(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月26日06時22分
鹿児島県串木野港西方
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船秀丸 |
漁船栄丸 |
総トン数 |
5.4トン |
0.69トン |
登録長 |
11.65メートル |
4.26メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
279キロワット |
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漁船法馬力数 |
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60 |
3 事実の経過
秀丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年6月に一級小型船舶操縦士の免状の交付を受けたA受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、同16年5月26日00時01分鹿児島県藺牟田漁港を発し、同県下甑島周辺の漁場で、きびなご約400キログラムを漁獲したのち、水揚げのため、同県串木野港に向かった。
A受審人は、甲板員を船首甲板で漁獲物の選別作業に当たらせながら航行し、05時37分藺牟田港沖防波堤東灯台から112度(真方位、以下同じ。)2.30海里の地点に達したとき、針路を098.5度に定め、機関を全速力前進にかけ、22.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、秀丸が全速力で航行すると船首が浮上し、操舵室に横方向に設置した渡板に腰を掛けた姿勢では、正船首から左右両舷側約15度の範囲に水平線が見えなくなる死角を生じるので、平素は同板の上に立ち、同室の天井開口部から顔を出して見張りを行い、同死角を補っていた。
定針したとき、A受審人は、天井開口部から顔を出して前方を見たところ、他船を認めず、また、寒かったので、その後前示渡板に腰を掛けた姿勢で、目視による死角を補う見張りを行うことなく、1.5海里レンジとしたレーダーを見ながら進行した。
06時20分A受審人は、薩摩沖ノ島灯台から246度1.92海里の地点に達したとき、正船首方約1,350メートルのところに栄丸が存在し、その後漂泊中の同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、定針時に前方を見たとき他船を認めなかったことから、前路に他船はいないと思い、依然として目視による死角を補う見張りを十分に行わず、また、レーダーを十分に監視していなかったので、このことに気付かず、栄丸を避けることなく続航した。
06時22分わずか前、A受審人が、レーダーにより沖ノ島に接近したことを知って、天井開口部から顔を出して見張りをするため、立ち上がろうとしたところ、秀丸は、06時22分薩摩沖ノ島灯台から229度1.35海里の地点で、原針路、原速力のままその船首部が、栄丸の左舷中央部に後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、栄丸は、一本釣り漁業に従事し、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていないFRP製漁船で、平成12年6月に一級小型船舶操縦士の免状の交付を受けたB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.20メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同16年5月26日04時55分鹿児島県羽島漁港を発し、同漁港南西方の漁場に向かい、05時10分前示衝突地点のわずかに東南東方の地点で、船首から長さ10メートルの合成繊維索に係止したパラシュート型シーアンカーを投入し、風の影響によりわずかに西北西方に圧流されながら、右舷船尾部で船首方を向いて腰を下ろした姿勢で、操業を開始した。
06時20分B受審人は、船首が053.5度を向いて前示衝突地点付近に達したとき、左舷船尾45度約1,350メートルのところに、秀丸が存在し、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近していた。しかしながら、B受審人は、自船が漂泊しているので接近する他船が避航するものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、秀丸に気付かず、同船に対し避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、機関をかけて衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
06時21分半B受審人は、同方位約300メートルのところに秀丸を初めて認めたが、同船が遠距離にあるときに視認していなかったので状況がよく分からず、同船が避航するものと思って、同船から目を離して操業を続けていたところ、同時22分わずか前、ふと左舷方を見たとき、間近に迫った同船を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、秀丸は、船首部に擦過傷、推進器及び同軸に曲損などを生じ、栄丸は、左舷中央部及び右舷船首部を損壊して、のち廃船処分とされ、B受審人が全身打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、串木野港西方において、同港に向け航行中の秀丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の栄丸を避けなかったことによって発生したが、栄丸が、見張り不十分で、秀丸に対し避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、串木野港西方において、同港に向け航行する場合、船首浮上による死角を生じていたから、前路で漂泊中の栄丸を見落とさないよう、同死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、定針時、渡板の上に立って前方を見たところ、他船を認めなかったことから、前路に他船はいないと思い、同板に腰を掛けた姿勢のままで、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、栄丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷、推進器及び同軸に曲損などを生じ、栄丸の左舷中央部及び右舷船首部を損壊させ、B受審人に全身打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、串木野港西方において、操業のため漂泊する場合、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する秀丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船が漂泊しているので接近する他船が避航するものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、秀丸に気付かず、同船に対し避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。