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平成16年横審第37号
件名

漁船佐吉丸遊漁船清高丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年11月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:佐吉丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:清高丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
佐吉丸・・・船首部FRPが剥離(はくり)
清高丸・・・船首部に亀裂等、船長が約1週間の加療を要する頭部挫創及び頸部捻挫、釣り客 が腰部打撲の負傷

原因
佐吉丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
清高丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、佐吉丸が、見張り不十分で、錨泊中の清高丸を避けなかったことによって発生したが、清高丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月11日07時34分
 静岡県御前埼南方沖合
 (北緯34度34.5分 東経138度13.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船佐吉丸 遊漁船清高丸
総トン数 149トン 4.9トン
全長 41.20メートル 12.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 853キロワット 364キロワット
(2)設備及び性能等
ア 佐吉丸
 佐吉丸は、平成9年3月に進水した一層甲板型FRP製漁船で、三重県和具漁港を基地として銚子沖、小笠原諸島周辺海域及び三陸沖を主な漁場とするかつお一本釣り漁業に従事していた。
 船尾に操舵室及びその上部にアッパーブリッジが配置され、それぞれに操舵装置、機関操縦装置のほかGPS、レーダー等の航海計器が設置されており、通常の航海当直は操舵室で、それ以外の出入航操船、魚群探索、操業時の当直はアッパーブリッジで行われていた。また、空船時には船首喫水が浅くなって、操舵室の舵輪の位置からは船首部により正船首両舷に各10度の死角が生じる状況にあった。
イ 清高丸
 清高丸は、平成10年8月に進水したFRP製遊漁船で、前部にいけす、中央部に操舵室が配置され、船尾甲板両舷に各1脚、船尾端に1脚の釣り客用長いすが設備されていた。
 操舵室内の左右各1脚のいすのうち、右舷側が操縦席となっており、また、GPS、レーダー、魚群探知機等の航海計器及び信号装置としてモーターホーンがそれぞれ設置されていた。

3 事実の経過
 佐吉丸は、A受審人ほか21人が乗り組み、静岡県御前崎港で水揚げを行ったのち空船状態で基地に戻る目的で、船首1.25メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成16年2月11日07時00分御前崎港を発し、和具漁港に向かった。
 ところで、佐吉丸は、空船時に船首死角を生じていたが、A受審人は、本船では船首が上がった状態のまま航行するということであったので、船首バラストを張らずに、船首を下げないで航行していた。
 A受審人は、御前崎港の防波堤(A)と同(B)との間を抜けたところでアッパーブリッジから操舵室に切り換えて操船し、東に10分ほど進んだのち南下し、御前岩の西方900メートルほどを経由して、07時29分少し前御前埼灯台から129度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を250度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 A受審人は、定針するとき御前埼南方1.2海里に清高丸が存在したが、定針方向である西方を一瞥(いちべつ)したのみで見張りを十分に行わず、波間に見え隠れする同船に気付かないまま、操舵室中央の舵輪横に立って操舵に当たった。
 07時31分A受審人は、御前埼灯台から144度1.2海里の地点に達したとき、船首方930メートルのところに、清高丸が船首と右舷側船体を見せており、錨泊船の形象物を掲げていなかったものの、風に船首を立て、方位の変わらない状態から錨泊していることが分かる状態で、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、操舵室内を移動するなどの死角を補う見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず、清高丸を避けることなく続航中、突然衝撃を感じ、07時34分御前埼灯台から168度1.2海里の地点において、佐吉丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が清高丸の左舷船首に、前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で、風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、波高約1メートルの波があり、視界は良好であった。
 また、清高丸は、B受審人が単独で乗り組み、釣り客1人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月11日06時40分御前崎港を発し、御前埼灯台南方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、御前岩の西側550メートルを経由して南下し、GPSプロッタに記録した前日と同じ釣り場に至り、07時10分御前埼灯台から168度1.2海里の水深17メートルの地点で、操舵室からウインチの遠隔操作により重量30キログラムほどの左舷錨を投下し、ドラムに巻きつけた直径16ミリメートルのクレモナロープ製錨索を56メートル延出して止め、機関を停止して錨泊した。
 B受審人は、錨泊地点が御前埼南方沖合で、航行する船舶の多い海域であることを知っていたものの、錨泊船の形象物を掲げず、折からの風により北東を向首し、自身は船尾甲板左舷側の長いすに、釣り客は同右舷側の長いすにそれぞれ腰を掛けて魚釣りを始めた。
 07時19分B受審人は、僚船に釣果を連絡するつもりで携帯電話の置いてある操舵室に移動したとき、左舷船首28度2.0海里ばかりに南下中の佐吉丸を初認し、御前岩の西側を南下する船舶はそのまま南下するか右転西航して自船の方向に来航するか予測できなかったが、同船はそのまま南下するものと思い、引き続き同船の動静監視を十分に行うことなく、長いすに戻って魚釣りを続けた。
 07時31分B受審人は、060度を向首していたとき、右舷船首10度930メートルのところに、西航中の佐吉丸が存在し、その後自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近し、間近に近づいても自船を避ける様子が認められなかったが、依然、動静監視不十分でこのことに気付かず、注意喚起信号を行うことも、機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく、魚釣りを続けた。
 07時34分少し前B受審人は、それまでかすかに聞こえていた船の機関音が次第に大きくなったことから、不審に感じて立ち上がり、操舵室左舷側から船首方を見たとき、目前に佐吉丸の球状船首を認めたが、何らの措置もとることができないまま、清高丸は、060度を向いた状態で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、佐吉丸は、船首部FRPが剥離(はくり)し、清高丸は船首部に亀裂が生じるとともに錨が海没したが、のちいずれも修理復旧され、B受審人が約1週間の加療を要する頭部挫創、頸部捻挫を、釣り客が約1週間の加療を要する腰部打撲をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件は、御前埼南方沖合において、航行中の佐吉丸と錨泊中の清高丸とが衝突したものであり、同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから、一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 海上衝突予防法上、航行船と錨泊船の関係について個別に規定した条文はないから、同法第38条及び第39条の規定によるのが相当となる。

(本件発生に至る事由)
1 佐吉丸
(1)A受審人が空船状態時に船首バラストを張らなかったこと
(2)A受審人がアッパーブリッジで操船しなかったこと
(3)A受審人が定針するとき定針方向である西方の見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人が操舵室内を移動するなどの死角を補う見張りを十分に行っていなかったこと
(5)A受審人が清高丸を避けなかったこと
2 清高丸
(1)B受審人が航行船舶の多い海域に錨泊したこと
(2)B受審人が錨泊中の形象物を掲げなかったこと
(3)B受審人が佐吉丸を初認したときそのまま南下して行くと思ったこと
(4)B受審人が佐吉丸の動静監視を十分に行わなかったこと
(5)B受審人が注意喚起信号を行わなかったこと
(6)B受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 佐吉丸が、死角を解消し、十分な見張りを行っていたなら、清高丸を視認でき、同船を容易に避けることができたものと認められる。したがって、A受審人が操舵室内を移動するなどの死角を補う見張りを十分に行わなかったこと及び清高丸を避けなかったことは、本件発生の原因となる。一方、清高丸は、佐吉丸を初認後引き続き動静監視を十分に行っていたなら、同船が右転して接近してくるのが分かり、同船に対して注意喚起信号を行うとともに機関を始動して移動することができ、本件は発生していなかったものと認められる。したがって、B受審人が動静監視を十分に行わなかったこと、注意喚起信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が空船状態時に船首バラストを張らなかったこと、アッパーブリッジで操船しなかったこと、定針するとき定針方向である西方の見張りを十分に行わなかったこと、及びB受審人が錨泊中の形象物を掲げなかったこと、佐吉丸を初認したときそのまま南下して行くと思ったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 B受審人が航行船舶の多い海域に錨泊したことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、錨地が錨泊禁止区域でなく、周囲の見張りを十分に行うことで他船の接近を早期に知ることができると認められることから、本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は、御前埼南方沖合において、佐吉丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の清高丸を避けなかったことによって発生したが、清高丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、御前埼南方沖合において、三重県和具漁港に向け西航する場合、船首喫水が浅く船首方に死角があったから、前路で錨泊中の清高丸を見落とすことのないよう、操舵室内を移動するなどの死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針方向である西方を一瞥して他船を認めなかったことから、その後前路に他船はいないものと思い、操舵室内を移動するなどの死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の清高丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、自船の船首部にFRPの剥離を、清高丸の船首部に亀裂及び錨の海没をそれぞれ生じさせ、B受審人に約1週間の加療を要する頭部挫創、頸部捻挫を、同乗者に約1週間の加療を要する腰部打撲を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、御前埼南方沖合において、錨泊して魚釣り中、御前岩の西側を南下する佐吉丸を初認した場合、同船がそのまま南下するか右転西航して自船のいる方向に向かうか予測できなかったから、引き続き同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、佐吉丸はそのまま南下するものと思い、引き続き同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後佐吉丸が右転し、自船を避けずに接近していることに気付かないまま錨泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身と同乗者が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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