(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月11日10時10分
愛知県知多半島西岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二鐺栄丸 |
総トン数 |
2.74トン |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
20 |
3 事実の経過
第二鐺栄丸(以下「鐺栄丸」という。)は、昭和52年7月に進水した、貝けた網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板の中央部に操舵室及び同室船尾側に揚網機、上甲板下の船首側から順に前部物入れ、魚倉、機関室、後部物入れ、船底右舷側にプロペラ及び舵点検用丸窓(以下「丸窓」という。)を有する区画並びに貝けた網漁に用いられる原動機駆動の水流噴射用ポンプ区画がそれぞれ配置されていた。そして、上甲板下船尾側の後部物入れ、丸窓を有する区画及び水流噴射用ポンプ区画の各隔壁には、いずれも直径12センチメートル(以下「センチ」という。)の開口部があり、後部物入れ船底の吸引口に接続された外径10センチのスプリングホースの水流噴射用ポンプ吸引管が同開口部を貫通していたほか、機関室後部の隔壁をプロペラ軸が貫通していた。
ところで、丸窓は、水密構造のもので、直径20センチの窓穴が高さ50センチ、30センチ四角形のコーミングによって囲まれており、閉鎖するときには、ガラス枠を窓穴に嵌めて(はめて)から同枠の取付ボルト4本の各ちょうナットを締め付ける手順になっていた。
A受審人は、昭和54年以降、漁船に乗り組み、同60年12月一級小型船舶操縦士の免許を取得しており、あさりやとりがいの採貝漁期の操業開始に備えて船底を塗装することとし、平成16年5月10日愛知県鬼崎漁港榎戸地区の船揚場に鐺栄丸を上架してビルジを排出するために丸窓のガラス枠を取り外し、その後同枠を窓穴に嵌めたまま、船底の掃除を行った。同受審人は、翌11日朝船底の塗装後に船揚場から下架する際、既にガラス枠のちょうナットを締め付けたものと思い込み、丸窓の閉鎖確認を十分に行わなかったので、同ナットを締め付けていないことに気付かず、同枠を窓穴に嵌めただけで海面に降下し、同穴から浸入した海水がコーミングを超えないまま、浮上させていた。
こうして、鐺栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、回航の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日10時00分鬼崎漁港榎戸地区を発し、同漁港蒲池地区に向けて4.5ノットの対地速力で航行中、丸窓の窓穴から吹き上げた海水がコーミングを超える状態となり、上甲板下船尾側区画の各隔壁の前示開口部及びプロペラ軸貫通部を経て機関室に浸入したことから、10時08分同受審人が異状に気付いて機関のクラッチを中立としたものの、船尾方に傾斜して同室の浸水量が増加し、10時10分鬼崎港北防波堤灯台から真方位349度630メートルの地点において、船尾が著しく沈下した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ満潮時であった。
浸水の結果、鐺栄丸は、僚船の来援を得て鬼崎漁港蒲池地区に引き付けられたが、機関のほか、水流噴射用ポンプ駆動原動機等が濡損し、老朽化などにより廃船となった。
(原因)
本件浸水は、船揚場から下架する際、丸窓の閉鎖確認が不十分で、ガラス枠のちょうナットが締め付けられないまま、航行中、窓穴から吹き上げた海水が上甲板下船尾側区画を経て機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、船底の塗装後に船揚場から下架する場合、ビルジを排出するために丸窓のガラス枠を取り外したのであるから、海水の浸入することがないよう、同窓の閉鎖確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、既にガラス枠のちょうナットを締め付けたものと思い込み、丸窓の閉鎖確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同ナットを締め付けていないことに気付かず、同枠を窓穴に嵌めただけで航行中、同穴から吹き上げた海水が上甲板下船尾側区画を経て機関室に浸入する事態を招き、機関のほか、水流噴射用ポンプ駆動原動機等を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。