日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年神審第52号
件名

貨物船第三健星丸・漁船第一日乃出丸漁船第二日乃出丸漁具衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學、甲斐賢一郎、平野研一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:第三健星丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第三健星丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
C 職名:第一日乃出丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
D 職名:第二日乃出丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三健星丸・・・損傷ない
第一日乃出丸・・・損傷ない
第二日乃出丸・・・損傷ない、漁具の脇網を損傷

原因
第三健星丸・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第一日乃出丸・・・警告信号不履行(一因)
第二日乃出丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件漁具衝突は、第三健星丸が、見張り不十分で、第一日乃出丸及び第二日乃出丸がそれぞれ掲揚していた黒色鼓形の法定形象物を見落とし、両船が2そう曳きトロール漁業に従事していることに気付かないまま、その船尾方の漁具に向かって進行したことによって発生したが、第一日乃出丸及び第二日乃出丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月7日10時30分
 大阪湾
 (北緯34度20.3分 東経135度05.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第三健星丸  
総トン数 498トン  
全長 76.54メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,103キロワット  
船種船名 漁船第一日乃出丸 漁船第二日乃出丸
総トン数 9.7トン 9.7トン
登録長 14.35メートル 14.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 95キロワット 95キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三健星丸
 第三健星丸(以下「健星丸」という。)は、平成元年9月に進水した、航行区域を限定沿海区域とする、最大航海速力約13ノットの船尾船橋型鋼製貨物船で、主として北海道、本州、四国及び九州間の内航輸送に従事していた。
イ 第一日乃出丸
 第一日乃出丸は、昭和58年9月に進水した、音響信号装置を装備するFRP製漁船で、専ら大阪湾において、僚船の第二日乃出丸とともに2そう曳きトロール漁業に従事していた。
ウ 第二日乃出丸
 第二日乃出丸は、進水年月、装備及び用途等が第一日乃出丸と全く同じであり、同船とともに前示漁業に従事していた。

3 事実の経過
 健星丸は、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、小麦1,200トンを積載し、船首2.75メートル船尾4.25メートルの喫水をもって、平成15年10月4日12時30分北海道十勝港を発し、04時から10時及び16時から22時までを船長であるA受審人、00時から04時及び10時から16時までを一等航海士であるB受審人、22時から24時までを甲板長が、それぞれ単独で船橋当直に当たり、三陸海岸沖を南下して大阪港へ向かった。
 越えて、7日04時00分A受審人は、和歌山県潮岬沖合で入直して紀伊水道を北上したのち、自らが操船して狭水道である加太瀬戸を通過し、10時20分地ノ島灯台から021度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、関西国際空港人工島を右舷側に約2海里離して航過する037度の針路に定めて自動操舵に切り替え、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、次直のB受審人に船橋当直を引き継いで降橋した。
 ところで、A受審人は、平素から、船長として船橋当直者に対し、漁船や外国船などから十分に離れた安全な距離を保って航行するように繰り返し指示していたうえ、前示のとおり、狭水道である加太瀬戸を自らが操船して大阪湾に入り、同湾内の広い海域に至って定針したのち、次直のB受審人に当直を委ねて降橋したのであった。
 次いで、B受審人は、A受審人から当直を引き継ぎ、多種多様な漁船が操業する大阪湾を、船橋後部中央に置かれたパイロットチェアーの前方に立って見張りを行いながら北上したところ、10時25分地ノ島灯台から027度2.0海里の地点に至ったとき、第一及び第二日乃出丸を左舷船首11度1,400メートルのところに視認し、やがて、その船尾方の漁具と衝突するおそれがある態勢で接近する状況となったが、船体と衝突するような態勢ではなかったことから、少しばかり気が緩み、見張りを十分に行わなかったので、両船がそれぞれ掲揚していた黒色鼓形の法定形象物を見落とし、2そう曳きトロール漁業に従事していることに気付くことなく進行した。
 そして、10時29分B受審人は、第一及び第二日乃出丸が、ゆっくりと右方へ替わりながら、自船から280メートルのところまで接近し、その船尾方の漁具と衝突する危険がある状況となったが、猶も見張りを十分に行わなかったので、依然として、両船が操業中であることに気付かず、同漁具の存在に思い至らないまま、これを避ける安全な進路とすることなく続航した。
 こうして、B受審人は、その後も、安全な進路とすることなく進行中、10時30分少し前第一及び第二日乃出丸が自船の船首至近を経て右舷側に替わったとき、両船の船上において、乗組員が慌てた様子で手を振っているのを認めて、異常事態であることを知り、急きょ、機関を停止したが、効なく、10時30分地ノ島灯台から030度2.8海里の地点において、健星丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が、第一及び第二日乃出丸が曳いていた漁具の脇網部分に後方から56度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、第一日乃出丸は、C受審人が、第二日乃出丸は、D受審人が、それぞれ1人で乗り組み、2そう曳きトロール漁業に従事する目的で、両船とも船首0.1メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年10月7日05時30分大阪府深日漁港を発し、同港北西方沖合3ないし5海里付近の漁場へ向かった。
 C及びD両受審人は、06時00分ごろ漁場に到着したのち、C受審人が操業の総指揮を執り、第一日乃出丸が右側に、第二日乃出丸が左側に位置して、その間隔を50ないし60メートル離して横に広がり、曳き綱約50メートル、脇網約150メートル及び袋網部分約70メートルの計約270メートルに渡る長さの漁具を曳いて、2そう曳きトロール漁業を開始した。
 C及びD両受審人は、地ノ島北東方4海里付近で1回目の操業を終えたのち、1海里ばかり南に下がって2回目の操業に取り掛かり、10時15分地ノ島灯台から020度2.6海里の地点に達したとき、それぞれ自船の針路を093度に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.0ノットの曳網速力で、漁ろうに従事していることを示す黒色鼓形の法定形象物を掲げ、手動操舵によって進行した。
 そして、10時25分C及びD両受審人は、地ノ島灯台から027度2.7海里の地点に至ったとき、右舷正横後23度1,400メートルのところに、健星丸を視認し、やがて、同船が船尾方の漁具と衝突するおそれがある態勢で接近する状況となったが、黒色鼓形の法定形象物を掲揚していたことから、健星丸が、2そう曳きトロール漁業に従事している第一及び第二日乃出丸の操業実態を容易に判別でき、両船から十分に離れた安全な進路として、船尾方の漁具を避けてくれるものと思い、警告信号を行うことなく続航した。
 こうして、10時29分C及びD両受審人は、健星丸が、その方位に大幅な変化がないまま、第一及び第二日乃出丸から280メートルのところまで接近し、船尾方の漁具と衝突する危険がある状況となったが、依然として、警告信号を行うことなく進行中、10時30分少し前健星丸が両船の船尾方至近を左方に替わったものの、全く漁具を避ける気配がなかったことから、両人ともに慌てて手を振って注意を促したが、効なく、第一日乃出丸及び第二日乃出丸は、原針路、原速力のまま、その船尾方の漁具と健星丸が、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、健星丸、第一及び第二日乃出丸に損傷はなかったものの、第一及び第二日乃出丸が曳いていた漁具の脇網部分に損傷を生じた。

(航法の適用)
 本件は、大阪湾において、北上中の健星丸が、2そう曳きトロール漁業に従事していた第一及び第二日乃出丸の漁具に衝突したものであり、以下、適用される航法について検討する。
 健星丸は、一般的な貨物船であることから、動力船であることを疑う余地はない。他方、第一及び第二日乃出丸は、いずれも漁ろうに従事していることを示す黒色鼓形の法定形象物を掲揚していたことから、健星丸は、両船が2そう曳きトロール漁業に従事しているか否かを容易に判別できる状況であったものと認められる。よって、海上衝突予防法第18条第1項各種船間の航法のうち、動力船と漁ろうに従事している船舶の関係を定めた同項第3号をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 健星丸
(1)B受審人が、見張りを十分に行わず、第一及び第二日乃出丸がそれぞれ掲揚していた黒色鼓形の法定形象物を見落としたこと
(2)B受審人が、第一及び第二日乃出丸の両船が2そう曳きトロール漁業に従事していることに気付かず、その船尾方に漁具が存在することに思い至らないまま進行し、両船から十分に離れた安全な進路としなかったこと
2 第一及び第二日乃出丸
 C及びD両受審人が、健星丸に対して警告信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 健星丸は、大阪湾において、加太瀬戸から大阪港へ向けて北上中、1人で船橋当直に当たっていた一等航海士が、左舷前方に第一及び第二日乃出丸を認めた場合、それぞれが黒色鼓形の法定形象物を掲揚していたのであるから、同形象物を見落とすことがないように見張りを十分に行っていれば、2そう曳きトロール漁業に従事しているか否かを判別することは容易であり、両船から十分に離れた安全な進路として、その船尾方の漁具との衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって、B受審人が、見張り不十分で、第一及び第二日乃出丸が掲揚していた黒色鼓形の法定形象物を見落としたことにより、2そう曳きトロール漁業に従事していることに気付かず、その船尾方に漁具が存在することに思い至らないまま進行し、両船から十分に離れた安全な進路としなかったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人は、狭水道である加太瀬戸を自らが操船して大阪湾に入り、同湾内の広い海域に至って針路を定めたのち、海技免状を有しているB受審人に船橋当直を委ねて降橋したものであり、船長としての職責は十分に果たしていたものと認められる。
 したがって、A受審人が、B受審人に船橋当直を委ねて降橋したことは、本件発生の原因とならない。
 一方、第一及び第二日乃出丸は、2そう曳きトロール漁業に従事中、それぞれ1人で船橋当直に当たっていた両船の船長が、船尾方の漁具に衝突するおそれがある態勢で接近する健星丸を認めた場合、警告信号を行うことは容易であり、早期に同信号を行って避航を促していれば、健星丸が、両船から十分に離れた安全な進路として漁具との衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって、C及びD両受審人が、警告信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件漁具衝突は、大阪湾において、北上中の健星丸が、見張り不十分で、第一日乃出丸及び第二日乃出丸がそれぞれ掲揚していた黒色鼓形の法定形象物を見落とし、2そう曳きトロール漁業に従事していることに気付かないまま、両船から十分に離れた安全な進路とすることなく、その船尾方の漁具に向かって進行したことによって発生したが、第一日乃出丸及び第二日乃出丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、大阪湾において、1人で船橋当直に当たり、大阪港へ向けて北上中、左舷前方に第一及び第二日乃出丸を認めた場合、同湾内は多種多様な漁船が多い海域であることから、その操業実態を見極めることができるよう、見張りを十分に行い、両船がそれぞれ掲揚していた黒色鼓形の法定形象物を見落とさないようにすべき注意義務があった。ところが、同受審人は、第一及び第二日乃出丸の船体と衝突するような態勢ではなかったことから、少しばかり気が緩み、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、それぞれが掲揚していた同形象物を見落とし、第一及び第二日乃出丸が2そう曳きトロール漁業に従事していることに気付かないまま、両船から十分に離れた安全な進路とすることなく、その船尾方の漁具に向かって進行して衝突を招き、健星丸、第一及び第二日乃出丸のいずれにも損傷はなかったものの、両船が曳いていた漁具に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C及びD両受審人は、大阪湾において、第一及び第二日乃出丸にそれぞれ1人で乗船し、2そう曳きトロール漁業に従事中、船尾方の漁具に向首して接近する健星丸を認めた場合、そのままでは衝突のおそれがあったのであるから、十分に離れた安全な進路とするよう、同船に対して警告信号を行うべき注意義務があった。ところが、両受審人は、それぞれが黒色鼓形の法定形象物を掲げていたので、健星丸が、第一及び第二日乃出丸の操業実態を容易に判別でき、両船から十分に離れた安全な進路として船尾方の漁具を避けてくれるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、健星丸と同漁具との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人が、警告信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、同受審人の所為は、C受審人の総指揮の下において操業に従事していたことに徴し、職務上の過失とするまでもない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION