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平成16年第二審第10号
件名

貨物船龍勝丸押船第十五隠岐丸被押はしけB 3501衝突事件[原審・神戸]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
高等海難審判庁(平田照彦、吉澤和彦、上中拓治、坂爪 靖、保田 稔)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:龍勝丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
B、C
受審人
D 職名:第十五隠岐丸次席一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
補佐人
E

損害
龍勝丸・・・球状船首部を圧壊
第十五隠岐丸・・・トランソム右舷側に亀裂を伴う凹損

原因
第十五隠岐丸被押はしけB3501・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
龍勝丸・・・見張り不十分、警告信号等不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

第二審請求者
受審人D

主文

 本件衝突は、第十五隠岐丸被押はしけB 3501が、見張り不十分で、前路を左方に横切る龍勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、龍勝丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Dを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月29日10時30分
 熊野灘
 (北緯34度10.8分 東経136度37.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船龍勝丸  
総トン数 494トン  
全長 74.60メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,029キロワット  
船種船名 押船第十五隠岐丸 はしけB3501
総トン数 171トン 2,752トン
全長 29.16メートル 93.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 龍勝丸
 龍勝丸は、昭和60年7月に進水した限定沿海区域を航行区域とし、前部に1個の貨物倉を有する一層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で、主として関西と東北、北海道間に就航していた。船橋には、ほぼ中央部の操舵スタンドの左舷側にレーダーが2台並び、同スタンドの右舷側には主機コントロール盤・回転計等が配置され、左舷側後部の角には海図台が設けられていた。
イ 第十五隠岐丸
 第十五隠岐丸(以下「隠岐丸」という。)は、平成8年5月に進水した限定沿海区域を航行区域とし、大型はしけ専用の鋼製押船で、船体前部には、4層からなる甲板上の高さ8.5メートルの船橋が設けられていた。また、船首両舷には、はしけに嵌合して結合する油圧式のピンを設備していた。
ウ B 3501
 B 3501は、平成12年に進水した5,500トン積み非自航式の鋼製はしけで、船尾に押船の船首が嵌合できるように、船尾端から9.5メートル幅7メートルの凹部が設けられ、隠岐丸に押されて稼動しており、三重県度会郡紀勢町錦湾で山土を積み込み、中部国際空港の建設現場へ運搬していた。

3 事実の経過
 龍勝丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼製パイプ282本を積載し、船首1.40メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成14年10月28日19時10分大阪港大阪区第6区を発し、北海道苫小牧港に向かった。
 翌29日05時25分A受審人は、潮岬沖で前直の一等航海士と交替して単独で船橋当直に入り、05時35分転針地点に至り、針路を予定の048度(真方位、以下同じ。)としたところ、うねりを受けて左右に動揺するようになり、積荷が浄水用のパイプで、これの運送は初めてであったことから、その結合部に傷をつけないよう、少しでも横揺れを緩和するつもりで、針路を少しずつ左に転じ、030度として北上し、07時33分三木埼灯台から201度14.4海里の地点に至ったとき、直接、大王埼に向かう針路とするか、海象模様によっては布施田水道を通航するのかについて決めかねていたが、さし当たって英虞湾沖に向けることとし、針路を042度に定めて、機関を全速力前進にかけ、11.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
 10時少し過ぎA受審人は、見江島の南方に達したころ、レーダー無線業務日誌等の書類整理と大王埼以降の予定航路の海図への記入を思い立ち、前方を一瞥して他船を認めなかったので、少しの間なら大丈夫と思い、操舵室の左舷後方にある海図台で船尾方を向いて、その作業にとりかかった。
 10時20分A受審人は、見江島灯台から157度5.8海里の地点に達したとき、左舷船首42度1.5海里のところに、B 3501(以下「はしけ」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合した隠岐丸(以下、はしけを嵌合した状態を「隠岐丸押船列」という。)が前路を右方に横切り、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、見張りを十分に行うことなく、書類整理等を続けていたので、このことに気付かないまま続航した。
 10時26分A受審人は、見江島灯台から146度5.4海里の地点に至ったとき、隠岐丸押船列が方位に変化のないまま1,100メートルに接近し、同船に避航の気配がなかったが、依然、前示作業を続け、見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、避航を促すための警告信号を行わず、その後、機関を停止するなどの協力動作をとらないで、隠岐丸押船列が吹鳴した長音2回の汽笛に気付かないまま、同じ針路、速力で続航し、龍勝丸は、10時30分見江島灯台から137度5.2海里の地点において、その船首部が隠岐丸のトランソム右舷側に後方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、隠岐丸押船列は、土砂4,801トンを積載し、喫水が船首4.82メートル船尾5.05メートルとなったはしけに隠岐丸を結合して全長約110メートルとし、隠岐丸には、D受審人ほか5人が乗り組み、船首3.40メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、同月29日08時50分三重県度会郡紀勢町錦湾のF桟橋を発し、同県鈴鹿市沖合に向かった。
 隠岐丸押船列は、09時03分見江島灯台から245度8.9海里の地点で、針路を090度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で自動操舵によって進行した。
 D受審人は、09時15分昇橋して出航操船中の船長と交替し、単独で船橋当直に入り、船橋の前面に立ち、前方の見張りを行いながら続航した。
 10時20分D受審人は、見江島灯台から150度4.4海里の地点に達したとき、レーダーで右舷正横1.5海里ばかりのところに龍勝丸の映像をレーダーで認め、その後同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、同船の映像の方向が大きく開いていたことから、特に危険な態勢とはならないものと思い、肉眼で直接同船の針路などの確認を行わなかったので、このことに気付かないまま進行した。
 10時26分D受審人は、見江島灯台から142度4.8海里の地点に至ったとき、龍勝丸をほぼ同方位1,100メートルに見る状況となったが、舵輪後方のいすに腰を掛けたり、船橋を移動したりしていたものの、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航した。
 10時28分D受審人は、右舷正横後6度580メートルのところに龍勝丸を初めて視認し、少しの間監視していたところ船橋が後方に徐々に移動し、方位の変化があったことから、同船がどうにか船尾を替わるものと思い、直ちに、大きく右転するなどの措置をとることなく監視していたところ、10時29分正横後11度270メートルに龍勝丸の船橋内を視認したとき、人影を認めなかったので、注意を喚起するつもりで長音2回の汽笛を吹鳴したものの、依然として同じ針路、速力で進行した。
 D受審人は、その後、龍勝丸の船橋の方位が徐々に後方に開いていたものの、10時30分少し前衝突は避けられないと感じ、手動操舵に切り替え、両舷のZペラのノズルの放出口を船尾方から右舷後方に10度回転させて右回頭を開始したが、隠岐丸押船列は、船首が092度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、龍勝丸は球状船首部を圧壊し、隠岐丸はトランソム右舷側に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 龍勝丸は、針路042度、速力11.7ノットで航行し、隠岐丸押船列は、針路090度、速力8.0ノットで航行していたのであるから、これによって、両船の相対位置関係を作図すれば、衝突の10分前には、龍勝丸の船橋から隠岐丸押船列の船橋を左舷船首42度1.5海里に、隠岐丸押船列の船橋から龍勝丸の船橋をほぼ右舷正横に見る態勢となる。
 そして、両船は、衝突まで同一の針路及び速力で航行して衝突したのであるから、本件は、海上衝突予防法第15条横切り船の航法によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 龍勝丸
(1)予定針路が早期に決定されず、衝突のおそれが生じたこと
(2)A受審人の見張りが十分でなかったこと
(3)A受審人が警告信号を行わなかったこと
(4)A受審人が協力動作をとらなかったこと
(5)A受審人が隠岐丸の汽笛に気付かなかったこと
2 隠岐丸押船列
(1)龍勝丸のレーダー映像が正横付近で探知されたこと
(2)D受審人がレーダー映像の船舶を肉眼で確認しなかったこと
(3)D受審人の見張りが十分でなかったこと
(4)避航動作がとられなかったこと
(5)D受審人が龍勝丸を視認したとき船橋の方位が変化していたこと

(原因の考察)
 本件は、隠岐丸が十分な見張りを行っていたなら、龍勝丸との横切り態勢に気付き、同船を避けていたものと認められる。
 したがって、D受審人が十分な見張りを行わず、避航動作をとらなかったことは原因となる。
 D受審人がレーダーで龍勝丸の映像を初めて探知したとき、肉眼で確認し、同船の動向を監視していたなら、衝突のおそれを早期に認識できたものと認められ、また、龍勝丸を肉眼で視認したとき、同船の船橋の方位が変化していたことは、主張に対する判断の項において記載するとおり、衝突の2分前から1分前までの1分間に5度の変化があったが、これは、衝突の直前という特殊な時点における、視認者の位置と両船の衝突箇所との相違によるもので、早期に確認していたなら、方位の変化がないことを知ることができた。このことは、結局、見張りが十分でなかったことに包含されることになる。
 龍勝丸が、十分な見張りを行っていたなら、隠岐丸押船列との横切り態勢に気付き、同船に避航の気配がないときは、警告信号を行うとともに協力動作をとり、本件は回避されていたものと認められる。
 したがって、A受審人が、十分な見張りを行わず、警告信号を行わず、協力動作をとらなかっ
たことは原因となる。
 A受審人が、隠岐丸が吹鳴した長音2回の汽笛を聴き漏らしていなかったなら、衝突を回避する措置をとっていた可能性はあるが、書類整理に気を奪われていた状況下では、聴き漏らしたことを問題とすることは適切でない。本来、航海当直中は、そうした作業を行うことなく、当直業務に専念し、十分な見張りを行うことが求められているのであり、衝突直前の汽笛を聴き漏らしたことは、求められる行為規範から外れた、時宜的な事実であり、原因とするまでもない。
 予定針路が早期に決定され、転針されていたなら、両船の見合い関係は解消されていた可能性があるものの、転針地点までは距離もあり、当該針路で航海を継続したことは、通常の航行形態の一環であって非難の対象とすべきものではなく、結果回避の偶然性があることを理由として原因とすることは適切でない。

(主張に対する判断)
 D受審人は、龍勝丸の視認模様について、本件審理の過程で、衝突の15分前にレーダーで1.5海里ばかりに同船の映像を、10分前に右舷正横後約40度500ないし600メートルに、3分前に右舷正横後55度200メートルに同船を視認した旨を述べるので、このことについて検討する。
 本件は、航法の適用の項で説明したように、衝突の10分前、両船の相対位置関係は、龍勝丸の船橋から隠岐丸の船橋を左舷船首42度1.5海里に、隠岐丸の船橋から龍勝丸の船橋をほぼ右舷正横に見る態勢にあって、この態勢は、衝突の約3分前までほぼ同じである。本件の衝突箇所は、龍勝丸の船首と隠岐丸の船尾が衝突したものであることから、隠岐丸の船橋から龍勝丸の船橋は、2分前は、右舷正横後6度580メートルに、1分前には、同11度270メートルに、30秒前には、同18度190メートルに、15秒前には、同29度130メートルに、衝突時には、同52度80メートルに視認することになる。
 そうして見ると、D受審人が述べる距離と角度のいずれをとるかにもよるが、距離をとったならば、龍勝丸の船橋を500ないし600メートルに視認したのは、衝突の約2分前、200メートルに認めたときは、衝突の32秒前ということになり、D受審人の陳述は全面的には、採ることができない。

(海難の原因)
 本件衝突は、熊野灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、隠岐丸押船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る龍勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、龍勝丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 D受審人は、熊野灘において、三重県鈴鹿市沖合に向け東行中、レーダーで右舷正横方向に他船の映像を認めた場合、その映像の船舶を肉眼で確認するなど見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、映像が右舷正横方向であったので、危険な態勢になることはないものと思い、映像の船舶を肉眼で確認するなど見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、龍勝丸の発見が遅れ、同船の進路を避けないまま進行して、龍勝丸との衝突を招き、隠岐丸のトランソム右舷側に亀裂を伴う凹損を、龍勝丸の球状船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、熊野灘において、英虞湾沖に向けて北東進する場合、左舷前方から接近する隠岐丸押船列を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前方を一瞥して他船を認めなかったので少しの間なら大丈夫と思い、海図台で書類整理等の作業に気を奪われて、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する隠岐丸押船列に気付かないで、警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して、隠岐丸押船列との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年3月24日神審言渡
 本件衝突は、第十五隠岐丸被押はしけB 3501が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る龍勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、龍勝丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Dを戒告する。
 受審人Aを戒告する。


参考図
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