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平成16年那審第22号
件名

漁船海久丸灯浮標衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年10月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:海久丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
海久丸・・・左舷アンカーローラーを損傷、船首部外板に擦過傷
灯浮標・・・頂部の頭標及び灯器の脱落、櫓脚部に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件灯浮標衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月22日05時00分
 沖縄県中城湾湾口(二ツ口)

2 船舶の要目
船種船名 漁船優漁丸 漁船とみ丸
総トン数 7.3トン 0.9トン
登録長 13.09メートル 5.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 518キロワット  
漁船法馬力数   60

3 事実の経過
(1)海久丸
 海久丸は、平成5年3月に進水した一本釣り漁業に従事する1層甲板型のFRP製漁船で、船首から順に船首甲板、前部甲板、船室、操舵室及び船尾甲板を配し、船首甲板には、両舷舷縁上にアンカーローラーが取り付けられ、その上端は、甲板の舷弧とブルワークの立ち上がりにより、通常の喫水線上約2メートルの高さとなっていた。
 その操舵室には、前部に旋回窓を取り付けた窓、左右の側壁に引き違い戸式の窓があり、前部窓の下端から約30センチメートル下の高さで棚が設けられ、その棚の上には、船体中心線上にマグネットコンパスと自動操舵装置、同装置のすぐ右側に舵輪、右舷側にレーダーとGPSプロッターが設置され、同棚真上の天井に無線装置が取り付けられており、自動操舵装置の前には、いす代わりとして船横方向に板が渡されていた。
 また、同船の自動操舵装置には、「NAV」と称する機能があり、同機能を使用すると、GPS画面上で設定した目的地に向首進行するよう、自動的に針路を変更するものであった。
(2)A受審人
 A受審人は、昭和61年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、数年間潜水漁業に従事したのち、そでいか、まぐろ等の漁を行うようになり、平成5年3月に新造の海久丸を購入してからは、専ら1人で操業を行っていた。
(3)本件発生に至る経緯
 海久丸は、A受審人が1人で乗り組み、まぐろ一本釣り漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年11月19日12時00分沖縄県海野漁港を発し、同漁港北東方45海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、海久丸のまぐろ一本釣り漁は、日没ごろ漁場に到着して船首からシーアンカーを流し、生きたとびいかをえさとして付けた釣り糸を、長さ50メートル前後に調整して船首及び船尾から各々1本ずつ投入するもので、とびいかが弱りやすいことから、操業中はとびいかを釣りながらえさを取り替えて日出少し前に操業を終え、日中はその地点で漂泊しながら休息をとるようにしていた。
 そして、A受審人は、日ごろ操業する海域では他船の通航が多いことから、日中漂泊しながら休息するときは、レーダー画面上で2海里以内に他船が近づくと警報を発するよう設定しており、接近する他船により1日に5ないし6回警報が発生して長時間連続した休息を取ることができず、操業が続くと疲れが蓄積しやすい状況であった。
 19日18時ごろA受審人は、漁場に到着してすぐ操業を開始し、翌20日日出前まで続けたものの釣果がなく、漁場を移動しながら操業を続け、21日17時30分津堅島灯台から085度(真方位、以下同じ。)24.5海里の地点に至って第3回の操業を開始した。
 このころA受審人は、漁業無線等によって天候が悪化するとの予報を知り、その後まぐろ3本を獲たところで操業を終えて海野漁港に向けて帰航することとし、22日01時50分津堅島灯台から085度23.0海里の地点を発し、自動操舵を「NAV」として中城湾口灯浮標(以下「湾口灯浮標」という。)を目的地に設定し、機関を全速力前進にかけ、255度の針路及び7.0ノットの対地速力で進行した。
 04時45分A受審人は、津堅島灯台から111度3.5海里の地点に達したとき、正船首1.8海里のところに湾口灯浮標の灯火を視認し、そのころ連続した操業による疲れと発航後周囲に他船を見なかった安心感から眠気を催したが、間もなく湾口灯浮標の手前で海野漁港に向け針路を変更するので、居眠りすることはないものと思い、それまで閉めていた風上側の窓を開けて外気に当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、いす代わりに渡した板に腰をおろして右舷側の壁にもたれた姿勢のままでいるうちに、いつしか居眠りに陥った。
 こうして海久丸は、湾口灯浮標手前で針路を変更することなく、同灯浮標に向首したまま続航し、05時00分津堅島灯台から135度2.3海里の地点において、同一針路、速力のまま、その左舷船首部が湾口灯浮標の櫓(やぐら)脚部に衝突した。
 当時、天候は雨で風力5の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、沖合には波高3メートルを超す波浪があった。
 衝突の結果、海久丸は左舷アンカーローラーを損傷して同船首部外板に擦過傷を生じ、湾口灯浮標は頂部の頭標及び灯器の脱落と櫓脚部に曲損を生じたが、のち、いずれも修理された。

(原因)
 本件灯浮標衝突は、夜間、沖縄県中城湾湾口において、湾口灯浮標を船首目標として進行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同灯浮標手前で針路を変更することなく進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、中城湾湾口において、操業を終えて湾口灯浮標を船首目標として進行中、連続した操業による疲れと周囲に他船を見なかった安心感から眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、風上側の窓を開けて外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、間もなく湾口灯浮標の手前で針路を変更するので、居眠りすることはないものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、湾口灯浮標の手前で針路を変更することなく進行して衝突を招き、左舷アンカーローラーを損傷して同船首部外板に擦過傷を生じ、湾口灯浮標に頭標及び灯器の脱落と櫓脚部曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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