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平成16年広審第70号
件名

漁船第八えひめ丸漁船喜久正丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、高橋昭雄、吉川 進)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第八えひめ丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:喜久正丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八えひめ丸・・・左舷後部外板に凹損など
喜久正丸・・・船首部を圧壊

原因
喜久正丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第八えひめ丸・・・警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、喜久正丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る第八えひめ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八えひめ丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月18日05時11分
 四国西岸沖合
 (北緯33度20.5分 東経132度21.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八えひめ丸 漁船喜久正丸
総トン数 120トン 4.6トン
全長 39.45メートル 12.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 669キロワット  
漁船法馬力数   70
(2)設備及び性能等
ア 第八えひめ丸
 第八えひめ丸(以下「えひめ丸」という。)は、平成2年11月に進水した船尾船橋型鋼製漁船で、操舵室には、前部中央やや右舷側に操縦スタンド、同スタンド左舷側にGPSプロッター、魚群探知機、レーダー、同スタンド右舷側に計器盤、及びモーターホーン押ボタンが設置され、第68えひめ丸を網船とする計5隻の大中型まき網漁業船団の運搬船として従事していた。
イ 喜久正丸
 喜久正丸は、平成7年4月に進水した船尾に操舵室を備えた延縄漁業に従事するFRP製漁船で、同室前部中央やや右舷側に操縦スタンド、同スタンド左舷側にGPSプロッター及びレーダー、同スタンド船尾側に魚群探知機がそれぞれ設置され、同室の舵輪後方には背もたれつきのいすが配置されていた。

3 喜久正丸の操業模様等
 喜久正丸は、夜間、延縄漁業によるはも漁に従事しており、同漁は、長さ約8,000メートルの幹縄に約5メートル間隔で針のついた長さ約2.5メートルの枝縄をつけ、えさとなるいかの切り身をつけながら1時間ばかりかけて投縄して2時間ばかり潮待ちしたのち、2時間ないし4時間かけてローラーによって揚縄するもので、帰港は早朝となり、帰港後に新しい針をつけたり、えさの切り身を作ったりして漁の準備を整えてから休息し、夕方に出港して操業することを繰り返しており、操業できるのは波高1.5メートル以下のときで、月に10日ないし15日であった。また、喜久正丸は、操業後1日おきに漁場から愛媛県八幡浜港に寄港して漁獲物の水揚げを行っており、同港から係留地までの航程は約1時間30分であった。

4 B受審人の出漁模様
 B受審人は、平成16年4月15日は荒天のため出漁できなかったので十分休息をとり、翌16日及び翌々17日は連続して出漁し、17日は昼間に3時間ばかり喜久正丸で休息をとっていた。

5 事実の経過
 えひめ丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、平成16年4月17日15時40分愛媛県三瓶港を発し、同県三崎港南方及び日振島北方で操業し、鯛約2トンを漁獲し、船首4.2メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、帰港することとした。
 翌18日04時20分A受審人は、日振島灯台から350度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、針路を033度に定め、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、マスト灯2個、舷灯及び船尾灯を表示し、手動操舵によって帰途についた。
 05時03分A受審人は、三瓶高島灯台から224度2.2海里の地点に達したとき、左舷船首16度4.0海里のところに南下する喜久正丸の灯火を初めて視認し、同時07分には左舷船首15度2.0海里のところに同船を視認するようになり、その後前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近し、同時09分には喜久正丸が避航の気配がないまま同方向1海里ばかりに接近したが、警告のため作業灯2個の点灯及び消灯を5回ばかり繰り返しただけで、警告信号を行わず、そのうち同船が自船の進路を避けてくれるものと思い、更に間近に接近しても機関を使用するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 05時11分少し前A受審人は、喜久正丸が左舷船首至近に迫ったので衝突の危険を感じ、右舵一杯としたが及ばず、05時11分三瓶高島灯台から248度1,300メートルの地点において、えひめ丸は、078度に向首し、原速力のまま、その左舷後部に喜久正丸の船首が前方から69度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出は05時36分であった。
 また、喜久正丸は、B受審人が1人で乗り組み、はも漁の目的で、船首0.60メートル船尾1.24メートルの喫水をもって、同月17日15時00分愛媛県北宇和郡津島町掛網代を発し、法花津湾で操業し、翌18日01時30分漁場を発進し、04時00分同県八幡浜港に寄港して漁獲物を水揚げしたのち、マスト灯、舷灯及び黄色回転灯を表示し、同時35分発港して発航地に向けて帰途についた。
 04時54分B受審人は、佐島灯台から099度1,200メートルの地点で、針路を182度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力で、いすに腰掛けて手動操舵によって進行した。
 定針したのちB受審人は、狭い海域を過ぎて眠気を催すようになったが、そのままの姿勢で操舵を続け、立ち上がって操舵に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく続航し、05時04分半伊予小島灯台から090度300メートルの地点に達したとき、針路を189度に転じた。
 こうして、B受審人は、05時07分には右舷船首9度2.0海里のところに北上するえひめ丸の灯火が視認でき、その後前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、依然としていすに腰掛けたままうとうとした状態に陥ってこのことに気付かず、右転するなどして同船の進路を避けないまま進行し、喜久正丸は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、えひめ丸は、左舷後部外板に凹損などを生じ、喜久正丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 えひめ丸
(1)A受審人が、警告信号を行わなかったこと
(2)A受審人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 喜久正丸
(1)B受審人が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(2)B受審人が、うとうとしていたこと
(3)B受審人が、えひめ丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 喜久正丸は、海上衝突予防法第15条により、避航船の立場にあったから、えひめ丸の進路を避けなければならなかった。見張りを十分行っていれば、衝突4分前には右舷船首9度2.0海里のところに同船を視認することができ、その後動静監視を十分に行っておれば、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況が把握できるので、右転するなどして余裕のある時期にえひめ丸の進路を避けることが可能であり、また、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかった。
 したがって、B受審人が、定針後に眠気を催したのに、いすに腰掛けたまま操舵を続け、居眠り運航の防止措置をとらず、うとうとした状態となってえひめ丸に気付かず、同船の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 一方、えひめ丸は、海上衝突予防法第15条により、保持船の立場にあったから、喜久正丸に対して警告信号を行い、更に避航の気配が認められないまま間近に接近したときには衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。
 したがって、A受審人が、そのうち喜久正丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、同船が避航の気配が認められないまま間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、四国西岸沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する喜久正丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るえひめ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上するえひめ丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、日出前の薄明時、四国西岸沖合を南下する際、いすに腰掛けて単独で手動操舵によって当直中に眠気を催すようになった場合、2日連続の操業の疲れもあって居眠りに陥らないよう、いすから立ち上がって操舵に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのままの姿勢で操舵を続け、立ち上がって操舵に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、うとうとする状態に陥り、えひめ丸が前路を左方に横切り互いに衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行してえひめ丸との衝突を招き、えひめ丸の左舷後部外板に凹損などを生じさせ、喜久正丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、日出前の薄明時、単独で手動操舵に当たって四国西岸沖合を北上中、喜久正丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で間近に接近した場合、同船に避航の気配がなかったから、機関を使用するなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、警告のため作業灯2個の点灯及び消灯を5回ばかり繰り返したので、そのうち同船が自船の進路を避けてくれるものと思い、機関を使用するなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、喜久正丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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