(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月12日18時50分
三重県鳥羽港
(北緯34度29.4分 東経136度51.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船まるき丸 |
漁船白石丸 |
総トン数 |
4.8トン |
1.02トン |
全長 |
14.70メートル |
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登録長 |
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6.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
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漁船法馬力数 |
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14 |
(2)設備及び性能等
ア まるき丸
まるき丸は、昭和58年に進水したFRP製漁船で、船体中央やや後方に操舵室を備え、同室前部中央に舵輪が設置され、自動操舵装置はなかった。平成10年に小型遊漁兼用船として登録され、航海速力は約17ノットであった。
イ 白石丸
白石丸は、昭和56年に進水したFRP製漁船で、船体後部に操舵室を備え、同室前方のマストの頂部に白色全周灯及びその下方に両色灯が設置され、汽笛は備えておらず、有効な音響による信号手段として呼笛を備えていた。機関の遠隔操縦装置が操舵室後部外壁に設置されていて船尾甲板上で機関操作ができ、航海速力は約13ノットであった。
3 事実の経過
まるき丸は、A受審人が1人で乗り組み、たい及びすずきの一本釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年5月12日09時00分三重県鳥羽港を発し、同港の北東方4海里ばかりの大築海島(おおずきうみしま)沿岸の漁場に至って漁を行ったのち、18時ごろ帰途に就いた。
ところで鳥羽港は、伊勢湾南西部に位置する東北東方に開いた港で、東方から港内に向かう船舶は、港域のほぼ中央部に存在する坂手島、同島東方の菅島、及び菅島と相対してその北方に位置する答志島とに囲まれた長さ3海里、幅1海里ばかりの水路を進行することとなった。そして、菅島水道と呼称される同水路入口部からの針路目標として鳥羽港背後地に鳥羽導灯が設置されていて、同導灯の前灯と後灯を一線に見る243.6度(真方位、以下同じ。)の方位線が海図に記載されており、同方位線による針路が、菅島水道付近の浅所や各島沿岸に設置されるのり養殖網に接近することを避ける目的で入航各船に利用されていた。
A受審人は、帰航の途中、答志漁港に寄せて漁獲物を水揚げし、18時20分同漁港を出港して所定の灯火を表示し、18時37分菅島水道の菅島港北防波堤灯台から018度1,350メートルの地点で、針路をほぼ鳥羽導灯に向く243度に定め、機関を半速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で、操舵室中央に立って手動操舵により進行した。
18時47分少し過ぎA受審人は、視界は良好であったものの、日没直後の薄明時で海面に少しもやがかかり、前方0.9海里ばかりの陸岸には鳥羽市街の明かりが多数点灯して広がっているのを認め、前路の他船を識別するには操舵姿勢や船首方向を少し変化させ視線の高さや方向を変えるなど相当な注意を必要とする状況下、鳥羽港港域に入り、18時49分少し前鳥羽港東防波堤灯台から088度960メートルの地点に達したとき、正船首500メートルのところに、白色全周灯を表示して漂泊中の白石丸を視認でき、その後同船に接近して衝突のおそれがあったが、それまで夕刻、同針路での帰航時、進路付近に漁船や釣り船をほとんど見掛けたことがなかったことから、支障になる他船はいないものと思い、視線の高さや方向を変えるなどして、前路の見張りを十分に行わなかったので、白石丸に気付かず、同船を避けないまま続航中、18時50分わずか前左舷船首至近に白石丸を認め、急ぎ機関を中立にしたが効なく、18時50分鳥羽港東防波堤灯台から110度550メートルの地点において、まるき丸は、原針路、原速力のまま、その船首が白石丸の右舷船首部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日没は18時46分であった。
また、白石丸は、B受審人が1人で乗り組み、めばる釣りの目的で、船首0.25メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日18時00分三重県坂手漁港を発し、18時10分ごろ坂手島の北西方に至り、機関を中立にして漂泊を始め、両色灯は点灯せず白色全周灯のみを表示し、左舷船尾甲板で椅子に腰掛けて釣りにかかった。
B受審人は、その後適宜機関を使用してほぼ前示衝突地点で漂泊し釣りを続け、18時49分少し前333度に向首していたとき、右舷正横500メートルのところに、自船に近づく態勢のまるき丸を初認し、その後同船が衝突のおそれのある態勢で避航動作をとらないまま接近していたが、航行中のまるき丸が漂泊中の自船を避けるものと思い、まるき丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、呼笛を吹くなど有効な音響による避航を促す信号を行うことも機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもせずに漂泊中、18時50分少し前至近に迫るまるき丸を認め、危険を感じて機関を後進にかけたが効なく、白石丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、まるき丸は、船首部に軽微な凹損を生じたが、のち修理され、白石丸は右舷船首部を大破し、のち廃船となった。またB受審人は、右手首に打撲傷を負い海中に投げ出されたが、まるき丸に救助された。
(本件発生に至る事由)
1 まるき丸
(1)まるき丸が鳥羽港港域に入ったとき、日没直後の薄明時で海面に少しもやがかかり、前方の陸岸には鳥羽市街の明かりが多数点灯して広がり、前路の他船を識別するには相当な注意を必要とする状況であったこと
(2)A受審人がそれまで夕刻、同針路での帰航時、進路付近に漁船や釣り船をほとんど見掛けたことがなかったこと
(3)A受審人が見張りを十分に行わなかったこと
2 白石丸
(1)白石丸が両色灯を表示せず白色全周灯のみを表示して漂泊していたこと
(2)白石丸が鳥羽導灯を目標とする入航船の常用針路線上で漂泊していたこと
(3)B受審人が動静監視を十分に行わなかったこと
(原因の考察)
本件衝突は、A受審人が見張りを十分に行わなかったこと、及びB受審人が動静監視を十分に行わなかったこととによって生じたもので、このことは事実の経過において記述したとおりであり、いずれも本件発生の原因となる。
まるき丸が鳥羽港港域に入ったとき、前路の他船を識別するには相当な注意を必要とする状況であったこと、A受審人がそれまで夕刻、同針路での帰航時、進路付近に漁船や釣り船をほとんど見掛けたことがなかったこと、白石丸が、両色灯を表示せず白色全周灯のみを表示していたこと及び鳥羽導灯を目標とする入航船の常用針路線上で漂泊していたことは、いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは、海難防止の観点から考慮されるべき事由である。
また、漂泊中の白石丸は、海上衝突予防法において航行中の動力船であるから、日没後に漂泊する場合は両色灯も表示しなければならない。
(海難の原因)
本件衝突は、日没直後の薄明時、三重県鳥羽港において、帰航中のまるき丸が、見張り不十分で、前路で漂泊している白石丸を避けなかったことによって発生したが、白石丸が、動静監視不十分で、有効な音響による避航を促す信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日没直後の薄明時、海面に少しもやがかかり、前方陸岸には市街地の明かりが多数点灯して広がっている状況下、三重県鳥羽港港域を帰航する場合、前路で漂泊している白石丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで夕刻、同針路での帰航時、進路付近にほとんど他船を見掛けたことがなかったことから、支障になる他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、白石丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、まるき丸の船首部に凹損を生じさせ白石丸の右舷船首部を大破し、B受審人の右手首に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、三重県鳥羽港において、釣りをして漂泊中、自船に近づく態勢のまるき丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがないか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中のまるき丸が漂泊中の自船を避けるものと思い、まるき丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれのある態勢で避航動作をとらないまま接近することに気付かず、有効な音響による避航を促す信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもせずに衝突を招き、両船及び自身にそれぞれ前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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