日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 浸水事件一覧 >  事件





平成16年門審第52号
件名

押船第十八隆勝丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成16年9月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(寺戸和夫、清重隆彦、上田英夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第十八隆勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機及び同室の全機器がぬれ損、のち、都合により廃棄処分

原因
荒天のもとで錨泊する際の機関室出入口扉の閉鎖措置不十分及び錨泊措置不適切

主文

 本件浸水は、荒天のもとで錨泊する際、上甲板にある機関室出入口扉の閉鎖措置が十分でなかったばかりか、船首錨による錨泊措置をとらなかったことにより、船尾錨で錨泊中、同扉が開いて甲板上に打ち込んだ海水が機関室に流入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月13日06時00分
 山口県宇部港内
 (北緯33度54.6分 東経131度13.8分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第十八隆勝丸
総トン数 19トン
全長 13.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分750
(2)設備及び性能等
ア 第十八隆勝丸
 第十八隆勝丸(以下「隆勝丸」という。)は、昭和63年に進水した鋼製の押船で、航行区域を沿海区域とし、常時その船体を第八隆勝丸の船尾凹部にかん合して、周年山口県の日本海側及び瀬戸内海側、新北九州空港周辺、有明海などの港湾建設現場において、海砂の運搬と投下の作業に従事しており、機関室には、B社製の6G-ST型と称するディーゼル主機関のほか発電機、各種ポンプ、配電盤などを備えていた。
 隆勝丸は、船首側及び船尾側の上甲板左右舷それぞれの計4箇所に連結機を備え、連結機は、主機駆動の油圧ポンプで船内から船外に向けて油圧ジャッキを押し出すもので、同ジャッキの先端がゴム製のフランジになっており、同フランジが第八隆勝丸の船尾凹部を形成する側壁を強く圧迫して同船と一体化するほか、更に両船の互いのビットにロープを結索して運航していた。また、このことから、隆勝丸には錨は搭載されていなかった。
イ 第八隆勝丸
 第八隆勝丸は、昭和63年に建造された、総トン数988トンの鋼製の被押航式起重機船兼被押艀船(以下「バージ」という。)で、船体は、長さ53.3メートル幅15.0メートルで、貨物倉は、長さ17.6メートル幅12.0メートル深さ3.35メートルあり、船首部に最長24メートルの旋回式クレーンを、船尾部に乗組員の居住区をそれぞれ設け、空倉時隆勝丸が船尾凹部にかん合された際には、隆勝丸は、櫓の形をした操舵室をバージの船尾上甲板の上方に覗かせるのみで、同操舵室から下の船体部分はバージの甲板下に隠れる状況であった。
 なお、バージは、船首尾左右舷の4箇所それぞれに錨及びウインチを備えていたが、船首左右舷の各錨は、航行中、揺れて船体との接触を繰り返すことから、居住区前方の甲板上に移されていた。
ウ 機関室
 機関室は、船体中央にあって櫓の形をした操舵室の下方に位置し、上甲板に機関室囲壁があって、同囲壁の四隅付近に前示の連結機が、また同囲壁の左右舷中央部に機関室出入口扉がそれぞれあった。
 ところで機関室には、船首側から左舷に連結機用配電盤、同用油圧タンク、蓄電池、空気圧縮機、空気槽などが、中央に主機船首側動力取出軸でベルト駆動される油圧ポンプや発電機及び主機が、右舷に潤滑油冷却器、ビルジポンプ、清水冷却器などの各機器が設置されていた。
エ 機関室の出入口扉
 機関室の出入口扉(以下「出入口扉」という。)は、縦1.16メートル幅66センチメートルで、船首方に開く外開きのヒンジ付き鋼板製扉で、同扉を固く閉鎖できるよう機関室側となる裏面にウエッジピースを備えたロッキングハンドル、扉開閉用ドアハンドル、機関室囲壁に溶接付けされたアイピースと対で使用する施錠金具などが取り付けられていた。
 そして同扉は、ロッキングハンドル1本で風雨密に閉鎖することができ、裏面の周辺溝部にはゴムパッキンが埋め込まれていたところ、同パッキンは、経年の劣化によって硬化して弾力性を失い、多数の亀裂が生じており、ロッキングハンドルも同扉鋼板の貫通部が腐食などで摩耗が著しく、ヒンジの摩耗と相まって、閉め難く開き易い状態となっていた。
 なお、同扉は、隆勝丸が運休時には閉鎖されており、運休が長期に及ぶときには前示の施錠金具に溶接棒などを差し入れて鍵の代用とし、航行中は、機関室の換気の目的と機関室囲壁全体がバージの船尾凹部の側壁によって波や雨風から保護される形となるので、開けたままとされていた。

3 事実の経過
 隆勝丸は、平成16年1月12日21時40分、A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.30メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、石材を積み込む目的でバージが空倉のまま、関門港田野浦区の太刀浦ふ頭を発し、山口県秋穂町の草山埼と赤石鼻に挟まれた湾内に向かった。
 発航後A受審人は、単独の船橋当直にあたり、他の乗組員はバージの居住区内で休息し、主機の回転数を650rpmとして5.5ノットの対地速力で航行していたところ、西風が強まって海上が時化模様となってきたことから、夜間の目的地入港回避及び目的地での積み込み開始予定時刻08時への時間調整も併せ、翌13日00時30分山口県宇部港内において、主機の運転を停止してフィニッシュエンジンとし、バージの船尾左舷側の錨1個を投下して船首を北東に向けた態勢で錨泊を始めた。
 このときA受審人は、更に風が強まってきたことに加え、テレビの気象情報から天候がますます悪化することや、風が強まれば船尾から強風浪を受ける状況となることを予測できたが、錨泊中の荒天対策として、機関室囲壁の天窓及び出入口扉を閉めたものの、入手情報程度の荒天であればいつもの荒天対策で大丈夫と思い、施錠金具、ロッキングハンドル及びドアハンドルをワイヤロープ類で固縛するなどして、同扉の閉鎖措置を十分に行わなかったばかりか、船首が風上に立つよう、船首側の錨を準備して投下する措置をとらなかった。
 こうしてA受審人は、バージの船尾左舷側の錨1個を投錨し、強い西風を受けながら船首が北東に向いた状態で、錨泊当直及び定期的な巡検の各要員を定めないまま、全乗組員をバージで就寝させ、13日04時抜錨予定時刻を迎えた頃、風が一層強まっていることを知り、目的地への航行を見合わせてそのまま錨泊を続けた。
 隆勝丸は、その後も天候の更なる悪化とともに左舷斜め後方から強い風波を受け続け、やがて船体の動揺や波浪の衝撃で左舷側出入口扉のロッキングハンドルが緩み、同扉が開いたままの状態となり、波が直接機関室に流入することに加え、バージの側壁に当たった波も跳ね返りながら機関室に流入するところとなり、06時00分宇部岬港沖防波堤東灯台から245度1.8海里の地点において、起床した甲板員が、バージの船尾が大きく沈んで隆勝丸の機関室が浸水していることを発見した。
 当時、天候は曇で風力6ないし7の西風が吹き、海上には1.5ないし2.0メートルの波高があった。また、山口県西部には、12日16時55分強風波浪注意報が、翌13日03時10分暴風警報及び波浪注意報がそれぞれ発表されていた。
 連絡を受けたA受審人は、隆勝丸に急行したところ、左舷側の出入口扉が開いたままとなっていること、機関室が同扉の下縁付近まで浸水し、主機及び同室の全機器が冠水してぬれ損しているのを認めた。
 13日17時A受審人は、バージの錨を船尾左舷側から船首右舷側に変更し、翌14日06時天候の回復を待ってバージのバラストを排水して隆勝丸を浮上させ、機関室の海水を水中ポンプで排水後、隆勝丸及びバージは、13時30分タグボートによって発航地の太刀浦ふ頭に引き付けられたが、のち、隆勝丸は都合により廃棄処分とされた。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、業者に依頼するなどして、出入口扉の整備を十分に行っていなかったこと
2 出入口扉を閉めて錨泊を開始するとき、A受審人が、施錠金具やロッキングハンドル及びドアハンドルを利用して、同扉をワイヤロープ類で固縛するなど、同扉の閉鎖措置を十分に行っていなかったこと
3 A受審人が、投錨の際、船体が常に船首から風を受けるよう、バージ船首側の錨を使用するなどして、投錨措置を適切に行わなかったこと
4 荒天下での錨泊中、A受審人が、錨泊当直要員や定期的な見回り要員を適宜配置していなかったこと
 
(原因の考察)
 本件は、荒天強風のもとで錨泊中、機関室出入口扉が開き、甲板上に打ち込んだ海水が、同扉から機関室に大量に流入したことによって発生したもので、その原因を考察する。
 本件は、機関室出入口扉が開いたままとならなければ発生しなかった。そして、同扉が荒天のもとでも開いたままとならない最も有効且つ容易な措置は、同扉と機関室囲壁に溶接付けされている施錠金具、同扉のロッキングハンドル及びドアハンドルを、ワイヤロープ類で固縛することであった。これにより、出入口扉のロッキングハンドルが緩んでも、同扉が開くことはなく、開いたままになることもなかった。
 従って、荒天強風のもと錨泊を開始するにあたり、出入口扉を閉める際、前示の方法で同扉を固縛するなどして同扉の閉鎖措置が十分に行われていなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、機関室出入口扉が開いたままとなったとしても、船首が常に風上に立っておれば、隆勝丸は、バージの船体によって風浪から遮蔽される形となるので、機関室への海水の浸水は極わずかの量にしかならなかったと思われる。
 従って、荒天強風のもと錨泊を開始するにあたり、バージの船首錨を準備して投下する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 出入口扉の整備が十分に行われていなかったことと、錨泊当直及び巡検要員の配置が行われていなかったことについては、いずれも本件浸水に至る過程で関与した事実であるが、本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件浸水は、宇部港内において、荒天のもとで錨泊する際、機関室囲壁にある風雨密の出入口扉の閉鎖措置が不十分であったばかりか、船首錨による錨泊措置をとらなかったことにより、夜間船尾錨で錨泊中、船体の動揺や波浪の衝撃で機関室出入口扉のロッキングハンドルが緩み、同扉が開放状態となり、甲板上に打ち込んだ海水が機関室に流入したことによって発生したものである。 
 
(受審人の所為)
 A受審人は、宇部港内において、荒天のもとで錨泊する場合、船体の動揺や波浪の衝撃などによって、機関室囲壁にある風雨密の機関室出入口扉のロッキングハンドルが緩んで同扉が開いたりすることのないよう、同扉と同囲壁に溶接付けされている施錠金具や、ロッキングハンドル及びドアハンドルをワイヤロープ類で固縛するなどして、同扉の閉鎖措置を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、入手情報程度の荒天であればいつもの荒天対策で大丈夫と思い、同扉の閉鎖措置を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、船体の動揺や波浪の衝撃で同扉が開放状態となり、上甲板に打ち込んだ海水が機関室に流入して同室が浸水する事態を招き、主機、発電機、空気圧縮機、配電盤など機関室の全機器がぬれ損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION