(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月6日11時25分
京浜港東京区
(北緯35度39.0分 東経139度45.8分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
旅客船スーパーシティ |
作業船第16土手金丸 |
総トン数 |
115トン |
12.33トン |
全長 |
27.50メートル |
15.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
294キロワット |
143キロワット |
(2)設備及び性能等
ア スーパーシティ
スーパーシティ(以下「ス号」という。)は、昭和58年4月に進水した鋼製旅客船で、D社により、他の10数隻の旅客船と共に水上バスと呼称して時刻表に従い運航され、主に京浜港東京区日の出桟橋を起点とし、同区及び同区に接続する隅田川において、お台場海浜公園、浅草など各地点間の旅客輸送に従事していた。
ス号は、船首部上甲板に操舵室を備え、同室後方から後部にかけて上甲板下に設けられた旅客室、同旅客室の屋根にあたる天蓋が設置された遊歩甲板及び船尾部上甲板がそれぞれ旅客用区画で、最大搭載人員は、旅客430人、船員2人及びその他の乗船者を1人として計433人であった。
海上公試運転時の各成績によると、平均喫水1.34メートルで約10.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で航走中、最大舵角45度をとり右回頭を行うと、30度及び90度回頭するまでの所要時間は、それぞれ約7秒、同22秒で、360度回頭するには68秒を要し、定常旋回径は約65メートルとなり、同様の左回頭時には各所要時間、同旋回径とも若干増大した。また、約4.7ノットの速力のとき、同様に360度回頭すると右回頭時で3分を要し、定常旋回径は約40メートルとなった。
そして、約10.8ノットの速力で航走中、全速力後進をかけたとき、船体停止までの所要時間は34秒で航走距離は110メートルであった。
イ 第16土手金丸
第16土手金丸(以下「土手金丸」という。)は、FRP製交通船兼作業船で、昭和42年に水先艇業務を主目的に就航し、その後機関換装を行うなど仕様や船名の変更を経て使用されていたところ、C受審人に購入され、専ら京浜港東京区において、作業船、交通船業務などに就き、港則法上の雑種船に該当した。
船体前部に操舵室を備え、操舵室前部中央に舵輪が、その左舷側下方に回転計など機関の計器類が設けられており、平成15年3月下旬以降は業務に就く機会がなく、同区芝浦運河東岸に係留されていた。
3 事実の経過
ス号は、A、B両受審人が乗り組み、日の出桟橋とその南南東方1.5海里ばかりのお台場海浜公園間の航行に、片道約20分の所要時間をもって従事していたところ、平成15年5月6日11時15分当日の第1便としての航行を終え、ほぼ南北に延びている日の出桟橋北端部の、東向きに約50メートル突出している水上バス発着所に戻り、入り船左舷付けで着岸した。
A受審人は、第1便の運航操船に従事し、着岸後、それまでの慣行から第2便の同操船をB受審人に委ねることとし、間もなくの発航に備え、操舵室で同受審人にこれを引き継いだ。
こうしてス号は、旅客39人を乗せ、船首1.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、11時20分水上バス発着所を発し、お台場海浜公園に向かった。
B受審人は、操舵室で椅子に腰掛け、1人で出航操船に当たり、機関を後進に使用して水上バス発着場突端から離れたのち、お台場海浜公園への入航口となる第3台場とその西方の第6台場間に向けることとし、そのころ左舷側近くに停留中の遊漁船を認めていたことから右旋回を始めた。
一方、A受審人は、離岸作業に就いたのち船首甲板で周囲の見張りを行い、旋回して第3台場に向首するころ、いつものとおり発航後の見回りのため旅客室に降りた。
11時24分B受審人は、157度(真方位、以下同じ。)に向首して第3台場に向き、間もなく右旋回を終えるころ、右舷船首30度300メートルばかりに北上する土手金丸を初認し、また、同船の右舷前方にも北上中の活魚運搬船を認め、専ら同運搬船に注意を払い、同運搬船を避けるよう同運搬船と土手金丸の2船間に向けて右転を続け、11時24分少し過ぎ晴海信号所から301度940メートルの地点で、針路を第6台場に向けて173度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
定針したときB受審人は、右舷船首15度230メートルに土手金丸が近づき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で避航動作をとらないまま接近していたが、初認したとき自船が土手金丸の前路を替わせるものと思い、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもしないで続航中、11時25分わずか前至近に迫った土手金丸を認め、汽笛を吹鳴して機関を後進にかけたが効なく、11時25分晴海信号所から295度880メートルの地点において、ス号は、原針路のまま、その右舷船首部に土手金丸の船首が、前方から34度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、旅客室を見回り中、汽笛を聞き、急ぎ甲板に出て衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、土手金丸は、C受審人が1人で乗り組み、補油の目的で、船首1.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日11時05分芝浦運河東岸の係留地を発し、隅田川河口左岸にある消防署前の岸壁に向かった。
11時20分C受審人は、日の出桟橋と芝浦岸壁間の水路にかかる日の出水門を通過して東進し、11時22分晴海信号所から266度980メートルの地点で、針路を隅田川河口に向け022度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.2ノットの速力で、操舵室の椅子に腰掛け手動操舵で進行した。
定針したころC受審人は、左舷前方650メートルばかりに、日の出桟橋水上バス発着場を離岸して旋回しながら東方に向いているス号を視認し、同船が南下してお台場方面に向かう水上バスであることを知ったが、しばらく使用していなかった機関の調子が思わしくなかったので、同船から目を離し、専ら下方を向いて機関の計器類を見ながら続航した。
11時24分少し過ぎC受審人は、晴海信号所から287度880メートルの地点で、左舷船首14度230メートルのところに、南下を始めたス号を認め、その後同船の方位に変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近していたが、一瞥(いちべつ)してまだ距離があると思い、再び機関の計器類に目をやり、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、雑種船以外の船舶であるス号の進路を避けないまま進行中、11時25分わずか前右舷側を航過した漁船の合図で至近に迫ったス号を認め、機関を後進にかけて右舵をとったが効なく、土手金丸は、027度に向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ス号は、右舷船首部に擦過傷を生じ、土手金丸は、船首部外板を破損し、機関クラッチを損傷したが、のち修理された。
(航法の適用)
本件は、港則法の適用水域を航行している2船間で発生しており、同法上、ス号が雑種船以外の船舶、土手金丸が雑種船と認められることから、航法については同法第18条が適用される。
なお、ス号については、主に港内交通の便に使用されているものの、総トン数が115トンで、最大搭載人員が433人であることなどから、雑種船の定義において例示されている汽艇の範疇には入らないと考えられ、雑種船と認めない。
従って、本件においては、港則法第18条に基づき、雑種船である土手金丸は、雑種船以外の船舶であるス号の進路を避けなければならず、また、ス号は、海上衝突予防法第40条に基づき、同法第17条及び第34条の規定により、保持船としての動作及び警告信号を行わなければならない。
(本件発生に至る事由)
1 ス号
(1)A受審人がB受審人に運航操船を委ね、B受審人が同操船を行ったこと
(2)B受審人が旋回を終える少し前土手金丸を初認したころ、同時に活魚運搬船を認め、同船を避けて定針したこと
(3)B受審人が動静監視を十分に行わなかったこと
2 土手金丸
(1)C受審人が機関が不調であることを気にかけていたこと
(2)C受審人が動静監視を十分に行わなかったこと
(原因の考察)
B、C両受審人の動静監視不十分が、両船の衝突を生じさせたことは、事実の経過において記述したとおりであり、B受審人が動静監視を十分に行わなかったこと及びC受審人が動静監視を十分に行わなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
A受審人がB受審人に運航操船を委ね、B受審人が同操船を行ったことは、同人がス号船長としての海技資格を有しており、また、実際にス号ほかD社旅客船での船長経歴がA受審人よりも長いことから、本件発生の原因とならない。なお、ス号には船員法の適用がなく、A受審人が自ら操船指揮をとらなかったことは同法上の違反事項ではない。
B受審人が旋回を終える少し前土手金丸を初認したころ、同時に活魚運搬船を認め、同船を避けて定針したことは、同人の土手金丸に対しての注意力を減じる影響を与えたと考えられる。船舶交通の輻輳(ふくそう)する港内において1人で手動操舵を行いながら周囲の状況を確認することは相当な注意力を必要とするのであり、ス号は、旅客船で乗組員が2人いることからして、船単位として動静監視を十分に行うことを考えれば、発航後は定針して周囲の安全が確認できるまで2人による見張り態勢をとるのが望ましい。
C受審人が機関が不調であることを気にかけていたことは、B受審人の場合と同様に、相手船に対する注意力に影響したと考えられる。操船及び見張りに集中できるよう発航前に機関整備など十分に行っておくことが必要である。
(海難の原因)
本件衝突は、京浜港東京区日の出桟橋東方水域において、雑種船である土手金丸が、隅田川河口に向け北上中、動静監視不十分で、雑種船以外の船舶であるス号の進路を避けなかったことによって発生したが、ス号が、お台場海浜公園に向け南下中、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は、京浜港東京区日の出桟橋東方水域を隅田川河口に向け北上中、左舷船首方に南下中のス号を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥してまだ距離があると思い、ス号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがあることに気付かず、雑種船以外の船舶であるス号の進路を避けないまま進行して衝突を招き、ス号の右舷船首部に擦過傷、土手金丸の船首部外板に破損及び機関クラッチに損傷を与えるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、京浜港東京区日の出桟橋東方水域において、右舷船首方に北上中の土手金丸を認めて定針し、お台場海浜公園に向け南下する場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が土手金丸の前路を替わせるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがあることに気付かず、避航動作をとらないまま接近する土手金丸に対し警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで進行して衝突を招き、自船及び土手金丸に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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