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平成16年神審第71号
件名

油送船瑞光丸引船紀和丸引船列衝突事件
第二審請求者〔理事官 堀川康基〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月19日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、甲斐賢一郎、中井 勤)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:瑞光丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:紀和丸甲板員 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
瑞光丸・・・船首部に亀裂を伴う凹損、右舷側前部外板に凹損
紀和丸引船列SK810・・・SK810の左舷側中央部に凹損、SK1002号の船首外板に凹損及び左舷側中央部に凹損

原因
瑞光丸・・・見張り不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、紀和丸引船列を追い越す瑞光丸が、見張り不十分で、同引船列の進路を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月21日23時40分
 神戸港南方沖合
(北緯34度35.2分 東経135度12.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船瑞光丸  
総トン数 742トン  
全長 73.80メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,323キロワット  
船種船名 引船紀和丸 はしけK-813
総トン数 104トン  
全長 29.10メートル 40.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 はしけSK810 はしけSK1002号
全長 40.0メートル 43.0メートル
(2)設備及び性能等
ア 瑞光丸
 瑞光丸は、平成5年1月に進水した船尾船橋型鋼製油送船で、船首から約50メートルの船尾部に操舵室を備えていた。
 最大速力及び微速力は、それぞれ機関回転数毎分350の約11.0ノット、及び同毎分230回転の約8.0ノットで、レーダーを2台及びGPSを装備していた。
イ 紀和丸及び被引はしけ
 紀和丸は、平成2年3月に進水した鋼製引船で、船首から約7メートルの、船体中央より前方に操舵室を備えていた。
 はしけ3隻を曳航中の最大速力及び微速力は、それぞれ機関回転数毎分290の約5ノット、及び同毎分235回転の約2ノットで、レーダーを1台及びGPSを装備し、船橋後部の煙突後方に作業灯を、船橋上に探照灯を備えていた。
 K-813は、昭和60年に、SK810及びSK1002号は、平成3年に進水した鋼製はしけで、いずれも船尾部に甲板室を備えていた。

3 事実の経過
 瑞光丸は、専ら国内各港間の重油の輸送に従事し、A受審人ほか5人が乗り組み、C重油2,000キロリットルを積載し、船首4.38メートル船尾4.88メートルの喫水をもって、平成16年1月21日16時10分岡山県水島港を発し、大阪港堺泉北区に向かった。
 19時30分A受審人は、一等航海士と交替して船橋当直に就き、播磨灘及び明石海峡航路を経て東行した。
 23時20分A受審人は、神戸灯台から204度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点で、法定灯火を表示し、針路を101度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、3海里レンジとしたレーダーにより、右舷船首17度1.9海里に曳航船らしき棒状に映る映像を認めたが、特に気に留めないで続航した。
 23時35分A受審人は、神戸灯台から157度3.9海里の地点に達し、右舷船首24度500メートルに紀和丸の引船灯と船尾灯を、右舷船首42度390メートルに1隻目のK-813の灯火を肉眼で認めたものの、紀和丸が3隻のはしけを縦列に曳航していることに気付かず、紀和丸引船列(以下「引船列」という。)との距離を空けて船尾を替わし、引船列の右舷側に出るつもりで機関を停止し、惰力で進行した。
 23時37分A受審人は、神戸灯台から153度4.0海里の地点において、速力が8.0ノットとなったとき、2隻目のSK810と3隻目のSK1002号に気付かないまま、機関を半速力後進にかけてさらに減速し、23時38分神戸灯台から152度4.1海里の地点に達したとき、瑞光丸の船首が、K-813の船尾と並んだので右舵をとり、回頭しながら続航した。
 23時39分A受審人は、神戸灯台から151度4.1海里の地点に達し、右舷船尾54度140メートル及び同36度200メートルに、SK810とSK1002号の紅灯をそれぞれ認めることができ、衝突のおそれがある態勢となったが、いちべつして、被引はしけは1隻のみと思い、紀和丸の船尾方に対する見張りを十分に行わなかったので、依然2隻目のSK810及び3隻目のSK1002号に気付かず、引船列を確実に追い越し、かつ、引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、右舵一杯として回頭を続けて進行した。
 23時39分半A受審人は、右舷方間近にSK810の紅灯を認め、慌てて機関を全速力後進にかけたが及ばず、23時40分神戸灯台から151度4.2海里の地点において、船首が174度を向いて3.0ノットの速力となったとき、瑞光丸の船首が、SK810の左舷側中央部にほぼ直角に衝突し、続けてSK1002号の船首が、瑞光丸の右舷前部に衝突した。
 当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、兵庫県阪神地区には、風雪・波浪注意報が発令中であったが、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、紀和丸は、B受審人ほか3人が乗り組み、鋼材225トンを積載して船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水となったK-813、その後方に鋼材310トンを積載して船首1.4メートル船尾2.0メートルの喫水となったSK810、及び鋼材416トンを積載して船首1.7メートル船尾2.1メートルの喫水となったSK1002号の、3隻のはしけを縦列に曳航し、マストに白灯3個を連掲したほか、両舷灯、船尾灯及び引船灯をそれぞれ表示し、各はしけの両舷灯及び船尾灯を点灯し、紀和丸の船尾からSK1002号の船尾端までの距離が約340メートルの引船列とし、各はしけには、作業員1人をそれぞれ乗船させ、船首2.2メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成16年1月21日17時30分、和歌山県和歌山下津港を発し、神戸港に向かった。
 また、引船列の各船間は、紀和丸の船尾から伸出した直径70ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ120メートルの、合成繊維製の曳航索をK-813の船首たつに接続し、同船船尾とSK810の船首たつ、及び同船船尾とSK1002号の船首たつとを、それぞれ直径70ミリ長さ50メートルの同繊維製の曳航索で繋いでいた。
 21時30分B受審人は、機関員から航海当直を引き継いだのち、単独で当直にあたり、23時20分神戸灯台から174度3.9海里の地点で、針路を084度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
 定針したとき、B受審人は、左舷船尾34度1.9海里にレーダー及び肉眼により、瑞光丸の白、緑2灯を初めて認め、左舷船尾方を振り返るなど、動静監視を行いながら続航した。
 23時35分B受審人は、神戸灯台から156度4.1海里の地点において、瑞光丸が、前示灯火を見せたまま、左舷船尾41度500メートルとなったが、同船の前後のマスト灯が左右に開き、速力差が十分あったので、同船が自船の左舷側を追い越していくものと判断し、動静監視を続けて進行した。
 23時39分B受審人は、瑞光丸の灯火と引船列との横距離が100メートルとなったとき、瑞光丸の灯火が緑灯から両舷灯に、その後さらに紅灯に変わるのを認め、同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知り、作業灯を急いで点灯し、1隻目のK-813を照らした。続いて同人は、探照灯の点灯の準備をしたものの、照射をすることも警告信号を吹鳴する間もなく、引船列は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、瑞光丸は船首部に亀裂を伴う凹損及び右舷側前部外板に凹損を、引船列は、SK810の左舷側中央部に凹損、SK1002号の船首外板に凹損をそれぞれ生じたが、いずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、夜間、神戸港南方沖合において、東行中の瑞光丸と同じく東行中の引船列とが衝突したものである。
 瑞光丸は法定灯火を表示し、一方、引船列は、引船及び3隻の被引はしけとも、法定灯火を表示していた。
 両船の運航模様から、瑞光丸は、引船列の左舷船尾34度から追い越す態勢であり、衝突1分前までに、紀和丸から見た瑞光丸の方位変化は、1分間に2度以上で、明確な方位変化があり、衝突のおそれはなかったものの、両船が最も接近した際の両船間の距離は100メートルで、引船列の安全運航が維持できないおそれがあった。
 また、当時の視界は良好で、相互に相手船の表示する灯火を視認できる状況であったことから、瑞光丸が十分な見張りを行っていれば、当然、紀和丸が、被引はしけ3隻を縦列に曳航する引船列であることを認識できたものと認められる。
 したがって、海上衝突予防法第13条(追越し船の航法)が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 瑞光丸
(1)A受審人が、紀和丸の引船灯と船尾灯を、その右方に1隻目のはしけの灯火を肉眼で認めたものの、紀和丸が3隻のはしけを縦列に曳航していることに気付かなかったこと
(2)A受審人が、引船列の船尾を替わして右舷側に出るつもりで減速し、1隻目のはしけの船尾方に向けて、右転しながら進行し、引船列の進路を避けなかったこと
2 引船列
 B受審人が、衝突1分前に、瑞光丸が衝突のおそれがある態勢で接近することを知って、作業灯を急いで点灯したものの、探照灯を照射せず、警告信号を吹鳴しなかったこと

(原因の考察)
 瑞光丸は、神戸港南方沖合を大阪港堺泉北区に向けて東行するにあたり、法定灯火を表示して東行する引船の引船灯と船尾灯を、及び1隻目の被引はしけの灯火を認めており、引船の船尾方に対する見張りを十分に行っていれば、2隻目及び3隻目の被引はしけの船尾灯、その後舷灯を早期に視認できたのであり、引船列を確実に追い越し、衝突を回避することは十分に可能であったものと認められる。
 したがって、A受審人が、引船の船尾方に対する見張りを十分に行わなかったことと、引船列を確実に追い越し、かつ、同引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 引船列において、B受審人が、瑞光丸は、自船の左舷側を追い越していくものと判断し、衝突1分前に、衝突のおそれがある態勢となったとき、探照灯を照射せず、警告信号を吹鳴しなかったことは、本件発生に至る過程において関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、神戸港南方沖合において、瑞光丸が、大阪港堺泉北区に向けて東行中、神戸港第2区に向けて東行中の引船列を追い越す態勢となった際、見張り不十分で、引船列を確実に追い越し、かつ、同引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、神戸港南方沖合を大阪港堺泉北区に向けて東行中、船尾に引船灯と船尾灯を表示して低速力で同航する引船列を右舷船首方に認め、引船列を追い越す態勢となった場合、すべての被引はしけを見落とさないよう、引船の船尾方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで、被引はしけは1隻のみと思い、引船の船尾方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、2隻目及び3隻目の被引はしけに気付かず、引船列を確実に追い越し、かつ、引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して被引はしけとの衝突を招き、瑞光丸の船首部に亀裂を伴う凹損及び右舷側前部外板に凹損を、SK810の左舷側中央部に凹損を、SK1002号の船首外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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