(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月12日09時30分
静岡県清水港第2区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船進漁丸 |
モーターボート甲山丸 |
総トン数 |
4.80トン |
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登録長 |
9.71メートル |
7.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
242キロワット |
8キロワット |
3 事実の経過
進漁丸は、一本釣り漁業に従事する汽笛を備えたFRP製漁船で、A受審人(平成16年3月一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、かわはぎ漁の目的で、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年10月12日08時00分静岡県清水港第1区(以下、港区の名称は「清水港」を省略する。)を発し、同県三保埼南南東方沖合の漁場で操業を始め、09時00分ごろ漁獲がなく操業を打ち切り帰途に就いた。
ところで、清水港は、港則法に定める特定港で、港域が港奥にあたる南から順に第1区、第2区及び第3区に分かれて北方向に伸び、三保埼北東端部から北方の陸岸まで港界線が引かれていた。そして、港界線上の南寄りに東端部を置く幅約280メートルの航路がへの字状となって第3区内を西方に伸び、清水港江尻船だまり北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)の東方沖第2区との境界線の少し北方沖に至って航路幅を約200メートルとし、引続き同区内を南方に第1区との境界線まで伸びていて、同線の北方約300メートルの西岸側には第2区に接続する巴川河口部があった。
また、進漁丸は、船体後部寄りに操舵室を有し、同室中央から右舷側までいすが配置され、それに腰をかけた姿勢では、低速航行中でも船首がやや浮上して突き出し部により正船首から右舷側に5度左舷側に7度の範囲に死角を生じ、船首方の見通しが妨げられる状況であった。
漁場を発進したA受審人は、いすに腰を掛け見張りと操舵にあたって三保埼沿いに北上したのち、清水港港域に入って第3区を西行し、09時23分少し前北防波堤灯台から130度(真方位、以下同じ。)340メートルの、第2区との境界線付近の航路内で、針路を航路に沿って181度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
09時25分A受審人は、北防波堤灯台から165度915メートルの地点に達したとき、右舷船首15度800メートルの、巴川河口部の航路外に甲山丸を初めて視認し、東方に向首した同船が低速力で航路に向かっていることを知り、5.0ノットの速力に減じて続航した。
09時25分半A受審人は、右舷船首13度710メートルとなった甲山丸がほとんど直角に航路に入り、間もなく同船が船首の死角に入って見えなくなったが、航路外から航路に入る甲山丸が自船を避けるものと思い、船首を左右に振るなどして引き続き甲山丸に対する動静監視を十分に行わないまま進行した。
09時27分A受審人は、北防波堤灯台から169度1,210メートルの地点に達したとき、甲山丸がほぼ正船首460メートルのところで停留を始め、その後、同船に向首して衝突の危険がある態勢で接近したが、依然として動静監視不十分で、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく、そのころ、左舷前方に第1区を北上中の他船を視認し、同船に注視して進行中、09時30分北防波堤灯台から172度1,670メートルの地点において、進漁丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、甲山丸の左舷船尾部に後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、甲山丸は、和船型のFRP製モーターボートで、B受審人(昭和56年12月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同12日09時00分巴川上流約1,500メートルの地点を発し、三保埼東方沖合の釣り場に向かった。
ところで、B受審人は、平素、巴川を航行する際は橋の下を通ることから、マストなどを倒した状態とし、同川河口部を過ぎた航路付近で一旦停留してそれらを立てるほか、釣りの電動リールに給電のためバッテリーに結線するなど釣りの準備を行っていた。
発航したB受審人は、船尾部の左右に渡した板に腰を掛け舵柄を握って巴川河口部に至り、09時25分北防波堤灯台から179度1,650メートルの地点で、航路に入ろうとして針路を090度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
定針したとき、B受審人は、左舷正横前16度800メートルに航路内を南下中の進漁丸を視認することができたが、一瞥しただけで他船がいないと思い、左方の見張りを十分に行わなかったので、進漁丸に気付かないまま、間もなく航路に入り続航した。
09時27分B受審人は、前示衝突地点付近に達して進漁丸がほぼ左舷正横460メートルとなったとき、停留すれば同船と衝突の危険が生じる状況であったものの、依然として見張り不十分で、そのまま進行して航路外に出るなど進漁丸の進路を避けることなく、機関を中立とし、停留していつものように釣りの準備を始めた。
09時29分B受審人は、左舷方を向き腰を下ろした姿勢で釣りの準備を終えてふと顔を上げたとき、左舷正横150メートルに進漁丸を初めて視認し、09時30分少し前同船が至近に迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、慌てて立ち上がり大声を上げて機関を前進に操作し、右舵一杯としたが及ばず、甲山丸は、少しばかり前進行きあしがつき、船首が141度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝突直後、機関を止めようとしたが衝突の衝撃によりクラッチ操作が不能となり、東方の岸壁に向かって接近することから海中に飛び込み、間もなく進漁丸に引き揚げられたが、甲山丸は岸壁に衝突して停船した。
衝突の結果、進漁丸は、左舷船首部に破口を生じ、甲山丸は、船尾ブルワークなどを損壊し、B受審人が腰部挫傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、静岡県清水港第2区の航路において、航路外から航路に入る甲山丸が、見張り不十分で、航路を航行する進漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、進漁丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、静岡県清水港第2区において、航路外から航路に入ろうとする場合、航路を航行する進漁丸の進路を避けなければならないから、同船を見落とさないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで他船がいないと思い、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路を南下する進漁丸に気付かないまま、航路に入って同船の前路で機関を中立とし、航路外に出るなど進漁丸の進路を避けずに停留を続けて同船との衝突を招き、進漁丸の左舷船首部に破口を生じさせ、甲山丸の船尾ブルワークなどを損壊させるとともに、自らが腰部挫傷等を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、静岡県清水港第2区において、航路を南下中、右舷前方に航路外から航路に入る甲山丸を認めた場合、間もなく同船が船首の死角に入って見えなかったから、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、船首を左右に振るなどして同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路外から航路に入る甲山丸が自船を避けるものと思い、甲山丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路で停留した同船と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して甲山丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。