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平成16年門審第69号
件名

漁船第六十八共栄丸漁船幸栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦、織戸孝治、上田英夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第六十八共栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:幸栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第六十八共栄丸・・・船首外板に破口
幸栄丸・・・右舷中央部外板及び燃料タンクに破口、甲板員が腰部挫傷の負傷

原因
第六十八共栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

主文

本件衝突は、第六十八共栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、いか一本釣り漁を操業して漂泊中の幸栄丸を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月6日01時30分
 長崎県壱岐島西方沖合
 (北緯33度44.5分 東経129度23.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第六十八共栄丸 漁船幸栄丸
総トン数 17トン 16トン
登録長 18.61メートル 17.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   433キロワット
漁船法馬力数 190  
(2)設備及び性能等
ア 第六十八共栄丸
 第六十八共栄丸(以下「共栄丸」という。)は、昭和62年9月に進水したFRP製漁船で、船体中央部に機関室及び操舵室を、操舵室上部及びその後方にそれぞれマストを有する構造で、操舵室前部左舷側にレーダー及び魚群探知機を、中央やや右舷寄りに舵輪を、右舷側に機関の遠隔操縦装置を、同室後部に船横方向に渡した長椅子をそれぞれ備え、操舵室の後方が寝室となっていた。そして、同船は、中型まき網漁業付属の灯船として魚群の探索及び集魚等に使用されていた。
イ 幸栄丸
 幸栄丸は、昭和62年2月に進水したFRP製漁船で、船体中央部に機関室及び操舵室を、操舵室上部及び船体後部にそれぞれマストを有する構造で、船首から船尾にかけて3キロワットの集魚灯60個が2列に、10台の自動いか釣り機が片舷に各5台船首から船尾までほぼ等間隔にそれぞれ設置されていた。そして、操業中は直径22メートルのパラシュート形シーアンカーを船首から投入していたので、船舶の操縦性能が制限される状態となっていた。

3 事実の経過
 共栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年12月3日12時00分長崎県神崎漁港を発し、五島列島宇久島北方海域の漁場に向かった。
 A受審人は、漁場に到着後、14時ごろから魚群の探索を開始し、その後、探索と集魚とを繰り返し行って翌4日06時ごろ操業を終え、水深約100メートルのところに投錨仮泊して8時間ばかり休息をとり、同日午後から5日にかけ同様の操業に従事して休息をとった。そして、5日14時ごろ宇久島北方11海里ばかりの仮泊地を発し、長崎県生月島西方約5海里の海域で操業を再開し、23時ごろ投錨して1時間ばかり集魚作業を行ったものの、効果が思わしくなかったので、両舷灯とマスト灯のほか、後部マストに白色灯を表示し、6日00時ごろ発進して魚群の探索を続けながら北上した。
 A受審人は、00時35分二神島灯台から256度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点に達したとき、探索海域を変更することとして探索を一時中断し、針路を000度に定めて自動操舵とし、13.0ノットの対地速力で、操舵室内の長椅子の右舷側寄りに腰を掛けて後の壁に背をもたれさせ、見張りに当たって進行した。
 00時45分A受審人は、連日の操業の疲れと探索を中断して気が緩んだこととから眠気を覚えたが、それほど強い眠気ではなかったので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、立ち上がって窓を開け外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった。
 共栄丸は、A受審人がいつしか居眠りに陥り、予定の探索海域に到着したことも、01時25分正船首わずか左方1.1海里のところに、集魚灯を点灯している幸栄丸が存在し、その後漂泊している同船の方位に明確な変化がないまま、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま、同じ針路及び速力で続航中、01時30分壱岐長島灯台から275度12.4海里の地点において、その船首が幸栄丸の右舷中央部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南南東の風が吹き、視界は良好で、潮候はほぼ低潮時であった。
 また、幸栄丸は、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、同月5日14時00分長崎県勝本港を発し、壱岐島西方の漁場に向かった。
 B受審人は、17時00分二神島灯台から291度12.8海里の水深90メートルばかりの地点で、機関を停止回転とし、いつものようにシーアンカーを投入して漂泊を始め、3キロワットの集魚灯60個だけを点灯し、両舷の自動いか釣り機10台を使用していか一本釣り漁を開始し、潮流の影響を受けて北東方に0.6ノットで圧流されながら操業を続けた。
 翌6日01時25分B受審人は、前示衝突地点付近に至り、150度に向首していたとき、右舷船首29度1.1海里のところに共栄丸の白、白、紅及び緑の4灯が視認できる状況であり、その後同船が方位に明確な変化がないまま、衝突のおそれがある態勢で接近したが、操業に夢中になり、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わずに漂泊中、幸栄丸は前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、共栄丸は、船首外板に破口を生じ、幸栄丸は、右舷中央部外板及び燃料タンクに破口を生じたが、のち、いずれも修理された。また、幸栄丸甲板員が腰部挫傷を負った。

(航法の適用 )
 本件は、夜間、長崎県壱岐島西方沖合において、航行中の共栄丸と船首からシーアンカーを投入して漂泊し、3キロワットの集魚灯60個だけを点灯し、両舷の自動いか釣り機を使用していか一本釣り漁を操業中の幸栄丸とが衝突したものであり、同海域は港則法及び海上衝突予防法の適用がないから、一般法である海上衝突予防法によって律することになる。
 海上衝突予防法上、漂泊中の船舶は航行中の船舶の範疇にあり、両船の関係について個別に規定した条文はないから、同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 共栄丸
(1)A受審人が居眠り運航の防止措置をとらず、居眠りに陥ったこと
(2)A受審人が幸栄丸を避けなかったこと
2 幸栄丸
(1)B受審人がいか一本釣り漁に夢中になって見張りを十分に行わなかったこと
(2)B受審人が警告信号を行わなかったこと

(原因の考察)
1 共栄丸
 共栄丸が、適切な見張りが行えるよう、居眠り運航の防止措置をとっていたならば、居眠りに陥らず、余裕のある時期に幸栄丸を視認することができ、その後、その動静を監視してほとんど移動していないことが分かり、漂泊中の船舶と認められ、同船を避けることができたのであるから、A受審人が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと及び同船を避けなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
2 幸栄丸
 幸栄丸が、十分な見張りを行っていたなら、余裕のある時期に共栄丸を視認することができた。そして、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり、同船に避航の気配が認められないとき、避航を促すための警告信号を行っていたなら、同船が気付いて自船を避けることができ、本件は発生していなかったものと認められる。従って、B受審人が、周囲の見張りを十分に行わなかったこと及び避航を促すための警告信号を行わなかったことはいずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県壱岐島西方沖合において、共栄丸が、探索海域を移動する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路でいか一本釣り漁を操業して漂泊中の幸栄丸を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県壱岐島西方沖合において、単独で船橋当直に就き、探索海域を移動中、眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、立ち上がって外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、それほど強い眠気ではなかったので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路でいか一本釣り漁を操業して漂泊中の幸栄丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、自船の船首外板に、幸栄丸の右舷中央部外板及び燃料タンクにそれぞれ破口を生じさせるとともに、幸栄丸甲板員に腰部挫傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、長崎県壱岐島西方沖合において、いか一本釣り漁を操業中、シーアンカーを投入して漂泊する場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は操業に夢中になり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する共栄丸に気付かず、警告信号を行わずに漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自船の甲板員に腰部挫傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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