(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月2日08時15分
北海道昆布森漁港跡永賀(あとえか)地区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船喜宝丸 |
漁船宝生丸 |
総トン数 |
2.07トン |
1.0トン |
登録長 |
6.90メートル |
7.97メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
5 |
60 |
3 事実の経過
喜宝丸は、昭和48年7月に進水した、こんぶ漁に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成15年9月2日05時30分北海道昆布森漁港跡永賀地区(以下「跡永賀地区」という。)を発し、同地区西方約500メートル沖合の漁場に至ってこんぶ漁を行い、こんぶ70キログラムを獲て操業を打ち切り、08時10分同漁場を発進し、同地区への帰途に就いて東進した。
ところで、跡永賀地区は、陸岸から70メートルばかり南方沖合に、長さ70メートルの消波堤2基が30メートルの間隔で設置され、それぞれ東方、西方に延びており、南方に開く港口となっていた。
また、当時こんぶ漁は、05時30分に跡永賀地区から出航して漁場に向かい08時00分に終了することとされていた。
A受審人は、昭和50年12月に一級小型船舶操縦士(5トン未満限定)の免許を取得し、長年にわたりこんぶ漁に従事しており、08時12分半わずか過ぎ昆布森港南防波堤灯台から093度(真方位、以下同じ。)4.9海里に位置する蝋燭岩(以下「蝋燭岩」という。)から284度1,100メートルの地点において、針路を港口の少し南方に向く046度に定め、機関を全速力前進にかけて4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、船尾に立ち舵柄を握って進行した。
08時13分わずか過ぎA受審人は、蝋燭岩から286.5度1,070メートルの地点で、ほぼ右舷正横1,000メートルに跡永賀地区に向かう同業船の宝生丸を初めて認めたものの、同船に対する動静監視を十分に行わずに進行した。
08時14分わずか過ぎA受審人は、蝋燭岩から293度1,010メートルの地点に達したとき、宝生丸が港口に向け右転し右舷正横後32度440メートルとなり、その後自船が左転して港口に向けると港口付近において宝生丸と衝突のおそれがあったが、自船の方が先に入港するものと思い、依然動静監視を十分に行わなかったのでこれに気付かず、大幅に減速するなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
08時14分半わずか過ぎA受審人は、蝋燭岩から296度1,000メートルの地点で、港口に向け005度に針路を転じて間もなく、08時15分喜宝丸は、蝋燭岩から299度1,010メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船尾部に宝生丸の船首部が後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、宝生丸は、平成元年5月に進水した、こんぶ漁に従事する船外機2機を備えたFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成15年9月2日05時30分跡永賀地区を発し、同地区東方約1,400メートル沖合の漁場に至ってこんぶ漁を行い、こんぶ約1トンを獲て操業を打ち切り、08時12分同漁場を発進し、同地区への帰途に就いた。
ところで、宝生丸は、こんぶ積載時に機関を全速力前進にかけると船首が浮上し、操舵スタンド中央に立つと正船首から左右各舷10度の間に死角を生じるので、船首をときどき左右に振るなどして死角を補う見張りを行わなければならなかった。
B受審人は、昭和58年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し翌59年からこんぶ漁に従事しており、08時12分半わずか前蝋燭岩から174度530メートルの地点で、船首が258度を向いているとき、右舷船首47度1,390メートルに跡永賀地区に向かう同業船の喜宝丸を初めて認めたものの、同船に対する動静監視を十分に行わずに西進した。
08時12分半わずか過ぎB受審人は、蝋燭岩から189度570メートルの地点において、針路を港口の南方に向く305度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力とし、操舵スタンド中央で手動操舵により進行した。
08時14分わずか過ぎB受審人は、蝋燭岩から268度850メートルの地点に達し、針路を港口に向く355度に転じたとき、喜宝丸が左舷船首7度440メートルとなり、このころ同船が左転して港口に向かうことを予測でき、港口付近において同船と衝突のおそれがあったが、同船がすでに入港したものと思い、依然船首を左右に振るなど、死角を補って同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、大幅に減速するなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航し、08時15分宝生丸は、原針路、原速力のまま、港口に向け左転した喜宝丸に前示のとおり衝突した。
衝突の結果、喜宝丸は、左舷船尾部に圧壊等を、宝生丸は、船首部に擦過傷をそれぞれ生じたが、のち修理され、A受審人が左上肢挫裂創を負った。
(原因)
本件衝突は、北海道昆布森漁港跡永賀地区において、両船が相前後して入航中、喜宝丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、宝生丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道昆布森漁港跡永賀地区において、漁場から帰航中、同地区に向かう宝生丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船の方が先に入港するものと思い、宝生丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのあることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して宝生丸との衝突を招き、喜宝丸の左舷船尾部に圧壊等を、宝生丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせ、自身が左上肢挫裂創を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、北海道昆布森漁港跡永賀地区において、漁場から帰航中、同地区に向かう喜宝丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、船首を左右に振るなど、死角を補って同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、喜宝丸がすでに入港したものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのあることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して喜宝丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、A受審人に前示挫裂創を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。