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平成16年広審第50号
件名

漁船戎丸貨物船シンビロ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年10月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均、米原健一、佐野映一)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:戎丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
 戎 丸・・・船首部外板に亀裂
シンビロ・・・右舷船首部外板に擦過傷など

原因
シンビロ・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
戎 丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、シンビロが、見張り不十分で、前路を左方に横切る戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが、戎丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月6日07時12分
 伊予灘
 (北緯33度44.2分 東経132度16.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船戎丸 貨物船シンビロ
総トン数 8.74トン 1,272トン
全長 14.05メートル 68.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,176キロワット
漁船法馬力数 110  
(2)設備及び性能等
ア 戎丸
 戎丸は、昭和52年2月に進水し、船体中央部に操舵室を備えた木製漁船で、レーダー、GPSプロッタ及びモーターホーンなどを装備し、旋回径が船の長さの3ないし4倍の長さで、最短停止距離が約50メートル、停止時間が約2分の操縦性能を有していた。
イ シンビロ
 シンビロは、1980年日本で建造された鋼製貨物船で、GPSプロッタを装備し、2台設備していたレーダーのうち1台は故障中であった。

3 事実の経過
 戎丸は、A受審人が1人で乗り組み、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、ふぐはえ縄漁の目的で、平成16年3月4日05時00分山口県粭(すくも)大島漁港を発し、伊予灘に至り、同日及び翌5日の日中は平郡島付近の漁場で操業し、夜間は近くの島陰で錨泊し、翌々6日05時00分同島西部北岸の錨地を発進し、同島南方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、所定の灯火を表示し、掛津島の南方を通過して盛埼沖合に至り、06時20分平郡沖ノ瀬灯標(以下「沖ノ瀬灯標」という。)から056度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点において、針路を199度に定め、折から西風が強かったうえ、降雪で前方が見にくかったので、機関を微速力前進にかけ、左方に11度圧流されながら、3.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、遠隔操舵装置を手動で操作して進行した。
 A受審人は、荒天で操業の中止を考えながら南下していたところ、07時07分少し過ぎ沖ノ瀬灯標から141度1.8海里の地点に達し、視程が1海里に回復していたとき、左舷正横後14度1,000メートルのところに、西航中のシンビロ(以下「シ号」という。)を視認することができ、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、操業中止を判断するため、右方からの高波の打ち込み状況に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないで続航した。
 A受審人は、シ号に対して警告信号を行わず、同船が間近に接近しても、右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行し、07時12分わずか前何気なく左方を見たとき、左舷船首至近のところに、シ号の船首部を初めて視認し、衝突の危険を感じて右舵一杯とし、機関を停止したが及ばず、07時12分沖ノ瀬灯標から146度2.0海里の地点において、戎丸は、ほぼ原針路原速力のまま、その船首部が、シ号の右舷船首部に、後方から52度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力7の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視程は1海里であった。
 また、シ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長Bほか大韓民国人船員など8人が乗り組み、鋼材1,687.47トンを積載し、船首4.25メートル船尾5.20メートルの喫水をもって、同月5日21時20分広島県福山港を発し、大韓民国巨済港に向かった。
 B船長は、単独の船橋当直を、0時から4時までを三等航海士に、4時から8時までを一等航海士にそれぞれ委ね、8時から12時までを自らが受け持つこととしており、視界制限時などには昇橋して操船の指揮をとっていた。
 翌6日06時55分B船長は、降雪があったことから昇橋し、食事交替のため一等航海士を降橋させて1人で操船に当たり、07時00分沖ノ瀬灯標から115度2.7海里の地点において、針路を伊予灘の推薦航路線に沿う251度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの西風を受けて7.4ノットの速力となり、所定の灯火を表示し、1.5海里レンジとしたレーダーを見ながら自動操舵により進行した。
 07時07分少し過ぎB船長は、沖ノ瀬灯標から130度2.2海里の地点に達し、視程が1海里に回復していたとき、右舷船首24度1,000メートルのところに、南下中の戎丸を視認することができ、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、周囲の見張りを十分に行わず、このことに気付かないで続航した。
 B船長は、戎丸の存在に気付かなかったので、右転するなど同船の進路を避けずに進行し、シ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B船長は、衝突の衝撃を感じなかったことから、そのまま航行を続け、16時20分部埼沖合で荒天避泊したとき、巡視艇に衝突の事実を知らされ、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、戎丸は、船首部外板に亀裂を伴う損傷などを生じたが、のち修理され、シ号は、右舷船首部外板に擦過傷などを生じた。

(本件発生に至る事由)
1 戎丸
(1)A受審人が、周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が、警告信号を行わなかったこと
(3)A受審人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 シ号
(1)B船長が、見張りを十分に行わなかったこと
(2)B船長が、前路を左方に横切る戎丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 事実認定のとおり、シ号は、伊予灘の推薦航路線に沿って西航中であり、一方、戎丸は、漁場に向け南下中であった。
 海上衝突予防法第15条により、シ号は、戎丸を右舷側に見ることができる状況であったから、避航船であり、右転するなど戎丸の進路を避けなければならなかった。シ号が、見張りを十分に行っていれば、右舷船首方に前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する戎丸を視認することができ、右転するなど同船の進路を避けることが可能であり、これを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 一方、戎丸は、シ号を左舷側に見ることができる状況であったから、保持船であり、警告信号を行い、かつ、シ号と間近に接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認める場合は、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。戎丸が、見張りを十分に行っていれば、左舷方に前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するシ号を視認することができ、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることも可能であり、これを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、シ号のB船長が、見張りを十分に行わなかったこと及び前路を左方に横切る戎丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 また、戎丸のA受審人が、周囲の見張りを十分に行わなかったこと、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、伊予灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西航するシ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する戎丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、伊予灘において、1人で操舵と見張りに当たり、漁場に向け南下する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業中止を判断するため、右方からの高波の打ち込み状況に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するシ号に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して衝突を招き、戎丸の船首部外板に亀裂を伴う損傷などを、シ号の右舷船首部外板に擦過傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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