日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第66号
件名

漁船第三海漁丸貨物船シャン リン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年10月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦、長谷川峯清、上田英夫)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第三海漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:シャンリン船長 

損害
第三海漁丸・・・右舷船首部及び球状船首を半壊、前部マスト及びロープリールを曲損
シャンリン・・・左舷中央部に軽微擦過傷

原因
第三海漁丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
シャンリン・・・警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三海漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るシャン リンの進路を避けなかったことによって発生したが、シャン リンが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月7日11時36分
 福岡県沖ノ島北東方沖合
 (北緯34度21.6分 東経130度17.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三海漁丸 貨物船シャンリン
総トン数 18トン  
国際総トン数   4,119トン
全長 21.30メートル 105.27メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 360キロワット 2,205キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三海漁丸
 第三海漁丸(以下「海漁丸」という。)は、平成元年4月に進水したFRP製漁船で、船体中央部に操舵室を有し、同室内には、中央部に操舵スタンドが有り、同スタンドの右舷側に機関遠隔操縦装置、左舷側にレーダー2台、右舷後方にGPSなどの計器類が装備されていた。同船は当初からいか一本釣り漁業に使用されていた。
 操舵スタンド後方にある海図台の頂部下には、長さ及び幅が、共に約80センチメートル、操舵室床からの高さが約70センチメートルのスライド式長椅子が組み込まれており、同椅子を海図台から引き出し、これに腰を掛けると、眼高は操舵室前面の窓の下枠とほぼ同じ高さとなり、少し伸び上がれば前方を見通すことができる構造になっていた。
イ シャン リン
 シャン リン(以下「シ号」という。)は、1981年3月に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で、大韓民国釜山港を基点として、神戸、京浜港川崎区、徳山下松、博多の各港を順に巡り、1週間で釜山港に戻るコンテナ貨物輸送に使用されていた。
 船橋の操舵室には、操舵スタンド、エンジンテレグラフ、レーダー2台及びGPSなどが装備されているほか、汽笛の作動スイッチが、操舵室前面中央部と両舷ウィングにそれぞれ設置されており、船橋前面から船首端までの距離は、約77メートルであった。
 同船の旋回性能表によれば、全速力前進中に舵中央から右舵一杯とする右旋回については、縦距275メートル、最大横距335メートル、定常旋回径290メートルであり、360度回頭に要する時間は5分20秒であった。

3 事実の経過
 海漁丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、休養のための帰港目的で、船首0.85メートル船尾2.20メートルの喫水をもって、平成15年11月7日08時30分特牛港を発し、千尋藻漁港に向かった。
 これより先、A受審人は、11月5日日没後から翌6日日出時にかけて、角島灯台から北西方約30海里沖合の漁場で、操業を行ったが漁獲が少なかったため、水揚げを行わずにそのまま同地点付近で、シーアンカーを使用して漂泊し、この間、約5時間の睡眠をとったのち、13時から操業準備にかかり、日没から翌7日04時まで操業を行い、05時同漁場を発進し、07時前特牛港に入港着岸して漁獲物の水揚げを行っていた。
 A受審人は、平素、船橋当直を、自ら単独で行い、10時間を超えて航行するときには、甲板員と交代することとしていた。そして、当日、目的地まで約8時間の航海であったことから、甲板員を船室で休息させ、目的地まで連続当直することとして発航した。
 A受審人は、出港操船に引き続き単独の船橋当直に就き、特牛港周辺で操業している小型漁船群を避けながら西行し、08時50分、角島灯台から180度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、同漁船群を過ぎたことから、針路を対馬西岸の長崎鼻に向く274度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、9.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室内を移動しながら見張りに当たり、自動操舵によって進行した。
 A受審人は、10時30分沖ノ島灯台から073度21.3海里の地点で、周囲に他船を見かけなくなったことから、操舵スタンド後方の海図台からスライド式の長椅子を引き出してこれに腰を掛け、3海里レンジとしたレーダーを見ながら進行した。
 11時00分A受審人は、沖ノ島灯台から067度16.9海里の地点に差し掛かったとき、腰を掛けたまま右舷方を向いて左舷側の壁に背を寄せ、両足を長椅子の上に乗せた姿勢で、レーダーによる見張りを続けていたところ、海上平穏で天気もよく、ほぼ1箇月振りの帰港となる安心感から、眠気を催すようになったが、風下側となる左舷側の扉と窓を開けて外気を入れるようにしていたので、まさか居眠りをすることはあるまいと思い、船室で休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、同じ姿勢で続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、11時28分沖ノ島灯台から058度12.8海里の地点に達したとき、右舷船首18度2.4海里のところに、シ号を視認でき、その後、同船が、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況であったが、居眠りをしていてこのことに気付かず、同船の進路を避けずに進行した。
 11時34分半A受審人は、シ号の方位が変わらないまま700メートルに接近したが、依然、居眠りをしていて、同号の進路を避けずに続航中、11時36分沖ノ島灯台から054度11.8海里の地点において、海漁丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部がシ号の左舷中央部に後方から70の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 また、シ号は、中華人民共和国国籍のB指定海難関係人ほか同国籍の22人が乗り組み、コンテナ貨物92個1,350トンを積載し、船首5.1メートル船尾5.4メートルの喫水をもって、11月7日03時25分釜山港を発し、関門海峡を経由する予定で神戸港に向かった。
 ところで、B指定海難関係人は、船橋当直体制を、00時から04時までと12時から16時までを二等航海士に、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士に、08時から12時までと20時から24時までを三等航海士にそれぞれ受け持たせ、各直に甲板部員1人を配する2人一組の4時間3直制とし、入出港時、狭水道通航時、視界制限時のほか必要に応じて自ら昇橋し、操船指揮を執っていた。
 11時00分当直中の三等航海士は、沖ノ島灯台から025度11.7海里の地点で、針路を128度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.9ノットの速力で進行した。
 B指定海難関係人は、11時10分沖ノ島灯台から033度11.5海里の地点で、三等航海士に昼食を摂らせるために昇橋し、同航海士と交代して操船に当たり、同時20分同航海士が食事を終えて再び昇橋してきたあとも引き続き操船指揮を執り、自動操舵によって続航した。
 11時28分B指定海難関係人は、沖ノ島灯台から044度11.5海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首16度2.4海里に、前路を右方に横切る態勢で西行する海漁丸を初めて視認し、動静監視を行っていたところ、同時30分沖ノ島灯台から050度11.6海里の地点に達したとき、同船が、方位が変わらないまま1.8海里となり、衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり、甲板部員を手動操舵に当たらせたものの、小型漁船が間近になってから避けていくことを何度も経験していたことから、接近すれば同船が自船を避けるものと思い、警告信号を行わず、その後も同船に避航の気配がなく、方位が変わらないまま接近したが、速やかに機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに、同じ針路及び速力で進行した。
 11時34分半B指定海難関係人は、依然、海漁丸の方位が変わらないまま700メートルに迫ったとき、衝突の危険を感じて右舵一杯としたが、及ばず、シ号は、船首が204度を向き、8.0ノットの速力になったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海漁丸は、右舷船首部及び球状船首を半壊並びに前部マスト及びロープリールを曲損し、シ号は、左舷中央部に軽微な凹損を伴う擦過傷を生じたが、のちそれぞれ修理された。

(本件発生に至る事由)
1 海漁丸
(1)A受審人が、居眠り運航を防止する措置をとらなかったこと
(2)A受審人が、居眠りに陥ったこと
(3)A受審人が、シ号の進路を避けなかったこと
2 シ号
(1)B指定海難関係人が、接近すれば小型漁船が自船を避けるだろうと思ったこと
(2)B指定海難関係人が、海漁丸に対して、警告信号を行わなかったこと
(3)B指定海難関係人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は、西行中の海漁丸と南東進中のシ号とが、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近して発生したものであり、海漁丸は、海上衝突予防法第15条により、避航船の立場となり、前路を左方に横切るシ号の進路を避けるべきところ、居眠り運航の防止措置をとらなかったため、居眠りに陥り、衝突するまで同船に気付かないまま進行した。一方、保持船の立場となるシ号は、方位の変化のないまま接近する海漁丸に対し、警告信号を行い、さらに間近に接近して同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたとき、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。
 したがって、A受審人が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと、居眠りに陥ったこと及び前路を左方に横切るシ号の進路を避けなかったこと並びにB指定海難関係人が、警告信号を行わなかったこと、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が、接近すれば小型漁船が自船を避けるだろうと思ったことは、本件発生に至る過程で関与した事実で、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、このことは、衝突回避の協力動作をとる時機を遅らせることを誘発しかねず、避航船の立場にある相手船において避航の様子が見られないとき、自船の操縦性能を考慮して適当な時機に衝突を避けるための協力動作をとる意識が肝要であり、海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は、福岡県沖ノ島北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近した際、西行中の海漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るシ号の進路を避けなかったことによって発生したが、南東進中のシ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
1 懲戒
 A受審人は、福岡県沖ノ島北東方沖合において、千尋藻漁港に向けて西行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りをすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するシ号に気付かず、同船の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、海漁丸の右舷船首部及び球状船首を半壊並びに前部マスト及びロープリールを曲損し、シ号の左舷中央部に軽微な凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
 B指定海難関係人が、福岡県沖ノ島北東方沖合において、神戸港に向け関門海峡を経由する予定で南東進中、海漁丸が、前路を右方に横切り衝突のおそれがあった際、警告信号を行わず、さらに間近に接近したとき、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:12KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION