(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月4日08時50分
北海道稲穂岬北西方沖合
(北緯42度59.0分 東経138度09.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第八源榮丸 |
漁船第参拾壱正進丸 |
総トン数 |
138トン |
138トン |
全長 |
37.30メートル |
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登録長 |
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29.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
551キロワット |
367キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第八源榮丸
第八源榮丸(以下「源榮丸」という。)は、昭和53年6月に進水した、いか一本つり漁業に従事する中央船橋型鋼製漁船で、操舵室にはレーダー2台、GPSプロッター及び魚群探知機等が装備され、甲板周囲にいか釣機が設置されていた。
イ 第参拾壱正進丸
第参拾壱正進丸(以下「正進丸」という。)は、昭和52年6月に進水した、いか一本つり漁業に従事する中央船橋型鋼製漁船で、操舵室にはレーダー2台、GPSプロッター及び魚群探知機等が装備され、甲板周囲にいか釣機が設置されていた。
3 事実の経過
源榮丸は、A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成15年9月15日10時30分青森県八戸港を発し、北海道稲穂岬北西方沖合の漁場に向かった。
ところで、源榮丸は、平素、17時00分ごろから翌朝05時30分ごろまで夜間操業を行い、昼間は漂泊してB指定海難関係人1人が当直に就き、いか釣機の半数だけを稼動させ操業を続けていた。
A受審人は、15日23時ごろ同漁場に到着したのち操業を行っていか80トンを漁獲し、10月4日07時30分稲穂岬灯台から305度(真方位、以下同じ。)76.5海里付近に至り、パラシュートアンカーを船首から投入して漂泊し、折から強雨が断続的に来て時折視界が制限される状況下、航行中の動力船の灯火を表示しないでB指定海難関係人を単独の当直に当たらせた。
08時00分A受審人は、休息をとることとしたが、その際、B指定海難関係人が漂泊中の当直に慣れているから何かあったら報告があるものと思い、強雨により視界制限状態となったときや、他船が接近するのを認めたときには報告するよう指示することなく自室に戻った。
08時20分B指定海難関係人は、強雨域に入り視程が200メートルばかりに狭められる状況となったが、これをA受審人に報告することなく当直を続け、08時42分半船首が025度を向いているとき、降雨の合間に自船に接近する正進丸を左舷船首27度1.0海里に初めて視認したが、正進丸が自船を避けるものと思い、このこともA受審人に報告せず、いか釣機の様子を見ながら漂泊を続けた。
こうして源榮丸は、A受審人が操船指揮をとることができなかったため、視界制限状態における音響信号も、正進丸に対するレーダーによる動静監視も行われず、08時46分わずか前同船が同方位1,000メートルとなり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、正進丸に対して汽笛を連吹するなどの注意を喚起するための措置がとられないまま漂泊を続けた。
08時49分少し過ぎB指定海難関係人は、強雨の中から現れた正進丸を認めて急ぎ漁ろう長を起こしたものの、どうすることもできず、08時50分稲穂岬灯台から305度76.5海里の地点において、源榮丸は、025度を向首したまま、その左舷船首部に正進丸の船首部が前方から27度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力3の北西風が吹き、視程は200メートルであった。
A受審人は、衝撃で昇橋し、事後の措置に当たった。
また、正進丸は、C及びD両受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、9月7日08時30分八戸港を発し、その後北海道西岸沖合で操業を続け、10月4日いか64トンを漁獲したところで、漁場を移動することにし、07時00分稲穂岬北西方90海里の漁場を発進し、D受審人が単独の航海当直に就き、時折強雨により視界が制限されることがあったので航行中の動力船の灯火を表示して南方に向かった。
発進時C受審人は、強雨により視界制限状態となることが予測されたが、D受審人から報告があるものと思い、同人に対し、視界制限状態となったら報告するよう指示することなく、操舵室後方の自室で休息した。
08時20分D受審人は、稲穂岬灯台から308度79.0海里の地点に達したとき、強雨域に入り視程が100メートルばかりに狭められたが、このことをC受審人に報告せず、視界制限状態における音響信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく、針路を178度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵とし、3.0海里と1.5海里レンジとしたレーダーを時折見ながら魚群探知機により魚群探索を行って進行した。
08時46分わずか前D受審人は、稲穂岬灯台から306度76.5海里の地点に達したとき、漂泊中の源榮丸の映像を正船首1,000メートルに探知でき、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、レーダーを一瞥して前路に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく続航し、08時50分正進丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C受審人は、衝撃で昇橋し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、源榮丸は、左舷側船首部ブルワークに凹損、いか釣機に曲損を生じ、正進丸は、左舷側船首部ブルワークに凹損、いか流し台に破損等を生じたが、いずれも修理された。
(航法の適用)
本件衝突は、広い海域において、強雨による視界制限状態時に航行中の正進丸と漂泊中の源榮丸とが衝突したものであり、海上衝突予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法で律することになる。
(本件発生に至る事由)
1 源榮丸
(1)A受審人が、漂泊中の当直を行うB指定海難関係人に対し、強雨により視界制限状態となったときや、他船が接近するのを認めたときには報告するよう指示しなかったこと
(2)B指定海難関係人が、A受審人に対し、強雨により視界制限状態となったこと及び視認した正進丸の接近を報告しなかったこと
(3)A受審人が視界制限状態時に、視界制限状態における音響信号を行わなかったこと、レーダーによる動静監視を行わなかったこと及び正進丸に対し注意を喚起するための措置をとらなかったこと
2 正進丸
(1)C受審人が、航海当直に就いたD受審人に対し、強雨により視界制限状態となったら報告するよう指示しなかったこと
(2)D受審人が、C受審人に対し、強雨により視界制限状態となったことを報告しなかったこと
(3)D受審人が、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(4)D受審人が、視界制限状態における音響信号を行わず、安全な速力に減じなかったこと、源榮丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つ最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
(原因の考察)
本件衝突は、強雨により視界が制限された状況下、航行中の正進丸と漂泊中の源榮丸とが衝突したものである。
源榮丸において、A受審人が、強雨により視界が制限されたときB指定海難関係人からの報告が得られれば、視界制限時の操船指揮をとって、視界制限状態における音響信号を行うことやレーダーによる見張りを行うことができ、また、同指定海難関係人が、正進丸の接近をA受審人に報告していれば、同受審人が、レーダーによる動静監視を行い、余裕をもって同船に対して注意を喚起するための措置をとることができたものと認められる。
したがって、A受審人がB指定海難関係人に対し、視界制限状態となったときや、他船が接近するのを認めたときには報告するよう指示しなかったこと、自ら操船指揮をとることができず、視界制限状態における音響信号を行わなかったこと、レーダーによる動静監視を行わなかったこと及び正進丸に対して注意を喚起するための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
また、B指定海難関係人がA受審人に対し、視界制限状態となったこと及び正進丸の接近を報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
正進丸においては、C受審人がD受審人から視界制限状態となったことの報告が得られれば、自ら操船指揮をとって、安全な速力に減じるとともに視界制限状態における音響信号を行うことができ、レーダーによる見張りを十分に行うことにより、源榮丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つ最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止することができたものと認められる。
したがって、C受審人がD受審人に対し、視界制限状態となったら報告するよう指示しなかったこと、D受審人が、C受審人に対し、視界制限状態となったことを報告しなかったこと、D受審人が、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと、視界制限状態における音響信号を行わなかったこと、安全な速力に減じなかったこと及び源榮丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つ最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことは、本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は、強雨のため視界が制限された北海道稲穂岬北西方沖合において、南下する正進丸が、視界制限状態における音響信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる見張り不十分で、源榮丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことによって発生したが、漂泊中の源榮丸が、視界制限状態における音響信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、正進丸に対して注意を喚起するための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
正進丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界制限状態となったら報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、視界制限状態となったことを船長に報告しなかったばかりか、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
源榮丸の運航が適切でなかったのは、船長が、漂泊中の当直者に対し、視界制限状態となったときや、他船が接近するのを認めたときには報告するよう指示しなかったことと、当直者が、視界制限状態となったことを船長に報告しなかったばかりか、他船の接近を認めたことを船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
1 懲戒
D受審人は、北海道稲穂岬北西方沖合において、強雨により視界が制限された状況下、漁場移動のため南下する場合、前路で漂泊中の源榮丸を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダーを一瞥して前路に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の源榮丸に著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して衝突を招き、源榮丸の左舷側船首部ブルワークに凹損、いか釣機に曲損等を、正進丸の左舷側船首部ブルワークに凹損、いか流し台に破損等を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は、北海道稲穂岬北西方沖合において、強雨により視界制限状態となることが予測された状況下、D受審人に漁場移動中の航海当直を委ねる場合、視界制限時には自ら操船指揮をとることができるよう、同人に対して視界制限状態となったら報告するよう指示すべき注意義務があった。ところが、C受審人は、D受審人から報告があるものと思い、同人に対して視界制限状態となったら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態となった報告を得られず、自ら操船指揮をとることができずに進行して源榮丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、北海道稲穂岬北西方沖合において、強雨により時折視界が制限された状況下、B指定海難関係人を漂泊中の当直に当たらせる場合、視界制限時や他船が接近するときには自ら操船指揮をとることができるよう、同人に対して視界制限状態となったときや、他船が接近するのを認めたときには報告するよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、B指定海難関係人が漂泊中の当直に慣れているから何かあったら報告があるものと思い、同人に対して視界制限状態になったときや、他船が接近するのを認めたときには報告するよう指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態になったこと及び正進丸の接近の報告が得られず、自ら操船指揮をとることができずに漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
B指定海難関係人が、北海道稲穂岬北西方沖合において、漂泊中の当直に当たり、視界が制限され、更に降雨の合間に他船が接近するのを認めた際、それらを船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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