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平成16年広審第74号
件名

漁船串田丸モーターボート栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、吉川 進)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:串田丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
串田丸・・・損傷ない
栄 丸・・・右舷後部外板に亀裂及び擦過傷、テント展張用支柱及び枠に曲損、船長が外傷性頚部症候群及び右肩部打撲の負傷

原因
串田丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
栄 丸・・・見張り不十分、音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

本件衝突は、串田丸が、見張り不十分で、漂泊中の栄丸を避けなかったことによって発生したが、栄丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月8日07時22分
 下津井瀬戸
 (北緯34度25.7分 東経133度48.3分)

2 船舶の要目等
船種船名 漁船串田丸 モーターボート栄丸
総トン数 2.80トン  
全長   7.27メートル
登録長 8.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 69キロワット 22キロワット
ア 串田丸
 串田丸は、昭和52年5月に進水し、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央部やや後方に機関室を有し、同室の右舷船尾角に機関操縦レバーが取り付けられ、船尾に舵棒で操舵する舵を備えていた。
 機関室右舷後方の甲板には開口があり、この底にはアクセルペダルとクラッチペダルが設けられ、同口の後縁に取り付けられた板に腰掛けて、船尾から機関室後方付近まで伸びた鉄パイプ製の舵棒を左手で持った姿勢で操船にあたるとき、眼高は低いものの、前方の見通しに支障はなかった。
 また、最大速力は、機関回転数毎分2,300の約7ノットで、旋回径は横距、縦距ともに約10メートルであった。
イ 栄丸
 栄丸は、平成3年5月に第1回定期検査を受けた全長7.27メートルのFRP製モーターボートで、船体のほぼ中央部に操縦席を有し、同席右舷側に舵輪と機関操縦レバーを備え、舵輪後方に置いたプラスチック製の踏み台に腰掛けると、周囲の見通しを遮るものはなかった。

3 事実の経過
 串田丸は、A受審人が単独で乗り組み、たこ釣り漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、平成16年5月8日05時00分岡山県下津井漁港を発し、櫃石島東方沖合の漁場に向かい、同時30分同漁場に至って操業を行った。
 A受審人は、たこ5杯を釣り上げたのち、櫃石島北方の漁場に移動することとし、07時15分久須見鼻灯標から210度(真方位、以下同じ。)1,650メートルの地点で、針路を同島東岸に沿う341度に定め、機関を全速力前進にかけて発進し、6.5ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、機関室右舷後方の甲板にある開口の後縁に取り付けられた板に腰掛けて操船にあたり北上したところ、船首方に下津井瀬戸大橋の下を通過し右舷を対して航過する態勢で南下する漁船を視認し、07時21分久須見鼻灯標から258度1,250メートルの地点に達したとき、次の漁場に向け櫃石島の岬に沿って徐々に左転を始めた。
 A受審人は、左転を始めたとき、左舷船首52度190メートルのところに栄丸を視認することができ、ほとんど移動しないことから漂泊中と分かり、その後次第に同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、右舷側を航過する漁船に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、栄丸に気付かず、櫃石島の岬に沿って同船を避けないまま進行した。
 こうして、A受審人は、南下する漁船と右舷を対して航過し、07時22分わずか前ふと船首方を見たところ、正船首方至近に栄丸を初めて視認し、直ちに右舵一杯をとるとともに機関を中立にしたが及ばず、07時22分久須見鼻灯標から262度1,420メートルの地点において、串田丸は、330度に向首し、3.0ノットの速力となったとき、その左舷船首が栄丸の右舷後部に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期にあたり下津井瀬戸には弱い西流があった。
 また、栄丸は、B受審人が単独で乗り組み、めばる釣りの目的で、船首0.12メートル船尾0.68メートルの喫水をもって、同日06時00分岡山県味野港を発し、途中同県琴浦港に寄港して釣りえさを購入したのち、下津井瀬戸の櫃石島北東方沖合にある釣り場に向かい、07時20分同釣り場に至り、機関を中立として船首を北方に向け、漂泊を開始した。
 B受審人は、舵輪後方に置いた踏み台に腰掛けて船首方を向き、下津井瀬戸の対岸に見えるC中学校の方位や魚群探知機で水深が約15メートルであることから、いつもの釣りポイントであることを確かめて釣りの準備を始めた。
 07時21分B受審人は、前示衝突地点で、C中学校を正船首方に見る350度に向首して漂泊していたとき、右舷船尾61度190メートルのところに、串田丸を視認することができ、その後同船が櫃石島の岬に沿って次第に自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、釣りの準備に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、所持していた笛を吹くなどして避航を促すための有効な音響による信号を行わず、さらに串田丸が間近に接近しても機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 こうして、B受審人は、07時22分わずか前海底の岩場に根掛かりしないように釣り糸を海中に伸ばしていたとき、機関音が聞こえたので振り返って右舷船尾方を見たところ、自船に向首するように間近に迫った串田丸を初めて視認して衝突の危険を感じ、手を振って大声で叫んだものの効なく、栄丸は、350度に向首して漂泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、串田丸に損傷はなかったが、栄丸は、右舷後部外板に亀裂及び擦過傷を、テント展張用支柱及び枠に曲損をそれぞれ生じ、のち修理された。また、B受審人が外傷性頚部症候群及び右肩部打撲傷を負った。

(航法の適用)
 本件は、下津井瀬戸において、航行中の串田丸と漂泊中の栄丸とが衝突したものであり、同海域は海上交通安全法の適用海域であるが、同法に適用条文がないから、一般法である海上衝突予防法(以下、予防法という。)によって律することとなる。
 予防法に漂泊中の船舶と航行中の船舶との関係について規定した条文はないから、同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 串田丸
(1)A受審人が前路の見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が栄丸を避けなかったこと
2 栄丸
(1)B受審人が周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)B受審人が避航を促すための有効な音響による信号を行わなかったこと
(3)B受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 A受審人が、前路の見張りを適切に行っていたなら、櫃石島の岬に沿って転針を始めたとき左舷船首方に栄丸を視認することができ、同船との航過距離を大きくとって衝突を回避することが可能であり、その行動を妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、A受審人が、前路の見張りを十分に行わなかったこと及び漂泊中の栄丸を避けなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
 他方、B受審人が、周囲の見張りを適切に行っていたなら、串田丸が櫃石島の岬に沿って転針を始めたとき同船を視認することができ、その動静を監視すれば、方位の変化があっても串田丸が岬に沿って航行しており、自船に向首するように接近することが分かるから、避航を促すための有効な音響による信号を行い、それでも串田丸が間近に接近すれば機関を使って移動するなど衝突を避けるための措置をとることが可能であり、それらの行動を妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、B受審人が、周囲の見張りを十分に行わなかったこと、避航を促すための有効な音響による信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、下津井瀬戸において、串田丸が、漁場を移動する際、見張り不十分で、前路で漂泊中の栄丸を避けなかったことによって発生したが、栄丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、下津井瀬戸において、漁場を移動する場合、漂泊中の栄丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、折しも右舷側を航過する漁船に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、栄丸に気付かず、櫃石島の岬に沿って同船を避けないまま進行して、栄丸との衝突を招き、串田丸に損傷はなかったが、栄丸の右舷後部外板に亀裂及び擦過傷を、テント展張用支柱及び枠に曲損をそれぞれ生じさせ、また、B受審人に外傷性頚部症候群及び右肩打撲傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、下津井瀬戸において、釣りを行うため漂泊する場合、衝突するおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、釣りの準備に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船尾方から串田丸が櫃石島の岬に沿って次第に自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず、所持していた笛を吹くなどして避航を促すための有効な音響による信号を行わず、さらに間近に接近しても機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、栄丸に前示の損傷を生じさせ、また、自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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