並走する漁船の動静に気をとられていたことは、いずれもピンヤンに対する動静監視が不十分となった理由とはなるものの、本件発生とは相当性のある因果関係はなく、原因とするまでもない。しかし、接近する他船の存在を認めていたのであるから、引き続き、その動静を監視すべきであることは言うまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は、福岡県小呂島東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、南下する多賀丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るピンヤンの進路を避けなかったことによって発生したが、東行するピンヤンが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福岡県小呂島東方沖合において、博多漁港に向けて南下中、右舷前方に前路を左方に横切るピンヤンを認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁港への入港順によって水揚げの順番が決められていたことから、同港に向けて並走する漁船の動静に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ピンヤンが衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、多賀丸の船首部を圧壊し、ピンヤンの左舷後部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:14KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION