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平成16年横審第59号
件名

漁船第七十八勝栄丸漁船第七徳寿丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史、竹内伸二、岩渕三穂)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第七十八勝栄丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 第七十八勝栄丸漁労長
受審人
C 職名:第七徳寿丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
勝栄丸・・・左舷船首部外板に破口を伴う凹損
徳寿丸・・・右舷船首部外板に破口を伴う凹損

原因
徳寿丸・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
勝栄丸・・・船橋を無人としたこと、警告信号不履行、各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第七徳寿丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している第七十八勝栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七十八勝栄丸が、船橋を無人とし、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月1日03時20分(日本標準時)
 ハワイ諸島北東方沖合
 (北緯29度25分 西経151度04分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第七十八勝栄丸 漁船第七徳寿丸
総トン数 379トン 379トン
全長 55.11メートル 54.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 698キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第七十八勝栄丸
 第七十八勝栄丸(以下「勝栄丸」という。)は、平成3年1月に進水した、遠洋まぐろはえなわ漁業に従事する長船尾楼型鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、全通する上甲板上は、最船首寄りに船首楼、船体中央部付近から後方が船尾楼、その中間がウエルデッキとなっており、船尾楼甲板上の船首寄りに、乗組員居住区が左右に分かれて設置され、更にその上の航海船橋甲板上には、船首尾方向の長さ2.5メートル幅6.5メートルの船橋が設けられ、航海計器としてレーダー2台、自動衝突予防援助装置、GPS航法装置及びエアーホーンが設備されていた。
 船橋後方の区画には、左舷側に海図室、その後ろに通信室、右舷側に階段、その後ろに漁労長室が設置されており、中央には通路が設けられていた。
 そして、通信室には、気象用ファクシミリ1台が設備され、同室左舷側側壁に縦40センチメートル横30センチメートルの窓が設けられていた。
 勝栄丸は、海上公試運転成績書によれば、可変ピッチプロペラの翼角(以下「翼角」という。)17度における最大速力が13.56ノット、定常旋回径は左右とも75メートル、最短停止距離116メートル、同停止時間44秒であった。
イ 第七徳寿丸
 第七徳寿丸(以下「徳寿丸」という。)は、平成3年5月に進水した、遠洋まぐろはえなわ漁業に従事する長船尾楼型鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、勝栄丸と同型船で、船橋には、レーダー2台、GPS航法装置及びエアーホーンが設備されていたが、自動衝突予防援助装置はなかった。
 船橋後方の区画には、海図室、漁労長室、通路及び階段が設置されていた。
 徳寿丸は、翼角15度における航海速力が11ないし12ノットであった。

3 事実の経過
 勝栄丸は、A受審人、B指定海難関係人ほか日本人3人及びインドネシア人16人が乗り組み、操業の目的で、船首3.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年2月12日10時00分(日本標準時、以下同じ。)フィジー諸島共和国スバ港を発し、ハワイ諸島東方沖合の漁場でほぼ毎日1回の操業を行った。
 勝栄丸の投縄方法は、速力10ないし11ノットで航走しながら、枝縄や浮玉などが取り付けられた長さ約100キロメートルの幹縄を船尾から繰り出すもので、その所要時間は5時間ばかりであった。
 また、投縄時の船橋当直体制は、B指定海難関係人が単独で同当直に就いて操舵操船及び投縄の指揮を執り、しばらくしてA受審人1人またはインドネシア人2人が同当直を交替であたったのち、投縄終了間近になれば、再び同指定海難関係人が単独で同当直に就くようにしており、残りの乗組員のうちの5人が毎日交替で、枝縄に餌を付けるなど船尾甲板での投縄作業にあたっていた。
 ところで、A受審人は、平素から船橋当直にあたるインドネシア人に対して、前路に他船を視認したら必ず報告することなど細かく指示していたものの、B指定海難関係人が操業中の統括責任者で海上経験も長いことから、船橋当直中の注意事項については言うまでもないと思い、同指定海難関係人に対し、同当直中は適切な見張りを維持できるよう、船橋を離れる必要がある際には必ず報告することを指示しなかった。
 越えて8月1日01時30分単独で船橋当直中のB指定海難関係人は、ハワイ諸島北東方沖合北緯29度22分西経151度25分の地点で、水温の調査などを終えて投縄を始め、針路を080度に定めて自動操舵とし、翼角を前進9.5度として10.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 B指定海難関係人は、漁ろうに従事していることを示す鼓型形象物1個を掲げて投縄を続け、しばらくして、船尾甲板の投縄作業員と交替しながら食事を終え、03時00分航海日誌に針路や海況模様などを記入するとともに、それまで、無線により漁獲などの情報交換をしていた僚船が自船の南方沖合で自船と同じ針路で投縄中であることを知っていたので、24海里レンジとした主レーダーで南方6海里ばかりの僚船を把握していたものの、その他の船舶の状況を確認するなどレーダー監視を十分に行わなかったので、左舷船首4海里ばかりの徳寿丸に気付かないまま続航した。
 03時05分B指定海難関係人は、北緯29度24.5分西経151度07分の地点に達したとき、前路に他船を見掛けなかったので、数日前に故障した気象用ファクシミリの修理を思い立ち、通信室に行くこととしたが、しばらくは大丈夫と思い、船橋を離れることをA受審人に報告しないで通信室に入り、船橋を無人とした。
 03時10分B指定海難関係人は、北緯29度24.5分西経151度06分の地点に至ったとき、左舷船首60度2.1海里のところに、徳寿丸を視認することができ、その後、衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋を無人とし通信室で気象用ファクシミリの修理を行っていたので、このことに気付かないまま、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作もとらずに進行した。
 03時20分少し前B指定海難関係人は、修理を一時中断して周囲の見張りを行うため船橋に戻ろうと通信室の出入口に向かったとき、ふと同室左舷側の窓から左舷前方至近に迫った徳寿丸を初めて視認し、慌てて船橋に戻り手動操舵に切り替えるとともに翼角を後進に操作したが及ばず、03時20分北緯29度25分西経151度04分の地点において、勝栄丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に徳寿丸の右舷船首部が後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、日出時刻は同日00時24分で、視界は良好であった。
 A受審人は、自室で休息中に衝撃を感じ、間もなくB指定海難関係人から衝突した旨の報告を受け、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
 また、徳寿丸は、C受審人ほか日本人6人が乗り組み、操業の目的で、船首3.5メートル船 尾4.0メートルの喫水をもって、同年1月5日11時00分宮城県気仙沼港を発し、途中、アメ リカ合衆国ホノルル港でインドネシア人14人を乗せた後、ハワイ諸島東方沖合の漁場で操業を続けた。
 徳寿丸の漁場移動時の船橋当直体制は、C受審人を単独当直とし、甲板長にインドネシア人1人を付けるほか、インドネシア人2人による6直を加えて、2時間交替の8直制としていた。
 ところで、C受審人は、平素、インドネシア人に対して指示する際には、日本語に身振り手振りを交えて意志の疎通を図っており、丁寧に説明すれば指示内容を十分に伝えることができた。
 越えて8月1日01時00分C受審人は、ハワイ諸島北東方沖合北緯29度48分西経151度19.5分の地点で、漁場移動時の船橋当直に就き、針路を150度に定めて自動操舵とし、翼角を前進15度として11.5ノットの速力で進行した。
 03時00分C受審人は、北緯29度28.5分西経151度06分の地点に達したとき、無資格のインドネシア人2人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、折から右舷船尾方の水平線付近に見えていた他船が操業中か航行中か気を付けるよう指示しただけで、前路の見張りもするものと思い、前路の見張りを十分に行うよう厳重に指示することなく、視界が良かったのでレーダーを2台とも休止した状態で降橋した。
 03時10分船橋当直者は、北緯29度27.5分西経151度05分の地点に至ったとき、右舷船首50度2.1海里のところに、所定の形象物を掲げて漁ろうに従事している勝栄丸が存在し、その後、衝突のおそれがある態勢で接近したが、見張り不十分で、そのことに気付かず、C受審人に報告しないまま続航し、しばらくして所用で昇橋した漁労長が同船の接近に気付き翼角を0度に操作したが及ばず、徳寿丸は、原針路のまま、わずかの行きあしとなったとき、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、船橋当直者から何らの報告も受けなかったので、速やかに同船の進路を避けることができないでいるうち、機関音の変化に続き船体が傾いて異常を感じ、直ちに昇橋して衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、勝栄丸は、左舷船首部外板に、徳寿丸は、右舷船首部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、ハワイ諸島北東方沖合の公海上において、勝栄丸及び徳寿丸の日本船同士が衝突したもので、海上衝突予防法が適用されることになり、勝栄丸が漁ろうに従事している船舶、徳寿丸が航行中の動力船と認められるから、同法第18条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 勝栄丸
(1)A受審人が、B指定海難関係人に対し、船橋を離れる必要がある際には必ず報告することを指示しなかったこと
(2)B指定海難関係人が、レーダー監視を十分に行わなかったこと
(3)B指定海難関係人が、船橋を無人としたこと
(4)B指定海難関係人が、警告信号を行わなかったこと
(5)B指定海難関係人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 徳寿丸
(1)C受審人が、レーダーを休止していたこと
(2)C受審人が、船橋当直者に対し、前路の見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったこと
(3)船橋当直者が前路の見張りを十分に行わなかったこと
(4)C受審人が、勝栄丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 事実認定のとおり、徳寿丸は、漁場を移動中であり、一方、勝栄丸は、漁ろうに従事中であった。
 海上衝突予防法第18条により、徳寿丸は避航船の立場にあったから、勝栄丸の進路を避けなければならなかった。徳寿丸が、見張りを十分に行っていたなら、右舷前方に衝突のおそれがある態勢で接近する勝栄丸を早期に認めることができ、同船が所定の形象物を掲げて漁ろうに従事中であることを把握したうえ、余裕を持ってこれを避けることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、船橋当直者が、前路の見張りを十分に行わなかったこと、C受審人が、同当直者に対して前路の見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったこと及び同船の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 一方、勝栄丸は、保持船の立場であるから、徳寿丸に対して警告信号を行い、更に間近に接近して避航船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたときは、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。勝栄丸が、船橋を無人とすることなく適切な見張りを維持していたなら、左舷前方に衝突のおそれがある態勢で接近する徳寿丸を早期に認めることができ、同船の動静を把握したうえ、警告信号を行うことができ、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、A受審人が、B指定海難関係人に対し、船橋を離れる必要がある際には必ず報告することを指示しなかったこと、単独で船橋当直中の同指定海難関係人が、船長に報告しないで船橋を無人としたこと、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が、レーダー監視を十分に行わなかったこと、及びC受審人が、レーダーを休止していたことは、いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、ハワイ諸島北東方沖合において、漁場を移動中の徳寿丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事する勝栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、勝栄丸が、船橋を無人とし、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 徳寿丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、前路の見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったことと、同当直者が、前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 勝栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、適切な見張りを維持できるよう、船橋を離れる必要がある際には必ず報告することを指示しなかったことと、同当直者が、船長に報告しないで船橋を無人としたこととによるものである。

(受審人の所為)
1 懲 戒
 C受審人は、ハワイ諸島北東方沖合において、漁場を移動中、無資格のインドネシア人に船橋当直を行わせる場合、前路の見張りを十分に行うよう厳重に指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、折から右舷船尾方の水平線付近に見えていた他船が操業中か航行中か気を付けるよう指示しただけで、前路の見張りもするものと思い、前路の見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が見張り不十分で漁ろうに従事する勝栄丸に気付かず、その報告が得られないまま、衝突のおそれがある態勢で接近する勝栄丸の進路を避けることができずに進行して同船との衝突を招き、勝栄丸の左舷船首部外板及び徳寿丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、ハワイ諸島北東方沖合において、漁ろうに従事中、B指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせる場合、常時適切な見張りを維持できるよう、船橋を離れる必要がある際には必ず報告することを指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人が操業中の統括責任者で海上経験も長いことから、船橋当直中の注意事項については言うまでもないと思い、船橋を離れる必要がある際には必ず報告することを指示しなかった職務上の過失により、同当直中の同指定海難関係人が無断で船橋を無人とし、衝突のおそれがある態勢で接近する徳寿丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできずに同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧 告
 B指定海難関係人が、ハワイ諸島北東方沖合において、漁ろうに従事中、単独の船橋当直に就いたのち、通信室にある気象用ファクシミリを修理するため船橋を離れようとする際、船長に報告しないで船橋を無人としたことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、常時適切な見張りができるよう、船橋を離れる必要がある際には必ず船長に報告しなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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