(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月16日16時50分
福岡県小呂島北東方沖合
(北緯33度58.5分 東経130度12.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船幸漁丸 |
貨物船トミシマ |
総トン数 |
9.7トン |
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国際総トン数 |
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1,556トン |
全長 |
17.50メートル |
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登録長 |
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68.16メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
426キロワット |
1,472キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 幸漁丸
幸漁丸は、平成3年6月に進水し、小型いかつり漁業に従事するFRP製漁船で、操舵室が船体中央部に配置され、同室には中央部に操舵スタンドがあり、左舷側前面下部にレーダー、GPSプロッタ及び魚群探知機などが装備されていた。
操舵室の前方の甲板上に、同室前面窓の下枠の高さで、集魚灯と放電灯からの強い光から皮膚を保護することと雨除けを兼ねたオーニングが張られ、航行中は同オーニングと格納したいか受けネットにより、操船者が操舵室の中央から右舷側壁にかけて渡した踏み板に腰を掛けた姿勢で見張りをすると、右舷船首5度から左舷船首75度にかけて死角が生じる状況であった。なお、舵輪後方の天井に開口部とその上部周囲に風防が設けられ、踏み板に立って、この開口部から顔を出して見張りを行えば、死角を補うことができる構造になっていた。
イ トミシマ
トミシマは、1981年に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で、船首端から船橋前面までの距離が約55メートルの船橋楼最上部の操舵室には、中央部に操舵スタンドがあり、その右舷側に主機遠隔操縦装置、左舷側にレーダー2台がそれぞれ配置され、左舷後部にある海図台上には、GPSが装備されていた。同室での本件当時の眼高は海面上約9メートルで、前方の視界を遮る構造物はなかった。
3 事実の経過
幸漁丸は、A受審人が1人で乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.53メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成16年4月16日14時00分福岡県博多漁港を発し、沖ノ島南方沖合約8海里の漁場に向かった。
A受審人は、14時20分残島灯台から113度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点で、機関を回転数毎分1,200の半速力前進にかけ、9.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、踏み板に立った姿勢で開口部から顔を出して周囲の見張りを行いながら福岡湾口に向けて進行した。
15時02分A受審人は、玄界島灯台から082度1.6海里の地点で、GPSプロッタに漁場に至る針路線を表示させ、同針路線上に沿って航行するよう針路を350度に定め、折からの潮流によって左に1度圧流されながら自動操舵によって進行した。
15時45分A受審人は、小呂島港西2号防波堤灯台(以下「小呂島灯台」という。)から108度10.8海里の地点に差し掛かったとき、前路に他船を認めなかったので、踏み板に立った姿勢を続けていて疲れてきたことから、開口部からの見張りを止めて同板に腰を掛け、右舷方を見ながら続航した。
16時42分半A受審人は、小呂島灯台から057度10.3海里の地点に達したとき、左舷船首39度2.0海里のところに、前路を右方に横切る態勢のトミシマを認め得る状況であったが、右舷方から接近する他船があればすぐに避航動作をとることができるようにと考え、右舷方を見ていて左舷方の見張りが疎かになり、また、レーダーは、身体を屈めないと見えない位置にあったことから、レーダーによる監視も十分に行わなかったので、同船に気付かないまま同じ針路及び速力で進行した。
16時46分半A受審人は、小呂島灯台から054度10.5海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首39度1.0海里のところにトミシマを視認することができ、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、開口部から顔を出すなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わないまま続航した。
16時48分A受審人は、トミシマが、同方位のまま1,000メートルに接近したが、依然、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、大幅に右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま、同じ針路及び速力で進行中、16時50分小呂島灯台から051度10.8海里の地点において、幸漁丸は、原針路、原速力のまま、その船首がトミシマの右舷船首部に前方から80の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、視界は良好で、付近には約1ノットの南流があった。
また、トミシマは、中華人民共和国国籍の船長D及びC指定海難関係人ほか同国籍の7人が乗り組み、砿紛2,006トンを積載し、船首4.50メートル船尾5.50メートルの喫水をもって、同月14日09時00分(中国標準時)中華人民共和国丹東港を発し、姫路港に向かった。
ところで、D船長は、船橋当直を、自らが08時から12時までと20時から24時までを受け持ち、00時から04時までと12時から16時までをC指定海難関係人に、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士にそれぞれ受け持たせる単独の4時間3直制とし、日本沿岸を航行中であっても中国標準時による当直時間帯を実施し、航行中は毎日20時に船長命令簿を記入して必要な指示を当直航海士に与えていた。
越えて16日12時45分(日本標準時、以下同じ。)D船長は、次直のC指定海難関係人に針路、速力及び周囲の状況などを引き継ぐとともに、厳重に見張りを行うこと、漁船の動静に注意すること及び早めに避航して切迫した状況にならないことなどを指示して当直を交代し、降橋した。
16時30分C指定海難関係人は、小呂島灯台から034度8.7海里の地点で、福岡県白島南方を通航して関門第2航路に向かうように針路を092度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの速力で、折からの潮流によって右方に5度圧流されながら、自動操舵により進行した。
C指定海難関係人は、16時40分ごろ昇橋してきた次直の一等航海士と船橋左舷後部の海図台のところに赴いて使用海図を示しながら、針路や速力などについて引継ぎを始めた。
16時42分半C指定海難関係人は、小呂島灯台から045度9.9海里の地点に達したとき、右舷船首39度2.0海里のところに前路を左方に横切る態勢の幸漁丸を認め得る状況であったが、海図台のところで引継ぎの説明を行っていて、同船に気付かないまま続航した。
16時46分半C指定海難関係人は、小呂島灯台から048度10.4海里の地点に差し掛かったとき、海図による引継ぎを終えて操舵室の右舷側に移動したところ、右舷船首39度1.0海里のところに、前路を左方に横切る態勢の幸漁丸を初めて視認し、高速で航行している様子から同船が自船の前路を通過するものと思い、引き続き動静監視を十分に行うことなく、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したものの、このことに気付かず、早期かつ大幅に右転するなど同船の進路を避けることなく、同じ針路及び速力で進行した。
16時48分半C指定海難関係人は、幸漁丸が同方位740メートルに接近したとき、衝突の危険を感じ、一等航海士が操舵に就き、自動操舵のまま左転を試みたものの、十分な舵角を取り得なかったことから、C指定海難関係人が手動操舵に切り換え、左舵一杯としたが、及ばず、トミシマは、わずかに左回頭して船首が090度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸漁丸は、船首部が圧壊し、トミシマは、右舷前部ハンドレールを折損したが、のちそれぞれ修理された。
(本件発生に至る事由)
1 幸漁丸
(1)A受審人が、レーダー監視を十分に行わなかったこと
(2)A受審人が、右舷方のみを見ていたこと
(3)A受審人が、死角を補う見張りを行わなかったこと
(4)A受審人が、警告信号を行わなかったこと
(5)A受審人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 トミシマ
(1)C指定海難関係人が、海図台付近で引継ぎを行っていたこと
(2)C指定海難関係人が、動静監視を十分に行わなかったこと
(3)C指定海難関係人が、幸漁丸の進路を避けなかったこと
(原因の考察)
本件衝突は、北上中の幸漁丸と東行中のトミシマとが、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近して発生したものであり、幸漁丸は、左舷方に大きな死角を生じていたのであるから、これを補う見張りを十分に行っていれば、トミシマを視認することができ、方位に変化のないまま接近する同船に対し、警告信号を行い、さらに間近に接近して同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたとき、衝突を避けるための協力動作をとることができたと認められる。
一方、トミシマは、幸漁丸を視認したのであるから、その後、動静監視を十分に行っていれば、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付き、早期に同船を避ける措置をとることができたと認められる。
したがって、A受審人が、死角を補う見張りを十分に行わなかったこと、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避ける協力動作をとらなかったこと、並びにC指定海難関係人が、動静監視を十分に行わなかったこと及び幸漁丸の進路を避けなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
A受審人が、レーダー監視を十分に行わなかったこと及び右舷方のみを見ていたことは、いずれも本件衝突に至る過程において関与した事実であるが、本件と相当因果関係があるとは認められない。しかし、これらは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。
C指定海難関係人が、海図台付近で引継ぎを行っていたことは、約5分間にわたり前方を十分に見通せない位置にいたこととなり、この間、適切な見張りが中断されたこととなるが、その後、1海里のところに幸漁丸を認めたとき、対応がとれたのであり、原因とするまでもない。しかし、引継ぎ時においても適切な見張りを継続すべきことは言うまでもない。
(海難の原因)
本件衝突は、福岡県小呂島北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行するトミシマが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る幸漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する幸漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
1 懲戒
A受審人は、福岡県小呂島北東方沖合において、漁場に向けて北上する場合、操舵室右舷側の踏み板に腰を掛けた姿勢では、前部甲板に展張したオーニング等によって船首方に死角を生じていたから、前路に接近するトミシマを見落とすことのないよう、踏み板に立った姿勢で開口部から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、踏み板に立った姿勢で開口部から顔を出して前路を見たときに他船を認めなかったことから、前路に接近する他船はいないものと思い、船首死角を補う十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するトミシマに気付かず、警告信号を行わず、さらに間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同船との衝突を招き、幸漁丸の船首部に圧壊を、トミシマの右舷前部ハンドレールに折損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
C指定海難関係人が、福岡県小呂島北東方沖合において、姫路港に向け関門海峡を経由する予定で東行中、前路を左方に横切る幸漁丸を認めた際、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう動静監視を十分に行わず、同船の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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