(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月17日12時35分
北海道苫小牧港南方沖合
(北緯42度32.6分 東経141度47.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
遊漁船第18海栄丸 |
モーターボートキャプテン ケイ |
総トン数 |
4.9トン |
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全長 |
14.75メートル |
4.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
264キロワット |
51キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第18海栄丸
第18海栄丸(以下「海栄丸」という。)は、平成2年9月に進水した、限定沿海区域を航行区域とする最大とう載人員14人のFRP製小型兼用船で、船体中央に操舵室が設けられ、同室にはレーダー1台のほかGPSプロッター等が装備されていた。
また、海栄丸は、機関を全速力前進にかけると船首が浮上し、操舵室右舷側の見張り位置からは船首から左舷側20度及び右舷側10度の各範囲に死角を生じるので、操船者は、船首を時々左右に振るなどして死角を補う見張りを行う必要があった。
イ キャプテン ケイ
キャプテン ケイ(以下「キ号」という。)は、限定沿海区域を航行区域とする最大とう載人員6人の一層甲板型FRP製プレジャーモーターボートで、船体中央部右舷側に操縦席が設置され、電気ホーンのほかGPSプロッター等を装備していた。
3 事実の経過
海栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、釣客9人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成15年5月17日05時00分北海道苫小牧港第4区の東水路船だまりを発し、同船だまり南方6海里の釣場に向かった。
A受審人は、06時00分ごろ前示釣場に至って釣客に釣りを行わせ、その後付近を移動して遊漁を行い、予定帰港時刻の12時になっても釣果があまり良くなかったので、数日前には釣れていた苫小牧港東港地区東防波堤の南側に向かうこととし釣場を発進した。
12時30分A受審人は、苫小牧港東港地区東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から167度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点に達したとき、針路を006度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵とし、操舵室右舷側に立ち見張りに当たって進行した。
12時33分わずか過ぎA受審人は、東防波堤灯台から163度2.8海里の地点に達したとき、キ号を正船首900メートルに認めることができ、その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが、定針したとき前方を一瞥(いちべつ)して他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず、キ号を避けることなく続航した。
こうしてA受審人は、キ号に向首したまま進行し、12時34分わずか過ぎ東防波堤灯台から160度2.6海里の地点で、正船首370メートルにキ号のレーダー映像を認めたものの、これをボンデンと判断し、近づいてから替わすことにして続航中、12時35分わずか前船首の釣客が手を大きく振ったのを見て異状を感じ、右舵をとり機関を後進にかけたが効なく、12時35分海栄丸は、東防波堤灯台から158度2.4海里の地点において、019度を向首したとき、原速力のまま、その船首部がキ号の左舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、キ号は、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、17日05時55分苫小牧港第4区のマリーナを発し、同マリーナ南東方6海里の釣場に向かった。
06時30分B受審人は、前示釣場に到着し、付近を移動して釣りを行ったのち、11時30分衝突地点付近に至り、船首からパラシュート型シーアンカーを投入し、アンカーロープを28メートル延出して船首のクリートにとり漂泊を開始した。
12時33分わずか過ぎB受審人は、右舷側操縦席に後方を向いて腰を掛け両舷から竿を出し船首が186度を向いていたとき、正船首900メートルに海栄丸を初認し、その後自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、そのうち自船を避けるものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けた。
B受審人は、海栄丸を見守っていたところ、避航の気配がなく、12時34分半少し過ぎ電気ホーンにより短音を連続吹鳴したものの、自船に迫るので危険を感じて機関を始動し、右舵一杯をとり全速力前進にかけたが及ばず、189度を向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、キ号は、左舷外板に亀裂及び破口を伴う凹損等を生じて転覆し、海栄丸によりマリーナに曳航されたが、のち廃船となり、B受審人は、海上に投げ出されたものの救助された。
(航法の適用)
本件衝突は、苫小牧港南方沖合において、航行中の海栄丸と漂泊中のキ号とが衝突したものであるが、以下適用される航法について検討する。
衝突地点は港域外であることから海上衝突予防法が適用されるが、航行中の船舶と漂泊中の船舶に関する航法規定は存在しない。よって、同法第38条及び第39条の船員の常務で律することになる。
(本件発生に至る事由)
1 海栄丸
(1)A受審人が死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人がキ号を避けなかったこと
2 キ号
(1)B受審人が警告信号を行わなかったこと
(2)B受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
海栄丸は、死角を補う見張りを十分に行っていれば、キ号に衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり、余裕のある時期に同船を避けることが可能であったものと認められる。
したがって、A受審人が、死角を補う見張りを十分に行わなかったこと及びキ号を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
キ号は、自船に向首して接近する海栄丸を認めてから動静を監視しており、早期に警告信号を行い、機関を使用して移動していれば、衝突を避け得たものと認められる。
キ号が警告信号を行ってその存在を海栄丸に知らしめる時期については、船舶が転舵や機関を使用したあと、その変更が明確に現れ、他船が分かるようになるまでには時間を要するので、海栄丸が転舵なり減速なりのキ号を避ける措置をとるのに十分な余裕のある時期に行われなければ、有効に行ったことにはならない。本件では、衝突直前に電気ホーンが吹鳴されており、海栄丸がキ号を避ける措置をとるために十分な余裕のある時期に行われたとは認められない。
したがって、B受審人が、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は、北海道苫小牧港南方沖合において、航行中の海栄丸が、見張り不十分で、漂泊中のキ号を避けなかったことによって発生したが、キ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道苫小牧港南方沖合において、釣場に向け航行する場合、船首方に死角を生じていたから、前路で漂泊中のキ号を見落とすことのないよう、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前方を一瞥して他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、キ号に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、海栄丸の船首部に擦過傷を、キ号の左舷外板に亀裂及び破口を伴う凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、北海道苫小牧港南方沖合において、漂泊して釣り中、海栄丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めた場合、機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、そのうち自船を避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、海栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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