(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月22日17時50分
山口県角島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船宝神丸 |
総トン数 |
16トン |
登録長 |
16.26メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
433キロワット |
回転数 |
毎分1,900 |
3 事実の経過
宝神丸は、昭和50年7月に進水したFRP製漁船で、平成7年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が、同年8月中古で購入したのち、周年いか釣り漁に従事し、主な漁場を山陰沖として島根県西部及び山口県北部や西部の港で水揚げを行い、午後発航して夕刻から操業を始め、翌早朝帰航する航海を繰り返しており、主機として、B社製のS6A3-MTK型と称するディーゼル機関を備え、主機の年間運転時間は、3,000ないし3,500時間であった。
宝神丸は、操舵室の船尾側に乗組員居住区があり、同居住区の前部下方で機関室の後方上部にあたる場所に、集魚灯用の安定器室が設けられ同居住区から安定器室の下方にかけてプロペラ軸が伸びていた。
船尾管の軸封装置(以下「軸封装置」という。)は、C社製のTSS型(商品名TWシールスタン)と称する海水潤滑式で、安定器室のほぼ真下あたりに位置する船尾管及びプロペラ軸に取付けられており、同装置の点検は、安定器室床板にある出入口蓋を開けて行うようになっていた。
軸封装置は、ステンレス製のシールリングが、ウェッジリングによって軸径85ミリメートル(以下「ミリ」という。)のプロペラ軸に固定され、シールリングのセラミック部をしゅう動面として、船尾管に固定されたダイアフラムのシートリングとの接触面で海水を密封する端面シール構造となっており、ウェッジリングをプロペラ軸に固定するウェッジリング締付ボルト(以下「締付ボルト」という。)は6本で、同ボルトは、ねじの呼びM6ねじ部の長さ20ミリばね座金付きで、パッキン押えを保持している2本のスタッドボルト及びナット(以下「スタッド」という。)は、ねじの呼びM12全体の長さ約90ミリであった。
また、軸封装置は、パッキンボックス内に3本のグランドパッキンを内蔵し、前示の端面シールが損傷した場合には、スタッドのナットを締め込んでパッキン押えを働かせ、同パッキンによって海水を密封することができた。なお、同装置への海水は、主機の逆転減速機用潤滑油冷却器の冷却海水出口側から供給されており、シール部から僅かに漏れて滴下した海水は、隔壁の下部に開けた小孔を経て、機関室のビルジ溜まりに溜まるようになっていた。
ところで、機関室のビルジは、同室に設置されているビルジポンプで排出され、同ポンプは、通常自動運転にセットされてビルジ溜まりに一定の量が溜まると運転を開始し、吸入圧力が負圧になると自動停止するようになっていた。
そしてA受審人は、発航から帰航までの間に一度は手動で運転を行い、ビルジ排出完了までのポンプ運転時間の長短によって、ビルジの溜まる量の多少を推測していた。
A受審人は、宝神丸を購入後主機や軸封装置の開放整備及びプロペラ軸の抽出を実施したことはなく、機関関係に異状が発生すればその都度業者に修理を依頼しながら操業を繰り返していたところ、平成11年同装置のスタッド1本が脱落しているのを見付けたものの、漏洩などの異状がなかったことからそのまま同スタッドを復旧したが、その後機関室ビルジの量に顕著な増加傾向が見られなかったことから、同装置に不具合は生じていないものと思い、船舶検査のときなどに同装置の点検を十分に行わなかったので、やがて船体の動揺やプロペラ軸回転の振動によって、同スタッドがねじの摩耗で再び緩み始め、パッキン押えが動いてシールリングを叩くようになり、同時に締付ボルトも緩み始めたことに気付かないまま運航を続けていた。
こうして宝神丸は、平成15年7月22日14時00分A受審人が単独で乗り組み、操業を目的として船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水で山口県湊漁港を発し、主機の回転数を毎分1,400に定め9.5ノットの対地速力で同県角島沖合の漁場に向けて航行し、同漁場に到着する少し前、軸封装置のスタッド全2本及びパッキン押え並びに締付ボルト5本更に非常用パッキン全3本が脱落し、ウェッジリング及びシールリングが船首側に移動して同装置のシール機能が失われ、海水が著しく漏洩し始めた。
宝神丸は、17時30分漁場に至り、主機を停止回転として操業の準備作業に着手していたとき、操舵室で充電用発電機の警報ランプが点滅し、同室に居たA受審人は、ランプの点滅に気付いて機関室に急行したところ、17時50分角島北方沖合の北緯34度40分東経130度39分の地点において、大量の海水で機関室が浸水しているのを認めた。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
その結果、宝神丸は、主機及び発電機などがぬれ損したことから操業を中止して救助を求め、20時50分来援した巡視船及び巡視艇の乗組員の助力を得て処置にあたり、脱落していた各部品を回収して仮復旧を行い、その後、巡視艇や僚船に引かれ、翌23日04時30分山口県仙崎漁港に引き付けられた。
(原因の考察)
本件は、軸封装置から大量の海水が漏洩して機関室に流入し、同室が浸水して主機や発電機がぬれ損したもので、その原因について考察する。