(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月3日14時20分
長崎県黒島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船弥栄丸 |
モーターボート秀丸 |
総トン数 |
4.80トン |
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全長 |
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7.02メートル |
登録長 |
10.60メートル |
6.14メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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40キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
弥栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年8月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、水揚げを終えて帰航の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年11月3日13時30分長崎県蛎ノ浦島崎戸港浅浦を発し、同県的山大島神浦に向かった。
ところで、A受審人は、平素、船体後部甲板上の機関室後方に設けた幅約1.5メートル高さ約1.3メートルの囲壁中央に立って、同機関室上右舷側後部に備えた機関操作レバー及び長さ2.5メートルの舵柄を操作しながら、立った姿勢で機関室越しに前方の見張りを行っていたが、前路に他船が見当たらないときには、同囲壁内右舷前部に置いた手製のいすに腰掛け、眼高が立った位置より約15センチメートル低くなった状態で、機関室に遮られて前方を見通すことができない状況のまま航行していた。
A受審人は、発航したのち、機関室後方に立って操舵操船に当たり、北上していたところ、14時10分面高白瀬灯台から250度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点において、大型船が1隻左舷後方から自船を追い越して前方400メートルばかりを替わったところで、針路を長崎県黒島東端に向く357度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で進行した。
定針したとき、A受審人は、前方を一瞥して他船が見当たらなかったので前示大型船のほかに前路に航行の支障となる他船はいないものと思い、立った姿勢で操舵操船に当たり、前方の見張りを十分に行うことなく、左舷方を向いていすに腰掛け、左手で舵柄を握って続航し、14時18分面高白瀬灯台から261度3.9海里の地点に達したとき、正船首370メートルのところに停留中の秀丸を視認できる状況であったが、秀丸の存在に気付かずに進行した。
その後、A受審人は、秀丸に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、秀丸を避けないまま進行し、14時20分面高白瀬灯台から264度3.9海里地点において、弥栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が秀丸の左舷後部に後方から87度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で、風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、秀丸は、有効な音響による信号を行うことができる設備を有さない、船体中央部に操縦席がある無蓋のFRP製モーターボートで、主船外機のほか予備の船外機を船尾に備え、B受審人(昭和50年11月一級小型船舶操縦士免許取得、平成15年11月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が単独で乗り組み、友人1人を乗せ、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時00分佐世保市鹿子前町を発し、同時50分片島北西方1海里付近の釣り場に到着し、船外機を停止して釣りを開始し、時折場所を移動しながら釣りを続けた。
B受審人は、14時ごろ前示衝突地点に至って停留し、釣りを再開したものの、予定帰航時間が迫ってきたので、同時16分釣りを打ち切って帰航準備にかかり、船尾方を向いていずれも船尾物入れにある予備燃料タンクから燃料タンクへの給油作業を開始した。
14時18分B受審人は、折からの北西風によって船首が270度を向いて停留していたとき、左舷船尾87度370メートルのところに、自船に向首する態勢で北上してくる弥栄丸を視認できる状況であったが、自船は停留中だから航行中の船舶が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、弥栄丸の存在に気付かなかった。
B受審人は、その後弥栄丸が自船に向首したまま、衝突のおそれがある態勢で接近したが、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないで給油作業を続け、14時20分少し前B受審人が、同乗者の声を聞き、左舷方約40メートルのところに自船に向首して接近する弥栄丸を初めて視認し、立ち上がって手を振り、大声で叫んだものの、何らの措置もとることができず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弥栄丸は、左舷船首部に擦過傷を生じ、秀丸は、左舷後部に破損を生じ、B受審人が、衝撃で転倒して40日の通院加療を要する左大腿部打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、長崎県黒島南方沖合において、弥栄丸が水揚げを終えて帰航中、見張り不十分で、前路で停留中の秀丸を避けなかったことによって発生したが、秀丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県黒島南方沖合において、蛎ノ浦島崎戸港から的山大島の定係地に向けて帰航する場合、いすに腰掛けると前方の見通しが遮られる状況であったから、前路で停留中の秀丸を見落とさないよう、立った姿勢で操舵操船に当たり、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥して他船を認めなかったことから、前路に航行に支障となる他船はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留中の秀丸に気付かず、同船を避けないで進行して秀丸との衝突を招き、自船の左舷船首部に擦過傷を、秀丸の左舷後部に破損をそれぞれ生じさせ、B受審人に40日の通院加療を要する左大腿部打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県黒島南方沖合において、停留して釣りをする場合、自船に向首して接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は停留中だから航行中の船舶が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、弥栄丸の存在と接近に気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらずに給油作業を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。