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平成16年横審第38号
件名

貨物船第二十一大盛丸遊漁船第五新栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年10月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史、竹内伸二、浜本 宏)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第二十一大盛丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第二十一大盛丸機関長
C 職名:第五新栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二十一大盛丸・・・左舷船首部外板に擦過傷
第五新栄丸・・・船尾マスト及び右舷船尾外板等を損壊、船長が3箇月間の通院加療を要する頸椎捻挫の負傷

原因
第二十一大盛丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第五新栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二十一大盛丸が、見張り不十分で、漂泊中の第五新栄丸を避けなかったことによって発生したが、第五新栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月20日10時00分
 千葉県野島埼東方沖合
 (北緯34度58.1分 東経140度05.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第二十一大盛丸 遊漁船第五新栄丸
総トン数 499トン 9.73トン
全長 76.90メートル  
登録長   11.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 235キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第二十一大盛丸
 第二十一大盛丸(以下「大盛丸」という。)は、平成4年9月に進水した、限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型貨物船で、バウスラスタを有し、船橋楼前端が船首端から約61メートルのところにあり、船橋楼前方に貨物倉が設けられていた。
 航海船橋甲板は、満載喫水線からの高さが7.0メートルで、同甲板上に船首尾方向の長さ5.0メートル及び幅8.0メートルの操舵室が配置されており、同室内の前面中央にジャイロ組込型操舵スタンド、同スタンドの左舷側に主機用テレグラフ発信器及びレーダー2台、同スタンドの右舷側にバウスラスタ操作装置、主機遠隔操縦装置及びGPSプロッター、また左舷側後部に海図台がそれぞれ備えられ、同室両舷がウイングと称する暴露甲板となっていた。
 大盛丸は、海上試運転成績書によれば、最大速力が主機回転数毎分230において10.92ノット、舵角35度における定常旋回径は左右の旋回とも100メートル、最短停止時間1分43秒であった。
イ 第五新栄丸
 第五新栄丸(以下「新栄丸」という。)は、昭和55年に進水した一層甲板型FRP製小型遊漁兼用船で、船体ほぼ中央に操舵室が配置され、同室中央部に舵輪、その前面にGPSプロッターと魚群探知機が並び、同探知機の右方の壁際に機関操縦レバー、舵輪後方に長いすが右舷側から左舷側に亘って設置されており、また信号装置としてモーターホーンが備えられ、天井に同装置のスイッチが取り付けられていたが、レーダーの装備はなかった。
 操舵室より50センチメートルほど屋根が低い同室後方のキャビンは、甲板からの高さが1.5メートルで、その屋根上に高さ2.5メートルの船尾マストが設けられ、上辺1.5メートル下辺2.5メートル高さ2.0メートルの台形状の緑色スパンカー2枚が掲げられるようになっていて、長いすの右舷側に腰をかけた姿勢から操舵室後部のガラス窓を通して船尾方を見ると、風浪で船体に多少左右の振れがあっても、スパンカーにより船尾方の見通しに死角を生じることがあるものの、操舵室から出て見張りを行えば、死角を補うことができた。

3 事実の経過
 大盛丸は、A受審人及びB指定海難関係人のほか2人が乗り組み、銅板1,500トンを載せ、船首3.3メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成14年9月18日14時40分大分県佐賀関港を発し、四国南方沖経由で、茨城県日立港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を自らを含め、一等航海士、一等機関士及びB指定海難関係人の4人による単独の3時間交替制と決め、同指定海難関係人に船橋当直を行わせることとしたが、単独の同当直経験が豊富であることから見張りについて細かく注意するまでもないと思い、同指定海難関係人に対し、同当直中は常時見張りを行うよう指示することなく発航した。
 B指定海難関係人は、翌々20日08時45分千葉県野島埼南方沖合で昇橋し、一等航海士と交替して船橋当直に就き、08時58分半野島埼灯台から150度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、針路を058度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 09時50分B指定海難関係人は、和田港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から153度5.5海里の地点に至ったとき、付近に他船を見掛けなかったことから、休暇で下船していた前航海の運航模様を確かめようとして海図台に赴き、船尾方を向いた姿勢で航海日誌を見て出入港地、積荷の種類や待機時間などの確認を始め、前方の見張りを十分に行わないまま続航した。
 09時55分B指定海難関係人は、南防波堤灯台から144度5.5海里の地点に達したとき、正船首1,620メートルのところに、自船に船尾を向け、船尾マストにスパンカーを掲げた新栄丸を視認することができ、その後、漂泊中の同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然として前方の見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かず、同船を避けることなく進行した。
 10時00分少し前、B指定海難関係人は、前示の確認を終えて前方を見たところ、船首至近に新栄丸を初めて視認して驚き、機関を中立に操作して右舵一杯としたが効なく、10時00分南防波堤灯台から135度5.6海里の地点において、大盛丸は、原針路、原速力のまま、その船首が新栄丸の右舷船尾部に後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、付近には微弱な西流があった。
 A受審人は、自室で仮眠中、B指定海難関係人から漁船と衝突した旨の報告を受け、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
 また、新栄丸は、C受審人が1人で乗り組み、遊漁客2人を乗せ、むつ釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日04時30分千葉県江見漁港を発し、同漁港南方沖合の釣り場の手前で餌(えさ)用のさばを釣った後、目的地の釣り場に向かった。
 C受審人は、07時10分前示衝突地点付近の釣り場に至って機関を中立とし、スパンカー2枚を船尾マストを中心に船尾方に少し開いてV字状に張り、折からの北東風に船首を向けて漂泊した後、救命胴衣を着用した遊漁客に水深250メートルばかりのところで釣りを始めさせ、自身は機関操縦レバーをいつでも操作できるよう長いすの右舷側に腰をかけ、同側の窓から顔を出して右舷船首部と同船尾部とに分かれて右方に釣り竿を出した遊漁客を見守り、ほとんど船体に左右の振れがなく、操舵位置からスパンカーにより正船尾から左舷船尾方にかけて約20度の範囲に死角が生じる状況下で漂泊を続けた。
 08時40分ごろC受審人は、潮昇りを行った後再び漂泊し、09時55分前示衝突地点で船首が048度に向いていたとき、スパンカーで死角となった左舷船尾10度1,620メートルのところに、自船に向首した大盛丸が存在し、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、遊漁客の釣り糸の動きに気を取られ、操舵室から出るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かず、備付けのモーターホーンを使って警告信号を行わず、更に間近に接近したとき機関を使用して衝突を避けるための措置もとらなかった。
 10時00分わずか前C受審人は、船尾部の遊漁客が大声を上げて船首方に走り出したとき、スパンカーの上辺越しに大盛丸の船首部を初めて視認して驚き、機関操縦レバーを前進に操作して左舵一杯としたが効なく、新栄丸は、048度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大盛丸は、左舷船首部外板に擦過傷を生じ、新栄丸は、船尾マスト及び右舷船尾外板等を損壊したが、のち修理され、C受審人が3箇月間の通院加療を要する頸椎捻挫を負うに至った。

(本件発生に至る事由)
1 大盛丸
(1)A受審人が、B指定海難関係人に対し、見張りについて指示しなかったこと
(2)B指定海難関係人が、見張りを十分に行わなかったこと
(3)B指定海難関係人が、新栄丸を避けなかったこと
2 新栄丸
(1)C受審人が、スパンカーを掲げたことにより、船尾方に死角を生じて大盛丸を視認しにくい状況があったこと
(2)C受審人が、死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(3)C受審人が、警告信号を行わなかったこと
(4)C受審人が、衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
1 大盛丸が、見張りを厳重に行っていたなら、新栄丸を早期に視認することができ、同船がスパンカーを掲げて漂泊中の船舶であることが分かり、余裕をもって同船を避けることができたと認められるから、B指定海難関係人が、前方の見張りを十分に行わなかったこと及び新栄丸を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が、甲種甲板部航海当直部員の認定を受けていたものの、船橋当直者の遵守すべき最も基本的な事項というべき見張りを行わなかったことにより、前路で漂泊中の新栄丸を避けることができなかったという事実から、A受審人が、同指定海難関係人に対し、見張りについて指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
2 新栄丸は、スパンカーにより船尾方に死角があったものの、死角を補う見張りは可能であり、これを行っていたなら、自船に向かって接近する大盛丸を早期に視認することができ、同船が衝突のおそれがある態勢で接近したのであるから、警告信号を行い、更に間近に接近したとき機関を使用して移動することにより、本件は発生していなかったと認められるから、C受審人が、死角を補う見張りを十分に行わなかったこと、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 C受審人が、スパンカーを掲げたことにより、船尾方に死角を生じて大盛丸を視認しにくい状況があったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、操舵室のいすに腰掛けたままでは船尾方から接近する大盛丸を視認することができなかったものの、いすから下りて操舵室から出るなどして見張りを行えば、死角を解消することは可能であり、これを怠ったために生じた状況であるから、本件発生の原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は、千葉県野島埼東方沖合において、航行中の大盛丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の新栄丸を避けなかったことによって発生したが、新栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 大盛丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対して、見張りについて指示しなかったことと、同当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は、大分県佐賀関港を出航後、B指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせる場合、同当直中は常時見張りを行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人が単独の同当直経験が豊富であることから見張りについて細かく注意するまでもないと思い、同当直中は常時見張りを行うよう指示しなかった職務上の過失により、同指定海難関係人の見張り不十分で、漂泊中の新栄丸との衝突を招き、大盛丸の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、新栄丸の船尾マスト及び右舷船尾外板等を損壊させるとともに、C受審人に頸椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、千葉県野島埼東方沖合において、釣りのため漂泊する場合、スパンカーにより船尾方に死角を生じていたから、自船に向かって接近する大盛丸を見落とすことのないよう、操舵室から出るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、遊漁客の釣り糸の動きに気を取られ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大盛丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧告
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に就き、千葉県野島埼東方沖合を航行する際、前方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、見張りの重要性を再認識し、船橋当直中は常時見張りを行うように努めなければならない。
 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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