(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月13日01時50分
北海道枝幸港
(北緯44度55.8分 東経142度35.7分)
2 船舶の要目等
(1) 要目
船種船名 |
漁船第三十五長栄丸 |
総トン数 |
9.90トン |
全長 |
17.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
(2) 設備及び性能等
第三十五長栄丸(以下「長栄丸」という。)は、昭和56年11月に進水したFRP製漁船で、操舵室前壁には、右舷側にレーダー2台及びGPSプロッタ、中央に磁気コンパス、左舷側に遠隔操舵装置及び主機用遠隔操縦装置が配置され、また、磁気コンパス後方に舵輪が設置されていた。
3 事実の経過
長栄丸は、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、かにかご漁の目的で、船首0.96メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、平成16年4月13日01時20分北海道枝幸港を発し、同港北東方沖合の漁場に向かった。
01時28分A受審人は、枝幸港の島防波堤先端を航過して針路を北東に向け、機関を全速力前進にかけて15.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、自動操舵に切り替えたのち、航海当直をB受審人と交代して操舵室右舷側のいすに腰を下ろし休息した。
01時38分B受審人は、北見枝幸港島防波堤灯台(以下「島防波堤灯台」という。)北東方2.5海里付近の地点で、折からの荒天により操業を取り止め、枝幸港に帰航することとなって反転し、同時46分島防波堤灯台から049.5度(真方位、以下同じ。)940メートルの地点に達したとき、針路を225度に定め、速力を15.0ノットとして自動操舵のまま進行した。
定針したとき、A受審人は、枝幸港に入航する状況となり、引き続きB受審人に単独の入航操船を行わせたが、同受審人が同港への入航操船に慣れているから大丈夫と思い、コンパス、またはレーダーやGPSプロッタの船首線などにより、自らも周囲の状況や運航模様を確認してB受審人に対する入航操船の指導を十分に行うことなく、前示いすに腰を下ろしたまま休息を続けた。
01時47分半B受審人は、手動操舵に切り替え、遠隔操舵装置を手にして操舵室左舷側に立ち、01時48分島防波堤灯台から124度75メートルの地点に至り、速力を9.0ノットに減じて次の針路目標となる南外防波堤北東端の緑灯を探しながら港内に向け右転を開始し、01時48分半わずか前同灯台から203度80メートルの地点に達したとき、舵を中央に戻して右転を終え、背景の街路灯などに紛れたためか、依然として針路目標となる灯火を識別できなかったが、既に船首が南外防波堤北東端と島防波堤北西端の間を向いて305度ほどの予定針路に転じたものと思い、コンパス、またはレーダーやGPSプロッタの船首線などにより、針路の確認を十分に行わなかったので、272度の針路で南外防波堤に向首する態勢となったことに気付かずに続航した。
01時49分半B受審人は、島防波堤灯台から259度340メートルの地点に達したとき、ふと右舷前方に港奥の緑灯を認めたことから、同灯火を南外防波堤北東端の緑灯と誤認して再度右転中、01時50分長栄丸は、島防波堤灯台から276度430メートルの地点において、船首が357度を向いたとき、原速力で、その船首部が南外防波堤に衝突した。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
防波堤衝突の結果、長栄丸は左舷船首外板を圧壊し、A受審人が肋骨骨折などを、B受審人ほか乗組員3人が顔面打撲傷などをそれぞれ負った。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、周囲の状況や運航模様を確認していなかったこと
2 A受審人が、当直者に対する入航操船の指導を行わなかったこと
3 B受審人が、入航のため針路を転じたとき、針路目標としていた灯火を識別できなかったこと
4 B受審人が、針路目標としていた灯火を識別できなかった際、コンパス、またはレーダーやGPSプロッタの船首線などにより、針路の確認を十分に行わなかったこと
5 B受審人が、防波堤衝突直前に港奥の緑灯を針路目標としていた灯火と誤認したこと
(原因の考察)
本件防波堤衝突は、夜間、北海道枝幸港において入航中、在橋中の船長が、当直者に対する入航操船の指導などを行うことなく、また当直者が、針路目標の灯火を識別できなかった際、針路の確認を十分に行わずに航行を続け、防波堤に衝突したものである。
在橋中のA受審人が、自らも周囲の状況や運航模様を確認してB受審人に対する入航操船の指導などを行わなかったこと、B受審人が、針路目標としていた灯火を識別できなかったとき、コンパス、またはレーダーやGPSプロッタの船首線などにより、針路の確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B受審人が、入航のため針路を転じたとき、針路目標としていた灯火を識別できなかったこと、防波堤衝突直前に港奥の緑灯を針路目標としていた灯火と誤認したことは、いずれも本件衝突に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。
A受審人が、自ら入航操船の指揮を執らなかったことについては、船舶職員及び小型船舶操縦者法の規定により、小型船舶操縦者は、小型船舶が港を出入りするとき、自ら小型船舶を操縦しなければならないとされているが、B受審人が乗組基準において必要とされる資格に係わる操縦免許証を受有し、かつ本件発生の2年前から入航操船の実務経験を有していることから、本件発生の原因とは認められない。
(海難の原因)
本件防波堤衝突は、夜間、北海道枝幸港において、入航中、針路の確認が不十分で、防波堤に向けて進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、在橋中の船長が、当直者に対する入航操船の指導を十分に行わなかったことと、当直者が、針路の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、北海道枝幸港において、入航中、港内に向け針路を転じた際、針路目標となる灯火を識別できなかった場合、コンパス、またはレーダーやGPSプロッタの船首線などにより、針路の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船首が南外防波堤北東端と島防波堤北西端の間を向いて予定針路に転じたものと思い、針路の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、南外防波堤に向け進行して衝突を招き、長栄丸の左舷船首外板を圧壊させ、A受審人に肋骨骨折などを、ほかの乗組員3人に頭部挫傷などをそれぞれ負わせるとともに、自らも顔面打撲傷などを負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、北海道枝幸港において、入航操船をB受審人に行わせる場合、自らも周囲の状況や運航模様を確認してB受審人に対する入航操船の指導を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、B受審人が枝幸港への入航操船に慣れているから大丈夫と思い、B受審人に対する入航操船の指導を十分に行わなかった職務上の過失により、南外防波堤に向け進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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