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平成16年広審第49号
件名

モーターボートエーエヌオー1運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年8月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:エーエヌオー1船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
航行不能

原因
気象・海象の情報収集不十分、発航を中止しなかったこと及び避難の時機を失したこと

裁決主文

 本件運航阻害は、気象海象の情報収集が不十分で、発航を中止しなかったばかりか、避難の時機を失したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月2日04時30分
 広島湾
 
2 船舶の要目
船種船名 モーターボートエーエヌオー1
全長 3.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 9キロワット

3 事実の経過
 エーエヌオー1(以下「エー艇」という。)は、和船型軽合金製モーターボートで、A受審人(平成2年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、夜釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、平成16年4月1日18時00分山口県岩国港門前川河口右岸の係留地を発し、同港今津川河口の釣り場に至って釣りを始めた。
 ところで、発航当日から翌2日にかけての気象概況は、西日本全般が移動性高気圧に覆われ日中は晴れるが夜には下り坂に向かう状況で、翌日は西日本南岸を前線を伴った低気圧の通過で全般に昼頃まで雨が降ることが予想される状況であった。下関地方気象台は、山口県東部岩国地方等に同1日10時58分強風乾燥注意報を発表し、20時01分強風波浪注意報に翌2日08時55分強風波浪乾燥注意報にそれぞれ切り替え、また岩国地域気象観測所は同1日22時から翌2日04時まで降水量を観測した。
 ところが、A受審人は、それまで岩国港沖で釣りを行ったこともなくまた夜釣りも初めての経験であり、したがって夜間における波浪状態の判断も難しくしかも自船は乾舷が低く喫水も浅いので多少の波浪でも船内に海水が打ち込み易いにもかかわらず、発航当日15時00分ごろテレビの天気予報により当夜半から雨との情報を得ながら風波が強くはならないと思い、その後テレビやラジオ更に携帯電話等を利用するなどして安全航行の条件である気象海象の情報収集を十分に且つ継続して行わなかったので、すでに発航時には強風乾燥注意報が発表されていたことも、夜半から天候が崩れる状況であったことも知り得ず、発航を中止せずに予定どおり釣り場に向かい、18時40分岩国港今津川河口の釣り場に至って釣りを始めた。
 その後、22時過ぎA受審人は、釣り場を同河口北方沖に移動して釣りを続けていたが、依然として携帯電話を利用するなどして気象海象の情報収集を継続して行わなかったので、天候悪化の兆しを知り得ず、避難時機を失したまま釣りを続けた。翌2日02時30分ころようやく雨と西寄りの風が強まるようになって帰航することにした。
 こうして、02時30分A受審人は、岩国港今津川河口北方沖にあたる岩国港B灯浮標から312度(真方位、以下同じ。)2,000メートルの地点を発進し、発航した門前川河口の係留地に向けて帰途に就き、岩国米軍駐留基地沖の航行禁止区域を迂回するようにその沖側を南下した。そして03時30分同区域南端の岩国港D灯浮標を至近に付け回して船首を門前川河口に向く308度に転じ、更に風勢が強まり南西の風波を船尾方から受けながら機関を半速力前進にかけて進行した。しかし船内に海水が打ち込むようになり、溜った海水を排出しながら機関を種々減速して続航し、04時30分岩国港D灯浮標から308度2.4海里の地点において、エー艇は、門前川河口左岸に任意乗り揚げて運航を継続することができなくなった。
 当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、波高は約1.0メートルで、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、船体は、ほとんど損傷を生じなかったものの、航行不能による運航阻害に陥った。 

(原因)
 本件運航阻害は、夜間、山口県岩国港今津川河口付近において、小船を使って釣りを行う際、安全航行の条件である気象海象の情報収集が不十分で、発航を中止しなかったばかりか、釣り場での避難時機を失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、山口県岩国港今津川河口付近において、小船を使って釣りを行う場合、小船は乾舷が低く喫水も浅いため多少の波浪でも船内に海水が打ち込み易いから、発航に先立ってテレビやラジオ更に発航後も携帯電話等を利用するなどして安全航行の条件である気象海象の情報収集を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発航当日午後のテレビの天気予報概況で夜半から雨との情報を得ながら風波が強くはならないと思い、その後のテレビやラジオ更に発航後携帯電話等を利用するなどして安全航行の条件である気象海象の情報収集を十分に行わなかった職務上の過失により、発航前すでに山口県東部に強風注意報そして発航後には強風波浪注意報に切り替え発表されたことを知り得ず、発航を中止しなかったばかりか、釣り場での避難時機を失し、天候悪化後の避難中に波浪の打ち込みを招き、航行不能となって運航阻害に至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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