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平成16年神審第64号
件名

貨物船十一 八洲丸漁船神龍衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年10月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一、中井 勤、平野研一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:十一八洲丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:十一八洲丸機関長
C 職名:神龍船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
十一八洲丸・・・右舷船首部に擦過傷
神 龍・・・右舷船首部ローラー台及び右舷船尾部外板に破損

原因
十一八洲丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
神 龍・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、十一 八洲丸が、見張り不十分で、前路で漂泊している神龍を避けなかったことによって発生したが、神龍が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月3日09時20分
 和歌山県日ノ御埼北西方沖合
 (北緯33度55.8分 東経134度57.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船十一八洲丸 漁船神龍
総トン数 198トン 4.7トン
全長 49.58メートル 13.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 242キロワット
(2)設備及び性能等
ア 十一 八洲丸
 十一八洲丸(以下「八洲丸」という。)は、平成2年2月に進水した凹甲板・船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、船橋中央にジャイロコンパス及び舵輪、その右舷側に機関操縦コンソール及び左舷側にレーダー2台が並び、前壁左舷側上部には、GPSの表示器が、船橋後部には、居住甲板に通じる階段口を挟んで右舷側に海図台、左舷側にソファーが設置され、両舷には、ウイングに出るドアがそれぞれ配置されていた。
 操舵装置は、電動油圧式で自動操舵とすることが可能であった。
 操船位置は、海面からの眼高が約5メートルとなり、船橋前面から船首端までは約37メートルであった。
イ 神龍
 神龍は、昭和62年10月に進水し、船体中央やや後方に操舵室を有し、敷網漁業に従事するFRP製漁船で、船体外板は白く、また操舵室前部には門型のマスト、操舵室天井にはマスト、船尾端には、三角帆を展帆できるマストが設置されていた。
 操舵及び機関の操縦は、操舵室のほか、キャブタイヤコード付きの遠隔操縦装置により船首部においても可能であった。
 航海計器は、GPSプロッタ及び魚群探知機が装備されていた。
 揚縄機は、船首部右舷側に設置され、揚縄作業位置は、海面からの眼高が2.2メートルとなり、同位置からの見通しはよく、視界を遮る構造物はなかった。

3 事実の経過
 八洲丸は、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、液体塩化カルシウム323立方メートルを積載し、船首2.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成16年2月2日12時30分山口県宇部港を発し、鳴門海峡を経由して京浜港川崎区に向かった。
 A受審人は、船橋当直を3人による、単独3時間交替の3直輪番制と決め、03時から06時までを船長、06時から09時までを一等航海士、09時から12時までを無資格のB指定海難関係人に割り当て、出入港操船を自ら行っていたが、狭水道等の通航は、当直者に行わせ、視界が悪くなればA受審人を起こすよう指示していた。
 A受審人は、翌3日06時00分播磨灘南部において、船橋当直を一等航海士に引き継ぐ際、09時から漁船の多い紀伊水道を単独で当直にあたる無資格のB指定海難関係人に対して、これまでも同人に船橋当直を単独で行わせてきたので改めて指示をするまでもないと思い、同人が当直中、厳重な見張りを励行し、他船が接近するときは報告するよう一等航海士に申し送る指示をすることなく、同航海士に当直を任せて降橋した。
 07時00分一等航海士は、鳴門大橋を通過し、09時00分B指定海難関係人は、紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)から306度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点に達したとき、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、単独で立って当直にあたり、針路を日ノ御埼の2海里沖に向ける138度に定め、機関を全速力前進にかけ10.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 B指定海難関係人は、09時15分日ノ御埼灯台から301度6.9海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,620メートルのところに、船首を328度に向けて漂泊する神龍が視認でき、その後、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、周囲を一瞥しただけで支障となる船舶はいないものと思い、操舵室左舷側のソファーに移動してみかんを食べながら下を向き、前路の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、同じ針路、速力で続航した。
 こうして、八洲丸は、A受審人が自ら操船指揮を執れず、転舵するなど神龍を避けないまま進行中、09時20分少し前B指定海難関係人が右舷船首至近に同船を初めて認め、左舵一杯を取り、機関を全速力後進にかけたが及ばず、09時20分日ノ御埼灯台から299度6.0海里の地点において、同じ針路、速力で、その右舷船首部が神龍の右舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、神龍は、C受審人が1人で乗り組み、漁ろう中の形象物を持たず、甘鯛延縄漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日07時10分徳島県伊島漁港を発し、08時10分日ノ御埼北西方6海里付近の漁場に至り、延縄敷設の準備を開始した。
 神龍の操業方法は、全長約600メートル、直径1.5ミリメートルのナイロン製幹縄に、約6メートル間隔で釣り針を仕掛けた枝縄を取り付け、この幹縄を海底に敷設するもので、揚縄時には、脇に置いた遠隔操縦装置により、機関を回転数毎分500にかけて中立運転とし、ほとんど停止した状態で揚縄機を用いて幹縄を巻き込み、漂泊して巻き揚げるものであった。
 C受審人は、200メートルの間隔を置いて2組の幹縄を並列に敷設し終えたのち、09時08分衝突地点付近において、船首を328度に向けて機関を中立とし、漂泊しながら食事をしていたとき、鳴門方面から接近する八洲丸を初めて認めたが気に留めず、その後、揚縄の準備にかかり、09時10分船首部で縄の状態を見ながら巻込みを開始した。
 09時15分C受審人は、衝突地点において、左舷船首10度1,620メートルに八洲丸を視認でき、その後、同船が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、接近する他船が漂泊している自船を避けてくれるものと思い、八洲丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付くことなく、警告信号を行わず、間近に接近しても機関及び舵を使用するなどして衝突を避ける措置をとることなく漂泊して揚縄中、328度に向首したまま、神龍は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、八洲丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、神龍は右舷船首部ローラー台及び右舷船尾部外板が破損した。

(本件発生に至る事由)
1 八洲丸
(1)A受審人が船橋当直を一等航海士に引き継ぐ際、B指定海難関係人が船橋当直中の厳重な見張りを励行して他船が接近するようなときには報告するよう一等航海士に申し送る指示をしなかったこと
(2)B指定海難関係人が前路の見張りを行わなかったこと
(3)神龍に接近した際、船長にその旨報告がされず、A受審人が操船指揮を執れず、神龍を避けなかったこと
2 神龍
(1)C受審人が八洲丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)C受審人が警告信号を行わなかったこと
(3)C受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
1 A受審人は、無資格者であるB指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせる場合、必要に応じてA受審人が操船指揮を執れるよう、船橋当直中、B指定海難関係人が厳重な見張りを励行して他船が接近するようなときには船長に報告するよう指示していれば、余裕のある時期に神龍の存在がA受審人に報告され、同人が、昇橋して操船指揮を執ることができた。
 また、船橋当直の順番からA受審人が、直接、B指定海難関係人に前述した指示ができなかったのであるから、一等航海士に当直を引き継ぐ際、一等航海士にその指示をB指定海難関係人に申し送るよう指示する必要があった。
 したがって、A受審人が船橋当直を一等航海士に引き継ぐ際、船橋当直中、B指定海難関係人が、厳重な見張りを励行して他船が接近するようなときには、船長に報告するよう一等航海士に申し送る指示をしなかったこと、B指定海難関係人が前路の見張りを行わなかったこと、神龍に接近した際、船長にその旨報告がされず、A受審人が操船指揮を執れず、神龍を避けなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
2 神龍は、揚縄作業をしながら漂泊していたのであるが、衝突の12分前鳴門方面から接近する八洲丸を認めたのだから、その後、同船に対する動静監視をしていれば、警告信号も衝突を避けるための措置もとり得たものと認められる。
 したがって、C受審人が、八洲丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと、警告信号を行うとともに、機関及び舵を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、和歌山県日ノ御埼北西方沖合において、南東進中の八洲丸が、見張り不十分で、前路で漂泊している神龍を避けなかったことによって発生したが、神龍が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、機関及び舵を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 八洲丸の運航が適切でなかったのは、船長が次直者に対して、単独で船橋当直にあたる無資格者への厳重な見張り励行及び接近する他船についての報告をするよう申し送る指示をしなかったことと、無資格の当直者が船首方の見張りを行わず、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
1 懲戒
 A受審人は、和歌山県日ノ御埼北西方沖合を南東進中、直接指示ができない無資格者が単独で船橋当直を行うことがわかっている状況で、次直者と船橋当直を交替する場合、前路で漂泊する神龍を見落とさないよう、厳重な見張りの励行及び接近する他船についての報告をするよう次直者に申し送る指示をすべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでも船橋当直を単独で行わせてきたので改めて指示するまでもないと思い、厳重な見張りの励行及び接近する他船についての報告をするよう申し送る指示をしなかった職務上の過失により、前路で漂泊する神龍の報告を受けられず、自ら操船指揮を執ることなく、漂泊中の同船に気付かず、同船を避けずに進行して同船との衝突を招き、八洲丸の右舷船首部に擦過傷を、神龍の右舷船首部ローラー台及び右舷船尾部外板に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、和歌山県日ノ御埼北西方沖合において、漂泊中、接近する八洲丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船が漂泊している自船を避けるものと思い、揚縄作業に気を取られたまま、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、八洲丸が衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行うことも、機関及び舵を使用するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま、漂泊を続け、同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直にあたり和歌山県日ノ御埼北西方沖合を南東進中、見張り不十分で、操舵室左舷側のソファーに座りみかんを食べて下を向いていたので、前路で漂泊する神龍に気付かず、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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