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平成16年神審第57号
件名

漁船瑞宝丸プレジャーボート春日丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、甲斐賢一郎、横須賀勇一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:瑞宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B

損害
瑞宝丸・・・右舷船底のビルジキール破損、船首部船底から右舷側船尾部船底にかけて擦過傷
春日丸・・・右舷船尾部ブルワーク及び外板に破口、主機操縦レバー折損、船長死亡

原因
春日丸・・・無灯火で漂泊したこと

主文

 本件衝突は、灯火設備を有しない春日丸が、無灯火で漂泊したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月7日04時52分
 徳島県徳島小松島港
 (北緯34度00.6分 東経134度37.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船瑞宝丸 プレジャーボート春日丸
総トン数 4.6トン 2.24トン
全長 13.20メートル 8.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 201キロワット 16キロワット
(2)設備及び性能等
ア 瑞宝丸
 瑞宝丸は、平成6年4月に進水した一層甲板型FRP製漁船で、船首から約8.5メートルの、船体中央よりやや後方に操舵室を備え、レーダー及びGPSを装備していた。 最大速力及び微速力は、それぞれ機関回転数毎分2,600の約22ノット及び同毎分500回転の約3.5ノットであった。
イ 春日丸
 春日丸は、昭和57年1月に進水し、元は漁船として使用されていたFRP製プレジャーボートで、船首から約6.5メートルの、船体中央より後方に舵輪及び船内外機を備え、法定灯火設備及び汽笛装置を備えず、日没から日出までの間の航行が禁止されていた。
 航海速力は、約5ノットであった。

3 事実の経過
 瑞宝丸は、A受審人が1人で乗り組み、さわら網漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、法定灯火を表示し、平成15年9月7日04時45分徳島県徳島小松島港和田島地区を発し、レーダーの電源を入れたのち休止とし、同港北東方沖合3.5海里の漁場に向かった。
 04時51分わずか過ぎA受審人は、小松島飛行場灯台(以下「飛行場灯台」という。)から287度(真方位、以下同じ。)480メートルの地点で、針路を024度に定め、夜明け前でまだ暗く、右舷前方に約10隻のたちうお釣りの釣船の灯火を認めたので、機関を半速力前進にかけ、16.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、レーダーを休止としたまま、舵輪の後方に立って手動操舵により進行した。
 04時51分半わずか過ぎA受審人は、飛行場灯台から315度540メートルの地点に達し、針路を043度に転じたところ、正船首方200メートルのところに春日丸が漂泊しており、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、春日丸が無灯火のため、同船を視認することができず、同船に向けて続航した。
 その後、A受審人は、漂泊する春日丸に向首していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとることができないまま進行中、04時52分飛行場灯台から336度570メートルの地点において、同針路、原速力のまま、瑞宝丸の右舷船首部が、春日丸の右舷後部に前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期で、日出は05時39分であった。
 両船が離れたのち、A受審人は、頭を左舷側に向けて横たわる春日丸船長Cと言葉を交わして無事を確認したものの、春日丸が、次第に陸岸方向に流されたので、来援した喫水の浅い僚船に救助を依頼し、救急車の手配や海上保安部への連絡にあたった。
 また、春日丸は、C船長が1人で乗り組み、たちうお釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日04時30分徳島小松島港横須地区の船着場を発し、法定灯火を表示しないで、徳島小松島港小松島区の洲端(すばし)西岸沖合150メートルの釣場に向かった。
 C船長は、長年小型底引き網漁に従事していたが、3年ほど前に漁を止め、以後趣味としての釣りに、春日丸をときどき使用していたが、同船には、竣工時から法定の灯火設備がなく、日没から日出までの間の航行が禁止されていることを知っていた。
 04時45分C船長は、前示衝突地点に達し、船首を183度に向け、機関を中立として漂泊を開始した。
 その後C船長は、機関室後部の船尾右舷側に立ち、釣糸を海中に入れて調整していたところ、04時51分半わずか過ぎ右舷船首40度200メートルのところに、瑞宝丸のマスト灯と両舷灯を視認でき、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、漂泊を続けた。
 こうして、春日丸は183度に向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、瑞宝丸は、右舷船底のビルジキールに破損及び船首部船底から右舷側船尾部船底にかけて擦過傷を、春日丸は、右舷船尾部ブルワーク及び外板に破口を、主機操縦レバーに折損をそれぞれ生じた。また、C船長は、多発骨折による出血性ショックで死亡した。

(航法の適用)
 本件は、徳島県徳島小松島港において、法定灯火を表示しないで漂泊中の春日丸と漁場に向かうため北上する瑞宝丸とが衝突したもので、海上衝突予防法上、航行中の動力船と無灯火で漂泊中の船舶との衝突には、適用すべき規定がないので、海上衝突予防法第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 瑞宝丸
 A受審人が、レーダーを休止したまま、機関を半速力前進にかけて進行したこと
2 春日丸
 C船長が、夜間、無灯火のまま釣りのために漂泊したこと

(原因の考察)
 瑞宝丸において、A受審人が、レーダーを休止したまま、機関を半速力前進にかけて進行したことは、本件衝突に至る過程において関与した事実であるが、肉眼で十分な見張りを行っており、春日丸が灯火を表示していたならば、同船を早期に視認することが可能であったので、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 春日丸は、竣工時から法定の灯火設備がなく、無灯火で漂泊していたが、自船の存在を周囲に知らしめる灯火を表示していれば、瑞宝丸が、春日丸を早期に視認し、同船を避けることが可能であったものと認められる。
 したがって、C船長が無灯火で、漂泊したことは、本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、徳島県徳島小松島港において、灯火設備を有しない春日丸が、無灯火で漂泊したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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