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平成16年仙審第37号
件名

漁船第十二稲荷丸貨物船エイジアン コスモス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年10月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎、原 清澄、内山欽郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第十二稲荷丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十二稲荷丸・・・船首部を圧壊
エイジアン コスモス・・・凹損を伴う擦過傷

原因
第十二稲荷丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エイジアン コスモス・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第十二稲荷丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中のエイジアンコスモスを避けなかったことによって発生したが、エイジアンコスモスが、見張り不十分で、避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月5日04時48分
 宮城県石巻湾
 (北緯38度20.8分 東経141度20.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十二稲荷丸 貨物船エイジアン コスモス
総トン数 16トン 6,178トン
全長   100.64メートル
登録長 16.82メートル 94.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット 3,236キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十二稲荷丸
 第十二稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)は、昭和59年2月に進水した一層甲板型のFRP製漁船で、敷網、ひき網、一本つり(いか)及び雑各漁業の用途並びに小型第1種で登録され、最大とう載人員6名に定められていた。
 同船は、船体中央に操舵室を設け、船首楼にマストを、操舵室前方甲板上に操業用機器類を据え、それらを日除けを兼ねたオーニングで覆っていたが、同室よりも低く設けていたので、操縦席から前方の見張りを妨げる構造物はなかった。
イ エイジアンコスモス
 エイジアンコスモス(以下「エ号」という。)は、1998年1月にD社で建造され、NK船級を受けた二層甲板・船尾船橋型鋼製貨物船で、揚荷装置として船首楼後方にデリックポスト、上甲板中央付近に操縦室を備えたクレーン及び居住区域前部にデリックポストを設置していた。
 航海船橋甲板は、満載喫水線からの高さが約12メートルで、同甲板上に船首尾方向の長さ約7メートル及び幅約8メートルの操舵室が設けられており、同室両舷がウイングの暴露甲板となっていたので、操舵室内を通り両ウイング間を移動すれば、錨泊中の周囲の見張りに支障をきたさなかった。

3 事実の経過
 稲荷丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、はえ縄漁を行う目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年12月3日06時00分宮城県石巻港を発し、塩屋埼東方沖合の漁場に至って操業を始め、翌4日昼ごろ同人の妻の祖母訃報を船舶電話で受けたことから、まだら約1トンを獲たところで操業を止め、航行中の動力船が掲げる灯火を表示し、同日21時50分塩屋埼灯台から083度(真方位、以下同じ。)24.0海里の地点を発進して帰途についた。
 ところで、稲荷丸のはえ縄漁は、漁場で3泊の予定で行っており、1本が約1,800メートルのはえ縄を15分ほどかけて投縄し、揚げ縄には40分ほどかけており、平素、7本のはえ縄を投縄していたので、漁場到着後1回目の操業を終えるのが翌日02時ごろとなり、再投縄し終えた03時ごろから08時ごろまでの5時間ほど休憩を取ったのち揚げ縄を行う状況だった。
 また、A受審人は、石巻港と漁場との往復に際して自ら単独で航海当直に就いており、漁場での移動を含む操業中も操舵室で指揮に当たっていたことから、操業中1泊につき約5時間の休息を取っていたものの、帰航の際、ときおり眠気を催すことがあったので、その都度、乗組員を操舵室に呼び、談話をするなどして居眠り運航を防止していた。
 これより先、A受審人は、祖母の火葬が5日午前中に執り行われることを知ったので、4日の操業を早めに切り上げて帰航することに決め、平素より少ない5本のはえ縄を投縄し、休息を取らずに揚げ縄を終えて直ちに石巻港に向かったものであった。
 発進後、A受審人は、操舵室右舷側の固定したいすに腰掛けて操舵操船に当たり、5日02時00分鵜ノ尾埼灯台から098度13.2海里の地点で、針路を007度に定めて自動操舵とし、機関回転数毎分1,700の全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として風潮流による偏位を修正しながら進行した。
 04時00分A受審人は、波島灯台から139度10.0海里の地点に達したころ、操業後に休息も取らずに航海当直に就いたことから、漸次眠気を催したが、あと1時間ほどで入港できる地点に至ったことで気が緩み、普段通り、休息中の甲板員を起こして2人当直にするなどして居眠り運航の防止措置を取ることなく続航した。
 A受審人は、単独で航海当直を続けていたところ、いつしか居眠りに陥り、04時47分少し前正船首500メートルのところに、錨泊中を示す灯火を表示したエ号を視認でき、その後その方位がほとんど変わらず、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していたが、依然居眠りに陥っていてこのことに気付き得ず、同船を避けることができないまま進行中、04時48分石巻港雲雀野防波堤灯台から130度4.85海里の地点において、稲荷丸は、原針路、原速力のまま、その船首がエ号の左舷船尾に直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北北西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、エ号は、フィリピン人船長B及び同一等航海士Cほか同15人が乗り組み、傭船社から、揚荷終了後、空倉のまま、次航のスケジュールが決まるまで仙台塩釜港付近で錨泊待機するよう指示されたところ、接近する台風21号を避ける必要から石巻湾に移動することとし、荒天避泊の目的で、船首1.92メートル船尾5.04メートルの喫水をもって、同月1日20時40分同港を発し、22時45分石巻港南方3海里沖合に錨泊し、4日午後北西の疾強風が連吹して夕刻に走錨したため、20時20分前示衝突地点に右舷錨を投錨し、錨泊中を示す灯火を表示して再錨泊した。
 B船長は、各航海士に対して、錨泊当直を行うに当たり、常時、付近を通過する小型船や漁船に対して厳重な見張りを行うこと、錨泊位置を確認して走錨の有無を調べること及び錨泊中はレーダーを作動させておくこと等を夜間命令簿に記載のうえ、各人に署名をさせ、のち降橋して休息した。
 翌5日04時00分C一等航海士は、昇橋して二等航海士と交替して甲板手とともに錨泊当直に就き、船首が277度を向いて錨泊していることを認めたのち、レーダーと肉眼で自船の付近を往来する数隻の小型船や漁船を監視していたところ、同時47分少し前左舷正横500メートルのところから、稲荷丸が自船に向首して接近していたが、見張りが不十分で、小型船や漁船に紛れ込んでいた稲荷丸に対して特に注意を払わなかった。
 C一等航海士は、稲荷丸に対して避航を促すための注意喚起信号を行わず、エ号は、船首が同一方向を向首したまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
 C一等航海士は、衝突の衝撃音を聞き、衝突を知った。
 B船長は、衝突の衝撃音で目覚め、船窓から衝突後に右舷船尾方向まで航走した稲荷丸を初認し、ほどなく、C一等航海士から同船に衝突された旨の電話連絡を受け、昇橋して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、稲荷丸は、船首部を圧壊したが、のち修理され、エ号は、凹損を伴う擦過傷を生じた。

(本件発生に至る事由)
1 稲荷丸
(1)A受審人が、前日から連続した長時間の操業と船橋当直とにより疲れていたこと
(2)A受審人が、漁場発進時から眠気を感じていたものの、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(3)A受審人が居眠りに陥ったこと
(4)A受審人が居眠りに陥ってエ号を避けることができなかったこと
2 エ号
(1)錨泊当直者が多数の漁船が航行していたことで、自船の船尾に向けて航行中の稲荷丸に対する見張りを十分に行わなかったこと
(2)当時、多数の漁船が航行しており、小型船や漁船が間近を航過していたので、稲荷丸に対して避航を促すための注意喚起信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は、稲荷丸の船長が、帰航中、居眠りに陥り、錨泊中のエ号を避けないで進行したことによって発生したものである。一方、エ号が、避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことも衝突の原因となる。
 A受審人が、連続した長時間の操業と航海当直とにより疲れて漁場発進時から眠気を感じていたものの、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと、居眠りに陥ったこと及びエ号を避けなかったこと並びにエ号が、見張り不十分で避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、石巻港南方沖合において、操業中休息を取らずに帰航中の稲荷丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中のエ号を避けなかったことによって発生したが、荒天避泊をしているエ号が、見張り不十分で、避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、石巻港南方沖合において、妻の祖母訃報を受けて早めに操業を止めたのち、単独で操船して帰航する場合、操業中休息を取らずに航海当直に就いたのであるから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を操舵室に呼んで2人当直とするなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漸次眠気を催したが、あと1時間ほどで入港できる地点に至ったことで気が緩み、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、錨泊中のエ号に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付き得ず、同船を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、稲荷丸の船首部を圧壊させ、エ号の左舷船尾に凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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