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平成16年第二審第6号
件名

漁船第六太平丸油送船第21大英丸衝突事件[原審・仙台]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年12月17日

審判庁区分
高等海難審判庁(平田照彦、雲林院信行、上中拓治、坂爪 靖、保田 稔)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:第六太平丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
補佐人
B、C、D、E、F
受審人
G 職名:第21大英丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
H、I

損害
第六太平丸・・・球状船首に軽度の凹損と擦過傷
大英丸・・・左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損、A重油流出、甲板員が左前頭部裂創

原因
第21大英丸・・・見張り不十分、港則法の航法不遵守

第二審請求者
受審人G

主文

 本件衝突は、雑種船である第21大英丸が、見張り不十分で、雑種船以外の船舶である第六太平丸の進路を避けなかったばかりか、その前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Gを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月2日11時00分
 岩手県大船渡港
 (北緯39度02.9分 東経141度43.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第六太平丸 油送船第21大英丸
総トン数 168トン 19トン
全長 39.51メートル 23.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット 77キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第六太平丸
 第六太平丸(以下「太平丸」という。)は、昭和61年3月に進水した船首楼及び長船尾楼を備えた一層甲板型鋼製漁船で、第2種の従業制限を有し、釧路港を基地とし、毎年5月から7月ごろまでさけ・ます流網漁業に、8月から11月ごろまではさんま棒受網漁業に従事していた。
 太平丸は、船体中央よりやや後方の、長船尾楼前端付近に船橋が配置され、船橋から船首端までの距離は約20.8メートルで、船首楼と長船尾楼間の上甲板上高さ約1.0メートルのところに作業甲板が設けられ、同上甲板下には、食料庫及び1番から3番までの魚倉がそれぞれ設けられていた。
 操舵室には、前面中央にジャイロ組込型操舵スタンド、同スタンドの右舷側にレーダー、魚群探知器、遠隔操縦盤、同左舷側に遠隔操縦装置、遠隔操縦盤がそれぞれ設けられていた。両舷側の遠隔操縦盤は、盤上に機関の前進、中立及び後進の各位置を示す表示灯、操舵用のダイヤル、機関操作用のノブが設けられ、同ダイヤルを右に回せば舵が右にとられ、中央に戻せば直進することができ、また、同ノブを前進、後進、中立の位置に合わせることにより、前後進の切り替えや速力の増減ができるようになっていた。
 船首部及び両舷側に設置されたブームには集魚灯が取り付けられ、操舵室からはこれらにより視野が妨げられるものの、身体を左右に移動することにより、前方を見通すことができた。
 また、機関の毎分回転数と速力との関係は、海上試運転成績によれば、前進時、全速力が340回転で11.967ノット、半速力が309回転で11,032ノット及び微速力が270回転で9.990ノットで、全速力で航走中、全速力後進発令から船体停止までに要する時間は、32.8秒であった。
イ 第21大英丸
 第21大英丸(以下「大英丸」という。)は、昭和58年2月に進水した鋼製油送船で、K社が平成13年5月中古で購入し、最大とう載人員が3人で、平水区域を航行区域とし、専ら大船渡港港内で入港する漁船等への給油作業に従事していた。
 大英丸は、船体後部に操舵室を設け、その前方に1番から3番までの貨物油タンクが設けられていた。操舵室には、前部中央に操舵ハンドル、その上方にマグネットコンパスが設けられ、操舵ハンドル右舷側に主機計器盤及び主機回転数を制御するスロットルレバーと前後進切替用のクラッチレバーを有する主機遠隔操縦装置がそれぞれ備えられており、また、同室前部の天井右舷寄りに舵角指示器が設けられていた。
 当時の喫水で、眼高は、約2.7メートルとなり、船橋から船首端までの距離は約17.6メートルで、操舵位置からの前方の見通しは、視界を遮るものは何もなく、良好であった。

3 大船渡港の状況
 大船渡港は、港則法の適用港で、岩手県沿岸南部に位置する大船渡湾内にあり、南東方へ向いて開いた幅約3,100メートルの湾口から北西方へ約2,300メートル入り込んだところに、津波対策用の大船渡港湾口北防波堤と同湾口南防波堤が設けられていた。そこから更に北西方へ約1,000メートル奥に入ったところで屈曲して北方へ約5,000メートル細長く湾入し、湾中央部には珊琥島があり、その北端に大船渡港珊琥島北灯台(以下「珊琥島北灯台」という。)が、同南端に大船渡港珊琥島南灯台がそれぞれ設置されていて、同島東西両側は可航幅250ないし300メートルの水路で、大型船の通航が可能であり、湾奥にJ桟橋や魚市場岸壁、公共岸壁等があり、また、湾内の一部は漁港区域となっていた。
 J桟橋は、珊琥島北灯台から340度(真方位、以下同じ。)1,130メートルのところを基点とし、そこから070度方向に突出した長さ44.5メートル幅3.0メートルの桟橋先端にこれと直角方向に設置されていて、中央部と南北両側の3個のドルフィンで構成され、各ドルフィン間に渡橋が架設され、同桟橋全長は50.0メートルであった。また、同桟橋南端の南東方170メートルのところには1個の係船浮標が設置されていた。

4 事実の経過
 太平丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、平成13年11月1日06時00分宮城県女川漁港を発し、岩手県宮古港沖合の漁場で操業して翌2日09時00分大船渡港に入港し、魚市場岸壁でさんま約30トンを水揚げしたのち、珊琥島北灯台から335度640メートルの、組合の製氷工場岸壁に移動して砕氷10.5トンを積載し、船首1.9メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、同日10時56分、48時間の休漁待機のため、同岸壁を発し、再び魚市場岸壁に向かった。
 A受審人は、船首に乗組員5人を配置して甲板作業や見張りなどに当たらせ、自ら単独で操舵操船に当たり、機関とバウスラスターを使用して離岸したのち、10時56分半珊琥島北灯台から338度680メートルの地点で、操舵室前部左舷側の遠隔操縦盤の後方に立って、針路をJ桟橋沖合に向く354度に定め、機関を極微速力前進にかけ、その後極微速力前進と機関の中立を繰り返して4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、前方の見張りを行いながら手動操舵によって進行した。
 10時57分半A受審人は、珊琥島北灯台から341度810メートルの地点に達したとき、左舷船首2度570メートルのところに、南下中の大英丸を初認し、同船が港内で給油作業に従事するタンク船であることが分かったので、同船の動向を監視したところ、その方位がわずかに右に変わっていたものの、針路が小角度で交差して衝突のおそれがある状況であったので、同船の方位の変化や接近模様に注意して続航した。
 10時58分少し過ぎA受審人は、珊琥島北灯台から342.5度910メートルの地点に達したとき、大英丸が370メートルの距離で船首を替わり、その後も互いに近距離で接近する状況であったが、方位が少しずつ右に変わっていたので、同一針路及び速力のまま進行した。
 10時59分半わずか過ぎA受審人は、珊琥島北灯台から344度1,060メートルの地点に差し掛かり、大英丸を右舷船首17度80メートルに見るようになり、両船船首が50メートルに接近したとき、突然、同船が右転を始め、11時00分少し前自船の前路に進出してくるのを認め、衝突の危険を感じ、汽笛を鳴らす間もなく、機関を全速力後進としたが、効なく、11時00分珊琥島北灯台から344度1,100メートルの地点において、太平丸は、原針路のまま、ほぼ行きあしが停止したとき、その船首が大英丸の左舷中央部に前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、大英丸は、港則法に定める雑種船に該当し、G受審人と甲板員1人が乗り組み、同日08時20分ごろA重油約105キロリットルを積載し、珊琥島北灯台から339度820メートルの係留岸壁を離れて魚市場岸壁に向かい、同岸壁に係留中の漁船4隻に順次左舷付けして合計約31キロリットルの給油を行ったのち、A重油を補給する目的で、船首0.8メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、10時54分半珊琥島北灯台から342.5度1,580メートルの漁船の舷側を発し、J桟橋基部南側の桟橋(以下「J南桟橋」という。)に向かった。
 発進時、G受審人は、船首に甲板員を配置して離岸作業と見張りに当たらせ、自ら操舵操船に当たり、大英丸が雑種船に該当することを気にしないまま、機関と舵を種々使用して漁船の舷側を離れ、右回頭して10時55分半珊琥島北灯台から345度1,580メートルの地点で、針路をJ桟橋沖合に向く165度に定め、機関を回転数毎分1,800の半速力前進にかけ、3.5ノットの速力で、操舵ハンドルの右横に立って手動操舵によって進行した。
 10時57分半G受審人は、珊琥島北灯台から345度1,370メートルの地点に達したとき、右舷船首7度570メートルのところに、北上する太平丸を視認でき、その後その方位がわずかに右に変わっていたものの、針路が小角度で交差して衝突のおそれがある状況で接近したが、前方を一瞥(いちべつ)して他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わないで、この状況に気付かないまま続航した。
 10時58分少し過ぎG受審人は、珊琥島北灯台から345度1,280メートルの地点で、太平丸の船首を替わり、その後も方位が少しずつ右に変わっていくものの、互いに近距離で接近する状況下、同船の存在に気付かず、同船の進路を避けないまま進行した。
 10時59分少し過ぎG受審人は、船首が右舷側約50メートル隔ててJ桟橋北端に並んだとき、機関を回転数毎分1,000の微速力に減じ、次いで機関を中立として続航し、10時59分半珊琥島北灯台から345度1,130メートルの地点に達し、同桟橋中央に操舵室が並航したので、J南桟橋に向かうため右転することとした。
 10時59分半わずか過ぎG受審人は、太平丸が右舷船首26度80メートルのところに接近し、このまま進行すれば、至近距離ながらも、互いに右舷を対して23メートルほど隔てて航過する態勢であったが、着岸態勢に入るため、J桟橋南端への接近方法に気をとられ、依然前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かないまま、右舵一杯としたのち機関を回転数毎分1,500の半速力後進にかけて徐々に右回頭を始めた。
 11時00分少し前G受審人は、船首が同桟橋南端の少し沖合に向いたとき舵を中央に戻して機関を回転数毎分1,000の微速力前進にかけて続航したところ、太平丸の前路に進出する状況となったが、この状況に気付かず、そのころ船首で見張りに当たっていた甲板員が太平丸の接近を手で合図したことにも気付かず、同人が操舵室まで来て「船が来た。」と叫んだのを聞き、同室外の左舷側に飛び出して左舷至近に迫った太平丸を初めて認め、慌てて同室内に戻り機関を中立としたが、効なく、大英丸は、船首が254度を向いて約2ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、太平丸は、球状船首に軽度の凹損と擦過傷を生じ、大英丸は、左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じて積載していたA重油が流出したが、のち流出油が処理されるとともに、いずれの損傷部も修理された。また、大英丸甲板員Lが、衝突時に船首部で転倒して頭部を打ち、10日間の通院加療を要する左前頭部裂創を負った。

(航法の適用)
 本件は、大船渡港において、魚市場岸壁に向けて北上中の太平丸とJ南桟橋に向けて南下中の大英丸とがJ桟橋南端付近で衝突したものであり、その適用航法について検討する。
 港則法第3条第1項に規定する雑種船とは、主として港内をその活動範囲とし、又は給油船等港内の航洋船に対する諸用途に使用され、あるいは専ら港内の交通などに供される小型の船舶と解されている。大英丸は、総トン数が19トン、全長が23.00メートルで、その活動範囲が専ら大船渡港港内に限られ、同港に入港する漁船等に補油を行う給油船であることから、雑種船と解することに問題はない。
 港則法第18条第1項において、雑種船は、港内においては、雑種船以外の船舶の進路を避けなければならないと規定されている。同規定で雑種船に避航の義務を負わせたのは、狭い港内においては、雑種船以外の船舶の操縦が雑種船と比較して困難であるから、操縦の容易な雑種船に避航の義務を認めたものであるというばかりではなく、港内を往復する小型の船舶に対し、港内の安全を期するため避航の義務を負わせ、それによって、それ以外の港内を出入する船舶に運航の便宜を与えるという趣旨からであると解される。
 したがって、本件は、港則法第18条第1項を適用し、雑種船である大英丸が雑種船以外の船舶である太平丸の進路を避けるべきであったものと解するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 太平丸
(1)A受審人が、大英丸が右転するのを認めたとき、汽笛を鳴らさなかったこと
(2)A受審人が、衝突を避けるための措置をとったが間に合わなかったこと
(3)船首部及び両舷側に設置されたブームに集魚灯が取り付けられていたこと
2 大英丸
(1)大英丸が雑種船に該当したこと
(2)G受審人が、見張りを十分に行わなかったこと
(3)G受審人が、大英丸が雑種船であることを十分に認識していなかったこと
(4)G受審人が、太平丸の進路を避けなかったこと
(5)G受審人が、太平丸の前路に進出したこと
(6)G受審人が、船首の見張り員が太平丸の接近を手で合図したことに気付かなかったこと

(原因の考察)
 雑種船である大英丸が、見張りを十分に行っていたなら、北上中の雑種船以外の船舶である太平丸に気付き、早期に同船の進路を避けることができ、そして、直前に右転することもなかったものと認められる。
 したがって、雑種船の操船に当たるG受審人が、見張りを十分に行わず、太平丸の進路を避けなかったこと及び同船の前路に進出したことは、本件発生の原因となる。また、G受審人が、大英丸が港則法に規定する雑種船であることを十分に認識していなかったことは、太平丸の進路を避けなかったことの理由となるから、これも本件発生の原因となる。
 G受審人が、船首の見張り員が太平丸の接近を手で合図したことに気付かなかったことは、衝突直前のことであり、同船を避航するのに時間的にも距離的にも余裕がなく、本件発生の原因とするまでもない。
 A受審人が、大英丸が右転するのを認めたとき、汽笛を鳴らさなかったこと及び衝突を避けるための措置をとったが間に合わなかったことは、大英丸がJ南桟橋に向かおうとして太平丸に気付かないまま、突然右転して前路に進出してきたもので、衝突直前のことでもあり、本件発生の原因とするまでもない。
 また、太平丸の船首部及び両舷側に設置されたブームに集魚灯が取り付けられていたことは、操舵室の操船位置からはこれらにより視野が妨げられるものの、身体を左右に移動することにより、前方を見通すことができることから、本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は、港則法の適用港である岩手県大船渡港において、同法に規定された雑種船である大英丸が、見張り不十分で、雑種船以外の船舶である太平丸の進路を避けなかったばかりか、その前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 G受審人は、港則法の適用港である岩手県大船渡港において、雑種船を操船し、給油のため、J南桟橋に向けて南下する場合、船首方から近距離で接近する雑種船以外の船舶である太平丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥して他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、J桟橋南端への接近方法に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、太平丸の進路を避けることなく、J南桟橋に向かおうとして突然右転し、同船の前路に進出して衝突を招き、太平丸の球状船首に軽度の凹損と擦過傷を生じさせたほか、大英丸の左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせて積載していたA重油を流出させ、大英丸甲板員に10日間の通院加療を要する左前頭部裂創を負わせるに至った。
 以上のG受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年2月26日仙審言渡
 本件衝突は、第21大英丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第六太平丸の前路に進 出したことによって発生したものである。
 受審人G小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図
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